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ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」関口裕一編 漫画家への感謝の念を抱く作品たち

2021年12月12日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ポーの一族 秘密の花園』

■2021年コミック・ベスト10(関口裕一)


1位 『ポーの一族 秘密の花園』萩尾望都(小学館)
2位 『ルックバック』藤本タツキ(集英社)
3位 『JUMBO MAX~ハイパーED薬密造人~』高橋ツトム(小学館)
4位 『ダンダダン』龍幸伸(集英社)
5位 『北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝』武論尊・原哲夫/倉尾宏(コアミックス)
6位 『フットボールネーション』大武ユキ(小学館)
7位 『怪獣8号』松本直也 (集英社)
8位 『怪獣自衛隊』井上淳哉/企画協力:白土晴一(新潮社)
9位 『fish -フィッシュ-』三宅乱丈(KADOKAWA)
10位 『逃げ上手の若君』松井優征(集英社)


関連:ランクインした作品


■ふつうに選んだら『ルックバック』しか勝たない状況


 2021年の私的マンガベスト10を選んでみた。リアルサウンドブックでは『キン肉マン』や『刃牙』シリーズの記事ばかり書いているけれど、他の漫画も読んでいるということをご理解いただきたい(笑)。選考の基準は、「この漫画を読めたこと、作者が描いてくれたことに感謝」という部分を重視した。


 今年はふつうに選んだら『ルックバック』しか勝たない状況であることは間違いない。この作品に関しては散々語り倒されてきているので、いまさら私が書くこともないのだが、素直にこの作品に巡り会えたこと、藤本タツキという才能を存分に発揮する場所を提供してくれたマンガアプリ「少年ジャンプ+」に感謝である。


 それぞれの作品に対して語っているとキリがないので、この中でも特に意味合いの異なる、感謝の気持ちを覚えた2作について語ろうと思う。まずは6位の『フットボールネーション』。アマチュアチームが世界基準で通用する体の使い方を身につけた選手を集め、天皇杯でジャイアントキリングを続けて勝ち上がっていくというサッカー漫画だが、実はこの作品、作者が大病を患って2020年8月から1年ほど休載をしていたのだ。


 漫画は作者あってのものであり、ふだん何気なく、当たり前のように読んでいる作品も、いつなんどきそれができなくなるかは分からない。大武先生が病をいったん乗り越えたこと、そして連載を再開してくれて続きが読めることに感謝の意を表しての6位である。


※以下、ネタバレを含む箇所がございます。


 そして1位の『ポーの一族』。これは2021年の漫画界最大の衝撃だった萩尾先生の著書『一度きりの大泉の話』もあわせての順位である。誰しもが認める天才・萩尾望都。少女漫画界に確固たる金字塔を打ち立てた竹宮惠子。2人の巨匠が若かりし頃、大泉で寝食を共にしていたのは有名な話だ。


 その二人の(正確には三人で住んでいたのだが)居住地は「大泉サロン」と呼ばれ、少女漫画版トキワ荘として語り継がれてきた。その頃にあった話を、萩尾先生が自身の経験、記憶、印象として語ったのが『大泉の話』であった。


 正直、これを読んでいろんな感情が沸き起こって涙が止まらなかった。断片的な情報しか知らなくてあまりにも無知だった自分の愚かさに、萩尾望都という巨人の、そのあまりにも天才すぎる感覚に、そして萩尾先生がそんな状態になりながら『小鳥の巣』をはじめとした作品を描いていたことに。なにより、それでも漫画を描くことが好きで、筆を置かずに今日現在も描き続けてくれていることに。


 私はリアルタイム世代ではないので25年ほどのスパンであったが、漫画を愛する人間として、またこうして現代で萩尾先生が描く「ポーの一族」の最新作を読めること、読み続けることができること、そんなに幸せなことはない。当時とは線が変わってもエドガーはエドガーだし、2016年時点でもまだエドガーが生きていて、しかも「エディス」の時点で完全に消滅していたと思っていたアランの亡骸を抱え、アランを生き返らせようとしているなんて……。


 この先、萩尾先生がいつまで描いてくれるかも分からない、いつまで新作を読むことができるかも分からない。そもそもずーっと前に描くのを辞めていたかもしれない。そこまで追い込まれていた。ならば今こうして萩尾先生の漫画を読める、漫画界でもだいぶ少なくなってきた現人神の一人の作品が読める、そのこと自体に感謝するしかない。あの本を読んだら余計にそう感じる。


 2021年も素晴らしい漫画の数々に巡り会えたこと、多くの作家先生方が素晴らしい作品を提供してくれたことに感謝。来年も一つでも多くの素敵な作品、才能と巡り会えることを祈って、また作家の皆様が健康で作品を描き続けられることを祈って、私的ベスト10を締めくくる。