2021年12月08日 10:01 弁護士ドットコム
東京都足立区内の環状七号線沿いの歩道を歩いていた男性(75)が、自転車で走行していた男子高校生(16)と接触した弾みで車道に倒れ、走行していたトラックにはねられて死亡するという事故が12月2日午前5時半すぎに発生した。
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報道などによると、男子高校生は通学途中で、耳にイヤホンを着けて無灯火で自転車を運転しており、「前をあまり見ていなかった」と話しているという。ブレーキをかけたが間に合わず、男性の肩と接触してしまったようだ。
警察は、男子高校生については重過失致死の疑いで、トラック運転手(52)については自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)の疑いで、それぞれ調べているという。
事故の詳細は現時点明らかでないが、トラックが急に車道へ倒れてきた男性を避けるのは難しかった可能性も考えられる。そのような場合でもトラック運転手は責任を問われてしまうのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
——トラック運転手が過失運転致死の疑いで調べられているようです。
過失運転致死傷罪については、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する」と規定されています(自動車運転死傷行為処罰法5条)。
この罪の本質は、運転者が自動車を運転する上で遵守すべき注意義務に違反して、人を死傷させるという点にあります。
事故を起こした運転手がどのような注意義務を負っていたかは、道路の状況、運転者の運転状況、相手方の行動状況、事故の発生状況等の個別具体的状況によります。
——注意義務違反の有無はどのように判断されるのでしょうか。
裁判実務上は、発生した死傷事故からさかのぼって、運転者がどのような措置を取っていれば当該事故の発生を回避することができたかを事故の具体的状況に即して検討します。
その上で、運転者に対してそのような措置を講じるべき義務を課すことが可能であるか、相当であるかを検討して、運転者がかかる義務を怠っていることが認められる場合に、過失運転致死傷罪の成立が認定されます。
——今回の事故についてはどうでしょうか。
トラック運転手が、車道に倒れた男性の姿を見て、衝突を回避できたかどうかが問題となります。
たとえば、制限速度で車道を走行していたところ、急に男性が車道に飛び出てきた(運転中、男性が視界に入った途端、トラックと衝突してしまった)ような場合は、そもそも結果回避が困難であるため、トラック運転手に注意義務違反を問うことはできないでしょう。
一方、トラック走行中、ブレーキをかければ男性を引かずに止まれる位置から車道に横たわる男性を発見できたのに、不注意で男性の存在を見落とし、気づいたときにはブレーキが間に合わず、衝突してしまったような場合は、トラック運転手の注意義務違反が認められるでしょう。
トラック運転手に注意義務違反が成立するか否か(過失運転致死傷罪が成立するか否か)は、事故当時の状況によりケースバイケースです。今回の事故についても現時点では何ともいえません。
——男子高校生の重過失致死、トラック運転手の過失運転致死、どちらの責任も問われるということはあるのでしょうか。
これは「過失の競合」といわれる問題で、他人の過失行為があるから、自らの過失行為と被害者の死傷との間の因果関係が途切れてしまうのではないかという点が問題となります。因果関係が途切れた過失行為については責任が問われません。
この点、最高裁昭和35年4月15日決定(国電桜木町駅事件)は、過失の競合によって死傷の結果が生じたとしても、当該過失から死傷の結果が生じることが実験則上予測される場合は、因果関係が認められるとしました。
今回のケースで考えてみると、自転車を運転中、前方不注意により歩行者と衝突すると、歩行者が車道に倒れて車道を走行してきた自動車にひかれて死傷の結果が出ることは予測できます。また、トラックで車道を前方不注意で走行すると歩行者等と衝突し死傷の結果が出ることは予測できます。
したがって、男子高校生については重過失致死、トラック運転手については過失運転致死、そのどちらの責任も問われるということはあり得ることです。
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/