2021年12月08日 13:11 弁護士ドットコム
在日コリアン2世の父と自身に対する差別的な投稿をインターネット上でされたとして、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが12月8日、特定した2人の匿名投稿者に対して、それぞれ195万円の損害賠償をもとめて東京地裁に提訴した。
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「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などのツイートが差別的言動にあたると主張している。
安田さんは提訴後に記者会見を開いて、「ヘイトスピーチは心の傷つきだけでなく、沈黙をしいたり、日常の尊厳を削り取る暴力性があると思う。連鎖に歯止めをかけたい」と話した。
安田さんは貧困や難民の問題などを取材するジャーナリストで、在日コリアン2世の父をもつ。
訴状などによると、父が亡くなるまで、その出自を知らなかった安田さんは、父のルーツをたどり、そのなかで差別やヘイトスピーチの問題と向き合うことになった。
2020年12月13日、「もうひとつの『遺書』、外国人登録原票」という執筆記事にまとめ、自身のツイッターで紹介したところ、2つの匿名アカウントから次のコメントが付けられた。
(1)「密入国では? 犯罪ですよね? 逃げずに返信しなさい」(同月14日)
(2)「在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか? 嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよくわかるわい お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」(同月21日)
安田さん側は次のように主張している
(1)の投稿については、安田さんの父が日本に密入国をしたとの事実を摘示するものであり、安田さんの敬愛追慕の情を侵害するとともに、安田さん本人への差別的言動であって本人の人格権を直接侵害する行為だ
(2)の投稿については、差別的言動解消法の「差別的言動」に該当し、憲法13条に由来する人格権等に対する違法な侵害行為にあたる
今回の提訴にあたって、安田さんは、2つのアカウントについて、発信者情報開示の手続きを進めた。(2)の投稿に関する発信者情報開示訴訟で、東京地裁判決(2021年8月26日)は以下のような考えを示した。
「本件投稿は、原告の父親のみならず、原告を含め、広く韓国にルーツを有する日本在住者をその出自のみを理由として一律に差別する趣旨のものであって、それらの者の社会的評価を低下させるとともに、その名誉感情を侵害する表現というべきである。
そうすると、本件投稿は、それが父親に対する原告の敬愛追慕の情をそのまま受忍限度を超えるものであるか否か問うまでもなく、原告の人格権を直接侵害するものであることが明らかである」
また、会見で配布された資料によれば、(1)の投稿は西日本在住の女性、(2)の投稿は西日本在住の男性によるもの。いずれか一方から、弁護士を通じて連絡があったものの、謝罪はないという。
なお、2つのアカウントはすでに凍結されている。
安田さんは提訴後の会見で、「いま、差別をする自由が大きく認められてしまっている」「次世代が矛先を向けられ、暴力に怯えることのないように、訴訟が一助になればと思っています」と語った。
また、裁判には労力がかかるため、「政府から独立した救済機関が費用負担なく背負ってくれると、(中傷された人から)助けてほしいという声のあげやすさが変わってくるだろうと思う」とした。