2021年F1第21戦サウジアラビアGPは、レース前半から赤旗中断が2回という波乱の展開となった。リスタート前にはポジションを巡るFIAとレッドブル、メルセデスのやりとりも公開。そしてレース後半にはマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンが接触し、一筋縄ではいかないレース展開に。サウジアラビアGPを無線とともに振り返る。
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2度目の赤旗中断で各マシンがピットレーンでレース再開を待つ間、FIAのレースディレクター、マイケル・マシとレッドブルのスポーティングディレクター、ジョナサン・ウィートリーの間では、スタート順をめぐってこんなやり取りがかわされていた。
マシ:2番グリッドでの再スタートを考えている。1、2コーナーの攻防を考慮するとね
ウィートリー:いや、僕たちは、あれは押されて出たと考えてる。持ち帰って協議するよ
マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が2コーナーでショートカットして首位に立ったのは認められないというのが、FIA側の見解だった。ウィートリーは食い下がる。
ウィートリー:2番手スタート了解した。オコンの後ろということだね
マシ:いや、説明不足だった。ハミルトンの後ろだ。それがこちらのオファーだ
ここは「オファー」ではなく、「FIAの見解」と強くいうべき局面ではなかったか。案の定というか、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が3番手になってはたまらないと、メルセデスの戦略担当ジェームズ・ボウルズが確認を求めてきた。
ボウルズ:どういうことなんだ?
マシ:我々の提案としては、オコンがポール、ハミルトン2番手、フェルスタッペン3番手だ。レッドブルがそれを受け入れなければ、あとは競技委員に委ねる
ボウルズ:わかった、ありがとう
ウィートリー:オコンがポール、ハミルトン2番手、フェルスタッペン3番手で受け入れるよ。でももう1度、1コーナーの動きと、フォーメーションでの間隔の空け方を見てくれ
マシ:わかった
スタート加速に不安を抱えるフェルスタッペンは、ミディアムタイヤに履き替えた。ハミルトンが神経質に反応する。
ハミルトン:どうして(僕たちも)ミディアムにしなかったの
ピーター・ボニントン:あと34周だし、これが正しい選択だ
この時点のハミルトンは納得できなかったかもしれないが、結果的には正しい判断だった。しかしフェルスタッペンは3度目の正直で再スタートを決め、2台を抜いてトップに返り咲いた。
フェルスタッペン:パワーがなくなってる!
ジャンピエロ・ランビアーゼ:充電が下がってるだけだ
中盤以降は、エステバン・オコン(アルピーヌ)をかわして2番手に上がったハミルトンとの首位攻防戦が繰り広げられた。角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)やキミ・ライコネン(アルファロメオ)と接触してダメージを負ったセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)のマシンのパーツなのか、コース上そこかしこに破片が散乱し、断続的にVSCが出された。
レースディレクターの決断が遅い、あるいは適切な判断ではないという批判が、他のドライバーからも出てきた。
アロンソ:コース上がデブリだらけだ。ターン6、いやターン10の内側だ
アロンソ:これ、SCだよ。今までで一番悪いコンディションだ。マイケルがどう考えてるのかわからないけど、時速300kmでレースしてるんだから。赤旗でもいいと思う
22周目前後、カルロス・サインツ(フェラーリ)がシャルル・ルクレール(フェラーリ)のすぐ後ろまで来ていた。
マルコス・パドロス(→ルクレール):サインツがDRSで迫ってる
23周目、ターン1のブレーキングでサインツが先行。ルクレールはランオフエリアに出て、再び前に出た。
サインツ:おいおい、チャールズ、それはないだろう!
サインツ:僕が1度は抜いたんだから、順位を戻せと指示してくれ。今すぐにね。そうじゃないと、彼はペナルティだよ
24周目、ルクレールは指示に従って順位を譲った。
36周目の1コーナー。スリップについたハミルトンが抜きに行った。フェルスタッペンは譲らず、2コーナーをショートカットして首位をキープした。
ハミルトン:あいつはクレイジーだ
チームからフェルスタッペンに指示が飛ぶ。
ランビアーゼ:ハミルトンに順位を譲るんだ。ただし、戦略的に譲れよ
ふたつ目のDRSで譲って、直後の3つ目のDRSで抜き返せということなのだろう。フェルスタッペンはその通り、最終コーナーの手前で減速した。しかしハミルトンは、順位を譲れという指示がFIAから出ていたのを聞かされていなかった。フェルスタッペンの急制動に驚いたハミルトンは、接触してフロントウイング翼端板にダメージを負ってしまう。
ハミルトン:ブレーキテストしやがった。ウイングが壊れた
ボニントン:大丈夫だ。大丈夫に見える。彼は順位を譲れと、指示されていた
ハミルトン:でも僕はそれを知らなかった。とにかくブレーキテストしたんだ
フェルスタッペン:タイヤをチェックしてくれ
ランビアーゼ:タイヤは大丈夫だ。
ハミルトン:とんでもなく危険な運転だよ
フェルスタッペンは最終的に、1コーナーと最終コーナーの運転についていずれも非があるとされ、計15秒のタイムペナルティを科された。最後はミディアムタイヤも限界に達し、ハミルトンが3連勝を飾った。
そして激しい3位争いを繰り広げていたバルテリ・ボッタス(メルセデス)は、最終周、最終コーナー立ち上がりでオコンを抜き、3位に滑り込んだ。
ボニントン:僕の記憶では、今までで一番クレイジーなレースだった。冷静な奴が、最後に勝つってことだ。おまけにバルテリも3位に入った
ハミルトン:最高だ! みんな、素晴らしい仕事だった。このまま最後まで行くぞ!
ボニントン:さらにいうと、ファステストももらった。本当によくやった
ボッタス:わお~
リカルド・ムスコーニ:なんてレースだ!
オコン:ウソだろ!! くそっ!!
ジョシュ・ペケット:きみは最初から最後までずっと速かった。誇りに思っていい
ランビアーゼ:厳しいレースだった。全部の裁定に納得が行くわけじゃない。でもきみは本当に、よくやったよ
フェルスタッペン:こういうことさ。できることはやった
ランビアーゼ:その通りだ。心配するな、選手権ではまだトップだ
クリスチャン・ホーナー代表:なぜ彼が真後ろにいたのか、まったく理解できないね
ランビアーゼ:みんなはきみを支持している。ドライバー・オブ・ザ・デーに選ばれたぞ。FIA以外の人たちは、きみを応援してるってことだ
フェルスタッペン:ファンは今日の僕の走りをしっかり見てくれていたってことだね。今日のレースは、むしろペナルティ競争だった。これじゃF1とは言えない。でもファンは楽しんでくれた。全力を尽くしたけど、速さが足りなかった。でも2位には満足しているよ