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井浦新が『最愛』撮影後に伝えるつもりだった本音 加瀬が持つ“最愛”の形とは?

2021年12月10日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

井浦新『最愛』(c)TBS

 12月10日、第9話を迎える金曜ドラマ『最愛』(TBS系)。15年前から現在へと続く連続殺人の謎と、関係者の愛が渦巻く極上のサスペンスラブストーリーが、いよいよクライマックスを迎えている。


【写真】吉高由里子と井浦新


 なかでも注目を集めているのが、主人公・梨央(吉高由里子)をどんな手段を取ってでも守ろうと奮闘する弁護士・加瀬(井浦新)の存在だ。第8話では「なんでいつも味方でいてくれるの?」「嫌にならない?」と問う梨央に「ならない。何度も言うけど家族だと思ってる」と答えていた加瀬。そして「世界がいいほうに変わっていくのを見たい。そう思って同じ舟に乗った」と続けるシーンが印象的だった。


 血のつながらない家族として、世界を変える力を持つ梨央の1番の理解者として。梨央との関係性に生きる意味を見出す加瀬を、井浦が繊細に演じている。そこで井浦に、残り2話で明確になってきた加瀬という役の人となり、加瀬を演じる面白さ、そして共に演じてきた吉高や松下洸平に対する想いについて聞いた。(佐藤結衣)


■加瀬を「人間にしたい」という強い思いがあった


――あまりにも梨央にやさし過ぎて巷では「逆に加瀬さんが怪しいのでは?」という声も聞こえてくるのですが、演じられている井浦さんとしては、どのように感じられていますか?


井浦新(以下、井浦):加瀬に関しては、撮影が始まる前から新井順子プロデューサー、塚原あゆ子監督に言われていた「常に梨央にやさしく寄り添う」という点をブレずに徹底していくことを大事にしてきました。


――第3話のモノローグでは真田ファミリーという“家族“に対する想いを、しっかりと語っていましたね。


井浦:加瀬は良くも悪くも、シンプルなマインドの人だと思っていて。ただひたすら真田ファミリーを支えていく、梨央が見ようとしている景色を共に見たいという想いだけというか。大切なものにかける情熱は確かにあるんですけど、加瀬の育った環境からなのか、それを表に出していくタイプではなくて。ある意味で大輝(松下洸平)とは対極なキャラクター像だと思います。


――想いのシンプルさゆえに、梨央に見せる甘い顔や、大輝に見せる警戒した顔、後藤専務(及川光博)に見せる厳しい顔など、加瀬の様々な表情に見応えがあります。


井浦:実はそこが1番楽しいところです。塚原監督とも「梨央に優しく寄り添い続ける」というキーワードを大切にしすぎると、「役の輪郭がイメージに収まってしまいかねない」と話していて。なので、あえて「加瀬ならこういう言葉は使わないんじゃないか」とか「加瀬はこういう動きはしないんじゃないか」という言動にトライしてみたり。描かれてはいないけど、加瀬だって、それなりに恋愛をしたり人生経験もしてきただろうし、一面的ではないはずなので。加瀬をちゃんと「人間にしたい」と思って演じていきました。


――例えば、どういった場面で「加瀬らしさ」の枠を広げるトライをされたのでしょうか?


井浦:加瀬らしさ=丁寧で、真田ファミリーに忠実な執事のような言動をイメージすると思うんです。きっと政信(奥野瑛太)に対しても真田ファミリーの大切なひとりとして、弟のように守ってあげたいという気持ちもあるから、政信が突っかかってくる場面では、家族としての人生の先輩というか、兄のような顔で受け流していくようにしました。梨央に対しても、仕事上は敬語だけどタメ口が出てきたり、部下と友だちの間を行ったり来たりしてみたり。やりすぎたときには監督が「もっと抑えよう」と手綱を持ってくださったので、僕としてはのびのびと加瀬がイメージの枠にはまらないように、ギリギリのラインを探ることを楽しめました。


■加瀬の“最愛”は多くの人が持っているものと同じ


――登場人物たちの最愛のものが物語のキーとなってきますが、加瀬の“最愛”をどう見ていらっしゃいますか?


井浦:梨央との関係は15年以上も経っているんですけど、加瀬にとって“最愛”は変わっていないんだなと思いました。きっかけは梓さん(薬師丸ひろ子)に「うちの娘を任せたわよ」と言われたからかもしれないですが、加瀬にとって家族の形というのは、血が繋がっている/いないじゃなくて、そういうものを超えたところにある。その家族というものへの最愛という形が、だんだんと明確になってきたなと感じています。逆に言うと、それ以外は本当にないんです。


――「それ以外、何もない」というのは、後藤専務のセリフにもありましたね。


井浦:加瀬は意外と図太いというか、後藤さんほどの繊細さは持ち合わせてはいないと思うんです。きっと後藤さんは、公園の芝生の上で寝っ転がったりはしないでしょうけど、加瀬は寝っ転がれちゃうんですよね。どんなに梨央社長が自由奔放で振り回されて「大変だな」とは思っても、加瀬は鼻血を出さないですし(笑)。


――たしかに(笑)。どんなに梨央が言うことを聞かなくても、そこまでダメージは受けてないですね。


井浦:加瀬って割と一般的にいる人なんじゃないかなと思うんです。マンションの隣に住んでいてもおかしくないし、ランチ時にオフィス街を歩いていても違和感がない存在というか。逆に、後藤さんがいたらきっと浮きまくると思うんですよ。特別な能力や、強い個性があるわけではなく、サイコパスな人でもない。そういう人が持つ“最愛”の形はどのくらいの強さなのか、楽しみではありますね。もしかしたら加瀬の最愛は、強弱こそあれど実は多くの人が持っている最愛と近いんじゃないかなって。わからないですけど、第9話と第10話でテーブルひっくり返されたらすみません(笑)。


――視聴者のみなさんの中には「井浦さんは地で加瀬なんじゃないか?」という声もありましたが?


井浦:どうも、地が加瀬の井浦新と申します。そうです、加瀬に関してはお芝居していないです。このドラマはドキュメンタリーです。


――まさかのノンフィクションだったとは(笑)。


井浦:でも、場外乱闘というか、SNSを通じて物語だけじゃなくて、作品をとりまくものをひっくるめて楽しんでくださっているのは本当にありがたいです。ドラマとして仕上がった映像が、台本を最初に読んだ感覚を毎回超えてくるので、僕も、オンエアのタイミングでは視聴者のみなさんと同じように楽しんでいるんですよ。自分が読んでいた大輝のセリフも、洸平くんが大輝として思いを乗せたひとことになったとき「こんな言い方になるのか」とか、「梨央はこんな顔でこのセリフを言うんだ、意外だな!」なんて驚かされて。そんなフレッシュな気持ちをそのままSNSでつぶやいたり、洸平くんとやりとりしたり楽しませてもらっています。


■“梨央と加瀬”に重なる吉高由里子との関係性


――松下さんからも本作を通じて「井浦さんと仲良くなれた」という話がありましたが、井浦さんから見た松下さんの印象について聞かせてください。


井浦:本当は何かを介してじゃなく、終わったら本人に直接伝えたいと思っていたことでもあるんですが、まぁ、いいかな……。洸平くんとははじめましてのスタートで、“初共演”というのは1回限りのご縁ですし、しかも大輝と加瀬という対峙する間柄でもあったので、本当に大切にしていきたいと思っていました。正直、この作品で1番強く思い入れのあった人かもしれません。第5話までは何かとバチバチするシーンがあったので、僕は「バチバチしちゃっていいやつですよね?」って前のめりで、どんな形の火花の散らし方ができるのかを考えていたんですけど、洸平くんはそれを一つひとつ丁寧に応えてくれて嬉しかったです。


――共演されて感じた、松下さんの演技の魅力はどんなところでしょうか?


井浦:僕が読んできた大輝のセリフと、洸平くんの読み方というか呼吸が全然違うんですよ。台本を読みながら「きっとこうくるだろうな」と想定して準備やイメージを膨らませていくんですけど、本番になるとそのどれにも当てはまらないものを出てくる。僕自身、決まりきっていない反射的な芝居が1番楽しいと思っているので、そこがすごく面白かった。きっと洸平くんの体の中に流れているリズムが独特なんですよね。「え、ここで息を止めて、ここで吐き出す?」とか「このセリフいいながらそんなふうに体を動かす?」みたいな感じで。僕としてはいい意味で狂わされて、そこから加瀬のリズムに持っていくためにも自分の中のエンジンがどんどん回転するのがわかって、本当に楽しかった。


――では、梨央と加瀬という間柄を演じられた吉高さんについてはいかがでしょうか?


井浦:吉高さんに関してはみんな「天才だ」って言うんですよね。でも、僕は彼女のことを簡単に「天才」という一言でくくれるタイプじゃないと思っていて、それを形容する言葉が他にないからそう言わざるを得ないんだろうけど。僕が見てきた彼女は、すごく不器用でなんでもかんでも上手くやってのけられるタイプじゃないと思っているんです。だからこそ、とてつもない努力をしてきただろうし、その積み重ねでキャリアを築いてきたのだろうと。それでも彼女のお芝居が自然に見えてしまうのは、自然なお芝居をしているんじゃなくて、どんなときも肩の力を抜いて、役と自分を同化させることができるタイプの女優さんだからじゃないかなって。その場に流れているものを、彼女自身の体の中を流れるリズムを同調させて最大限に活かすことにすごく長けた人なんだろうなと見ています。


――なるほど。


井浦:そう思うのも最初に共演させてもらった当時、彼女は19歳で、僕もまだ31~2歳のころだったからかもしれないですね。役者としても人間としても、お互いとても未熟な時期で。そこから10数年経って「お互いまだまだ未熟者だね」なんて会話はしていないですけど、そうした気恥ずかしさが彼女に対してはあるんです。そういう背景が、梨央と加瀬にも当てはめられて、彼女のことは自然に見つめていられるし、お互いに力を抜いた状態で向き合っていられる。僕にとって吉高さんは稀有な存在だなと思います。


――吉高さんと知り合って10数年という月日を思うと、梨央と加瀬の描かれていなかった15年間も自然と思い浮かびますね。


井浦:梨央と加瀬の間柄を芝居のみで作ることも正直簡単ではありますけど、そうではない作り方ができるというのは楽しみな部分ではありました。もともとの関係性や背景、気恥ずかしさなんていうものを織り交ぜながら作れる相手は、なかなかいないので。吉高さんに対して「ありがたい」なんて思ったことないんですけど(笑)、感謝しかないですね。当時なんでもなかった僕ら2人が、久しぶりにご一緒することによって、彼女が“吉高由里子”として背負ってきたもの、積んできたキャリアを感じることが大きかったです。僕の中で、彼女への敬意というものが自分の中でもびっくりするくらい広がっていることを感じています……って、終わってからサッと言って帰ろうかなと思っていたんですけど、ここで話してしまいました(笑)。


――では、残すところ9話、10話となりました。最後に視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。


井浦:第8話の最後で、加瀬にもまさかの犯人フラグが立ってしまったんですけど、そう簡単に犯人になってたまるかという思いが僕自身あります(笑)。加瀬と同時に、梓社長も怪しくなっていますし、大輝の同級生だった藤井(岡山天音)というのが、まあいい面構えで! 自ら犯人に立候補してるような雰囲気を醸し出していますよね。ただ、僕の中では「大ちゃん犯人説」もみなさんに忘れないでほしいなと思っていたり……。でも、犯人探しもこの物語を楽しむ要素の1つではありますが、やはり最大の醍醐味はそれを凌駕する、それぞれの最愛のぶつかり合いなので。第8話まで積み重ねてきた各自の愛が第9話、第10話で、ぶつかったり、混ざったり、開いたり、なかには閉じていく人もいるかもしれません。ここからさらに加速していく人物たちの最愛の物語を、犯人探し以上に楽しんでいただけたらと思います。


(取材・文=佐藤結衣)