2021年12月13日 10:21 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第2回は「不動産を共有で買ってはいけない!」です。最近は不動産の価額が高騰しており、夫婦で住宅ローンを借りる「ペアローン」を検討している方もいるかもしれませんが、中村弁護士は「大きな落とし穴になりうる」といいます。
前回、本コラムにおいて、「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」として、「義父母の土地の上に家を建てる」というのをご紹介しました。今回は、2つ目の注意すべき事項をお伝えします。
結婚した夫婦が絶対にやってはいけないことその2として、「不動産を共有で買う」ことがあります。
よくある例としては、いわゆるペアローンによって夫婦ともに住宅ローンを組み、家を購入するというものです。最近は、共働き夫婦が増えてきたため、夫婦ともに安定した収入があるケースも少なくなく、どちらも住宅ローンを組むことができます。
例えば、夫も妻も年収400万円で、住宅ローンを組める上限額がそれぞれ3000万円ずつだった場合に、1人の住宅ローンでは3000万円の家までしか買えません。しかし、2人とも住宅ローンを組めば6000万円の家まで買えるということで、よりグレードの高い家を購入することが可能になります。そのため、ペアローンを組んでグレードの高い家を買うというケースがよくあります。
また、二世帯住宅のように、実父母または義父母とお金を出し合って家を買い、一緒に住むということもよくなされています。二世帯住宅も、お金を出し合うことによって、広くてグレードの高い家に住めるようになるので、広く用いられています。
これらは、1人では買えなかったような家を買えるようになるということで、素晴らしい方法のように思えます。しかし、これが大きな落とし穴になりうるのです。
住宅ローンは、基本的に、ともに今ある収入が長期間(通常は最長35年)続く前提で組まれています。しかし、数十年もの長期間の間、収入に一切変動がないという前提に立つのは極めて危険だと思います。
よくあるのは、出産を機に、産休・育休を取ったことで、収入が相当額減ることがあります。育児休業を取得した場合、育児休業給付金が支給されますが、育児休業開始から6カ月までは休業前の賃金の約3分の2、6カ月経過後は半分になります(ただし、社会保険料の支払いが免除されることもあって、手取りはそこまで下がらないこともあります)。
また、職場復帰後も、すぐにフルタイムで働けるとは限らず、時短勤務などを実施すればその分給与は下がりますし、今まで残業できていたのが残業できなくなって残業代がなくなってしまうかもしれません。そうすると、相当程度収入が下がります。
また、例えば30歳のときに35年ローンを組んだ場合、返済完了時は65歳になりますが、現状、60歳で定年になる会社が多く、再雇用ができるとしても、収入は半減するなど大幅に減収となるケースが多いです。
退職金をあてにされている方も多いと思いますが、戸建て住宅だと修繕が必要になり相当の金額がかかることも多く、退職金でそれらを充てるということも少なくありません。そうでないとしても、老後生活のための貴重な資金源である退職金をそこまであてにすることもできません。
その他にも、一方がリストラにあった、転職をして収入が下がった、病気や事故により今までどおり働けなくなったなど、様々なリスクがあります。2人のうちどちらかがなるリスクは、当然のことながら1人の場合よりも高くなります。また、子どもの教育費などがかさんで、以前よりも支出が多くなるということもあります。
このように、一方に大幅な収入減があった場合、他方の収入でそれを補わなければなりません。しかし、自分1人であれば組めなかったような高額な住宅ローンを、相手の分まで返済していくのはかなり重い負担となり、生活がかなり苦しくなります。
もし、夫婦仲が悪化して別居することになってしまった場合、自宅を売ってローンを完済できるならいいのですが、一方が住み続けて他方は住宅ローンだけ払わされ続けるという事態が発生する可能性があります。
住み続ける方に払ってほしいと思っていても、月々の返済額が1人では抱えきれないくらい高額なことが多く、現実的ではないケースも多いです。そのため、一方が泣く泣く住宅ローンを支払い続けることになるケースもよく見かけます。
また、離婚する場合も、同様に処分に困ります。一方が住み続けることを希望した場合、他方から買い取って欲しいところですが、1人では抱えきれないくらい高額なケースも多いため買い取ることはできず、結果的に他方は離婚してもしばらくは住んでもいない住宅のローンを支払い続けなければならない事態に陥ります。
なお、住宅がいわゆるオーバーローンになっている場合(住宅を売却しても住宅ローンを完済できない場合)は、本人達の希望にかかわらず、しばらく売却することができないかもしれません。
また、二世帯住宅の場合、夫婦と同居する実父母または義父母との関係が悪化するリスクがありますが(親子関係悪化のリスクについては前回のコラムと同様ですので割愛します)、仮に悪化して住宅を売却処分してそれぞれ別で住みたいとなった場合、二世帯住宅は、かなりの広さがあるのが通常なので、売却代金は高額になりがちです。
そのような高額な家を購入できる人は限られるため、かなり値引きをしないと売れないということがよくあります。また、基本的には二世帯住宅を希望する人が買主になると思いますので、この意味でもかなり限られた人だけになります。
さらに、不動産が共有の場合、共有者の1人が売却処分に反対していると、売却することができません。そのため、売却処分したくても、共有者の1人が反対している状況だとなかなか進まないということがあります。夫婦で共有していたら夫婦の一方が、親も共有者に入っていたら親の1人が反対していた場合などに難航します。
上記と矛盾するようですが、不動産を勝手に処分されてしまうことがあります。つまり、1つの不動産としては、共有者の1人が勝手に処分することはできませんが、自らの共有持分権だけは共有者の1人が勝手に処分することができてしまうのです。
例えば、2人で2分の1ずつの共有持分権を有していた場合、自らの2分の1だけ売ることはできてしまいます。
もちろん、2分の1だけ売却されても、自分も共有持分権者ですから、不動産を使用することはできます。しかし、2分の1の共有持分権を買った人にも使用させなければなりません。全く無関係の第三者から、自分の自宅を使わせろと迫られてしまうのです。
普通の人は、赤の他人の自宅不動産を2分の1ずつ共有したいとは思わないでしょう。そのような共有持分権でも買い取るという人は、普通ではない人達ということになります。
共有持分権を売却する際は、完全な所有権ではなく、一部の共有持分権に過ぎませんから、通常は売却価格を買い叩かれます。その上で、買主から他方の共有者に、自分も共有持分権者だから、その不動産を使用させてくれ、という請求が来る可能性があります。それを避けるためには、その人の共有持分権を買い取るか、不動産全部を売却してお金で分けざるを得ません。その場合の買取価格は、通常よりも高くされてしまう可能性があります。
私が過去担当した案件でも、自宅不動産の共有持分権を共有者の1人が勝手に業者に売却してしまったというケースがありました。家族で不動産を共有していたところ、夫婦喧嘩をきっかけに夫婦の一方が飛び出し、自分の共有持分権だけ不動産業者に売却してしまったのです。その後、残された他の家族が、その業者からその共有持分権を通常よりも高い価格で買い取らされてしまいました。
共有で不動産を持つ、というのは、そのようなリスクを抱えることにもなります。
そもそも、ペアローンを組んだり、二世帯住宅で住宅を建てたりするのは、「1人じゃ買えないような物件を買うため」ということが多いです。
しかし、1人じゃ買えないような家を買ってしまったら、何かあったときにすぐ苦しくなることは当然のことです。1人じゃ買えないような家を無理に背伸びして買うのではなく、余裕を持った予算で買うことをお勧めします。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://naka-lo.com/