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【実録】VS義母~終わらない戦い~ 第23回 感染性胃腸炎が家族5人を襲うとき、義母が目にしたもの

2021年12月11日 10:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「家族全員が胃腸炎にかかったとき」の話をお届けしよう。


○胃腸炎は突然に



その日、お義母さんは張り切っていた。



義実家のグループLINEは朝から、「そろそろ、しし座流星群の活動がピークになる」という話題で持ち切りだった。「見えるかどうかは怪しいけど、ぜひ孫ちゃんたちにも話をしてあげてね」と私も話を振られた。



その日、私はてんぱっていた。



直前まで元気にしていた次男が、いきなりしくしくと泣き出し、直後に吐いた。思い出されるのは、保育園の掲示板に載っていた『感染性胃腸炎が流行っています』の手紙だ。

きた、ついにこの時期がきた。



私は少し前まで冬が好きだった。独身の頃、出張に行く時などはまだ日も出ないうちにマフラーを巻いて外に出る。吐く息は白く、肌を刺すような空気に肩をすくめてバス停まで歩く、あの風景が好きだった。



そんな情景を思い出し「ふふ、冬って本当に素敵」などと感慨に浸っていたのも今は昔だ。子どもが産まれた今、冬は恐ろしい胃腸炎の季節だ。何度経験しても完全に家庭内感染を食い止めるのは難しい、あの憎きウイルスが今年も我が家にやってきた。



次男はその後、上から下から大変なことになった。私はそのたびに使い捨てのエプロンとマスクとポリ手袋で嘔吐物処理のキットを使って処理をするのだが、その装備が間に合わないほど家が汚れるペースが早い。経口補水液を飲ませると吐くのだが、それでも水が飲みたいと泣く次男。それを不思議そうに見ながら私に抱っこを求める三男。「次男、何かほしいものがある?」と言って、何度離れるように言っても世話を焼きたがる長男。最初から感染を防ぐなど無理な話だったのだ。まもなく三男がダウンした。お義母さんから電話が来たのはそんな時だった。



「しし座流星群が今日の未明にピークだそうよ!」



事情を知らないのだから、そのテンションもやむを得ないが、さすがに今日優雅に夜空を見上げて子どもたちに星座の話をしてあげられる余裕はない。



「実は次男と三男が胃腸炎になりました。また元気になったら話してみます」



「あら、残念」と言って電話は切れた。胃腸炎を知らない世界で育ったのだろうか。どうやったらそのリアクションに辿り着くのか逆に聞きたい。



その日の夜、長男も倒れた。嘔気が突然来るらしく、そばに置いた洗面器が間に合わない。終わった。私の中の大和田常務が言っている……「おしまいdeath」と。

○お義母さんの心配事



お義母さんにも、もしかしたら心配をかけているかもしれないと思い、昼過ぎにメールを入れた。



「子どもたち全員が胃腸炎になりました。しばらく連絡できません」



夫は出張で明日の夜にしか帰ってこない。最後の砦である私が倒れるわけにいかなかった。



夕方、ようやく吐き気止めの座薬が効いてきたのか、三男が寝始めた。私も少し横になろうと思ったら、お義母さんから電話があった。現状報告をしろと言うことか? 申し訳ないが今はその時間すら惜しい。どう断ろうか考えて電話に出る。



「今近くのビルの屋上にいます!」

ザワザワとした喧騒に混じってお義母さんの甲高い声が聞こえてくる。



「部分月食!」



そういえば義実家のグループLINEが、しし座流星群の次にそんな話で盛り上がっていた気がする。



「今始まっているわよ!」



「次は65年後らしいから今孫ちゃんたちに見せて!」



いや、だから、という言葉を飲み込んで「全員疲れてようやく今寝たので無理です」と言った声が思いの他低かったのか、お義母さんのご機嫌も少し下降気味になった。



「あら、これを逃したらもう見れないのよ?」



どういう生き方をしたらここで食い下がれるのか。なんとしても孫たちに月食を見せたいという確固たる意志を感じる。しかし無理だ。現場を見れば分かるが、この惨状は筆舌に尽くしがたい。



それに65年後なら子どもたちはまだチャンスがあるかもしれない。お義母さんは死んでますが……なんて言えないが、とにかく今は空を見上げる元気がないことを告げる。電話を切り再度横になっていると、今度はLINEが来た。



「雲がかかったり、雲の切れ間から見えたりしています。諦めずに待つことにします」



「今さっきほとんど消えました」



「また少し出てきました」



「もとどおりの月です」



「貴重な経験をさせてもらいました」



まさかの実況を始めていた。LINEの最後はこう締められている。



「時系列で分かりやすく連絡をしたつもりです。子どもたちが元気になったら、『何時にこうだった』という説明を秋山ちゃんからしてあげてくださいね」



まさかの後日読み聞かせ用の記録だった。怖くなって無視した。



その後、無事に私も感染し、入れ替わりで看病にあたった夫も敢え無くトイレの神様になった。この瞬間ほど、家にトイレが2つあって良かったと思うことはない。あの、全身が冷えて胃の奥が燃えるような感覚は、何度経験しても本当に怖い。



後日、義実家に「全員快方に向かっています」と連絡を入れようと思ったが、グループLINEは「ふたご座流星群の活動がピークだそうです!」という話題で持ち切りだった。うちも少し前までノロウイルスの活動がピークだったが、誰も興味なさそうだった。まあいいか、と思い特に連絡はしなかったが、今現在特に何も言われていない。



その日の夜、5人で素うどんを食べて「元気になって良かったね」と労わり合った。家族の絆は深まった。



秋山 あきやま 3人の男の子を子育て中のワーキングマザー。Twitter では、強烈な義母のとんでも発言やかわいい子どもたちの様子を綴り、人気を集めている。衝撃の義母エピソードをまとめた著書「義母ダンジョンにハマっています。」 販売中。 この著者の記事一覧はこちら(秋山)