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2022年全日本ロード筑波大会でST1000、ST600が開催されない理由

2021年12月10日 12:30  AUTOSPORT web

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2021年全日本ロード第4戦筑波 ST1000 レース1 オープニングラップ
11月15日、2022年シーズンにおける全日本ロードレース選手権シリーズの暫定カレンダーの更新版が一般財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)から発表された。そのなかで第5戦筑波大会はST1000、ST600が開催されず、J-GP3と併催のJP250のみ行われることが明かされた。なぜそのような判断が下されたのかMFJ、筑波サーキットなど、関係者に取材を行った。

 全日本ロードの筑波大会は、2013年を最後にJSB1000が開催されなくなった。近年は、JSB1000を除き『J-GP2、ST600、J-GP3』の3クラスが開催されたが、600ccのJ-GP2が廃止され1000ccのST1000が新設されたこともあり、今年は『ST1000、ST600、J-GP3』と久しぶりに1000ccクラスのレースが復活した。

 しかし、2022年はJSB1000に続き『ST1000とST600』も開催がなくなり、『J-GP3と併催のJP250』のみ行うとMFJが明らかにした。

 その理由は、筑波サーキットのホームページには「同大会におきましては、上記クラス(J-GP3、JP250)のほか、当サーキットの特徴を生かしたクラスの開催、エントラント、ファンおよび関係者の皆様にとりまして魅力ある大会となりますよう準備してまいります」(一部抜粋)とお知らせが掲載された。

 ところが、エントラント向けには「開催クラスを限定する理由としましては、パドックの使用方法など、現在の全日本ロードレース選手権シリーズを開催するための施設としての十分な満足を提供できないという判断からでございます。事情をご賢察の上、ご理解を賜りますようお願い申し上げます」(一部抜粋)と別の内容も含むお知らせが告知されている。

 筑波サーキットは「他のサーキットに比べると、施設のスペースの問題が出てきて、パドックの使用方法で選手に不便をかけてしまうというのが一番の理由です」と取材に答えた。

「十分な環境を提供できないから、こちらが開催できるとすればこの2クラス(J-GP3とJP250)ということでMFJとお話をさせて頂いて、こういう判断になりました」

 また、MFJも「他のサーキットではピットからそのままコースインでき、ピット裏のクルマにマシンを片付けることができるが、筑波サーキットではそれができない。“利便性”の問題について提案があり、開催クラスを絞れば、パドックの有効活用ができると会議で結論がでた」と取材で語った。

 近年、二輪レースでも機材が多くなったことで運搬が大変であり、チームの人数も増え、スペースが必要になっている。同時に、電子制御が当たり前になり、テントのみだと雨天の際に電気機器が濡れる問題も出る。昔ながらの交代制ピットでは不便というわけだ。

 MFJはこの決定が下された流れを次のように説明する。まずART(Association of Road racing Teams)からパドックの利用方法についての提案がきたという(エントラント:チームと選手の意見としてMFJは認識)。そして、ART、MFJ、筑波サーキットで検討を進める。最後の決定をする前にMFJと筑波サーキットが会議を行い、クラスを限定する方向に。その後、ロードレース委員会により最終決定が下された。

 つまり、開催クラスをJ-GP3とJP250に限定するのは『パドック、施設』の問題だということがわかった。

■グラベルの狭さによる“危険性”の問題
 この記事を読んでいるほとんどの方が知りたいのは、上記の内容ではないだろう。次にコースの危険性についての聞き込みを行った。というのは、筑波のみJSB1000が行われないことや、来年から開催クラスが限定されることは、『筑波サーキットが危険であるからだ』という声やSNSでの書き込みが目立つからだ。

 事実として、筑波サーキットは他のサーキットと比べるとグラベルが狭く、観客から見ても転倒がつきものの二輪レースでは危険だと感じる。また、危険性について訴えている全日本ロードライダーの声もSNSを通して伝わってくる。

 今回の決定を下す際に、危険性についても議題に上がったか聞くと「そういった声も聞こえてきますが、危ないからやめたという理由ではありません」と筑波サーキット。MFJも「今回、ARTから提案されたのはパドックの使用方法なので……」とそれに関しては否定した。

 しかしながら、選手側は『パドック、施設』の問題だけでなく、『危険性』の問題についての意見もARTとサーキットに提出しているようだ。それは今回の件に関しては伝わっておらず、『パドック、施設』の問題だけが検討されている。

 とはいうものの、筑波サーキットもMFJも『危険性』についての声があることは把握しており、確実に届いている。今回は、『パドック、施設』がメインの問題と捉えられているが、『危険性』の観点からも検討があったのだと思われる。

 さらに、筑波サーキットは「JSB1000を撤退した頃から、施設のキャパシティの問題は出てきていたので、継続して検討はしていました。JSB1000がなくなったのもまったく同じ理由です」と説明する。

 ファン向けと、エントラント向けのお知らせの文章が異なることは「一般のファンにパドックの利便性を公示する必要はない」ことからだという。MFJはさらに、「JSB1000が開催されなくなった時に、理由を明記せずに発表したことで“筑波サーキットは危険”と誤解を招きました。今回のお知らせはその誤解を解きたいから、明確な理由を入れてもらいました」と加えた。

■全日本ロードをみんなで良いものに!
 以上が今回の真相であり、2022年の全日本ロード筑波大会はST1000、ST600が開催されず、J-GP3と併催のJP250のみ行われることとなった。

 今回、多方面の有識者への取材を行ったことで、関係者や選手の全員が全日本ロードを良くしたいという思いがあることがわかった。もちろん、近年行われた変更のすべてが良い方向に向かったとは言えないだろうが、新しいことを始める時は賛否両論あるものだ。しかし、業界全体で行動を起こせば必ず良い方向へと向かうはずだ。

 来年の筑波大会は「2クラスでは1日もたないので、筑波の特性や立地を活かしたイベントを盛り込んでいきたいなと考えています。これから検討していきます」と筑波サーキット。

 筑波は首都圏から一番近いサーキットでもあるため、交通アクセスが良いことも特徴。また、コースと観客席が近いことから迫力もあるのも魅力だ。まずは改革が行われる来年の筑波大会をみんなで協力して盛り上げてみませんか?