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マツダは意外にリアリスト? 将来の安全技術「CO-PILOT CONCEPT」を体験!

2021年12月08日 07:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
マツダは独自の安全技術「MAZDA CO-PILOT CONCEPT」(マツダ・コ・パイロット・コンセプト)を2022年に実用化する。ドライバーの状態を見守り、急病や居眠りなどの異常があれば「副操縦士」(コ・パイロット)としてシステムが運転を引き継ぎ、安全にクルマを止める。こんな考え方の安全技術だが、具体的には。技術体験会に参加してきた。


○「MAZDA CO-PILOT CONCEPT」の仕組み



基本的な仕組みとして、MAZDA CO-PILOT CONCEPTはドライバーモニターカメラなどで運転者の状態を見守り、異常を検知すれば運転を引き継ぐ。運転者の状態は視線、目の開き具合、首の動き、運転の仕方などで判断。異常を検知するとクルマが自動運転の状態になり、ホーンやハザード、ブレーキランプの点滅などで周囲に異常事態を知らせながら減速・車線維持を行いつつ、安全に止まれそうなところを探し、左側(高速道路なら路肩)に寄せて停車する。自動運転状態のときでも、例えば左側に路上駐車のクルマがあれば通り過ぎてから止まるし、赤信号には従うし、信号のない横断歩道を歩行者や自転車が横断しようとしていれば、やはり停車する。いったん止まると自動で再始動することはなく、すぐに自動で緊急通報を行う。


安全技術は段階を踏んで導入する。具体的には「MAZDA CO-PILOT CONCEPT 1.0」を2022年に投入(クルマに搭載)し、「MAZDA CO-PILOT CONCEPT 2.0」は2025年以降の実用化を目指す。



1.0と2.0の違いは何か。例えば「ドライバーの見守り」についていえば、1.0では異常を検知するが、2.0では異常の予兆まで検知して、早い段階でドライバーに対応を促す。


首がガクッとうなだれたり目を長く閉じたりするから、「異常」は検知しやすい。ところが予兆は、パッと見では気づけなかったりする。マツダが予兆をつかむために研究している領域のひとつが脳科学だ。



ドライバーの異常(体調不良や急病)で起こる事故(内因性事故)の実に90%が、脳の機能低下によるものだとマツダは分析する。具体的には「てんかん=脳神経システムの異常」「脳血管疾患=脳細胞の死滅」「低血糖・心疾患=脳細胞への酸素・栄養供給低下」が、内因性事故の主な原因だ。

脳の機能低下を早い段階で見抜くため、マツダは「運転操作」(普段の操作から逸脱していないか)、「頭部挙動」(異常な振動パターンに変化していないか)、「視線挙動」(特定の箇所への偏りが生じていないか)に注目する。



視線挙動でいえば、目立つものに注意を引かれている状態(受動的視線挙動)が危険のサインだ。ドライバーが目立つもの(色、輝度、動いているものなど)ばかりでなく、リスクが高そうな場所やミラー、メーターなどを意識的に見ている「能動的視線挙動」であれば問題はないのだが、無意識的に目立つものばかりを目で追っている状態は脳に機能低下が起こっている証拠かもしれない。



マツダでは視線が引かれやすい箇所を可視化した「サリエンシーマップ」というものを作り、それとドライバーの視線を照らし合わせることで、視線挙動が能動的なのか受動的なのかを判断するシステムを研究中。これをクルマに実装できれば、運転手の視線挙動が怪しくなってきた時点で注意を促すことが可能となる。


マツダはMAZDA CO-PILOT CONCEPT 1.0を2022年に発売する「ラージ商品群」のクルマから実装していくとしている。ラージ商品群とは例えば「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」といったクルマのことで、同社のラインアップの中では比較的、大きくて高価な商品だ。もっと小さな「MAZDA2」のようなクルマへの展開については、今後検討していくとのことだった。



小さなクルマにすぐに展開できない理由は「いろいろあります。モニターカメラや画像を演算するコンピューターも必要になります」とマツダの人は話していたが、コストがかかるからなのか、あるいはクルマの中のスペースが足りなかったりするのかまではわからなかった。「(MAZDA CO-PILOT CONCEPTは)幅広く展開していく商品だと思っています」との言葉もあったので、安くて小さなクルマへの早期展開にも期待したいところだ。MAZDA CO-PILOT CONCEPTがオプション装備となるのか標準装備となるのかも聞いてみたが、これは商品投入時に発表するとのことだった。



それと気になるのは、MAZDA CO-PILOT CONCEPTをマツダ以外のクルマでも使えるようにならないのか、という点だ。マツダは軽自動車を自社で作っていないはずだし、トラックやバスを手掛けていないことは確実だが、そうしたクルマにこそ安全技術が必要な気もする。MAZDA CO-PILOT CONCEPTだけを切り取って外販するようなことはできないのだろうか。これについてマツダ 統合制御システム開発本部 主査の中島康宏さんに聞いてみると、「後付けって、難しいんです。品質の保証なども含め、いろんな課題があります。そのあたりをクリアできるかどうかも含め考えていきたいと思います」とのことだった。

○実効性の高いことからやっていくマツダ



事故を防ぐために人間の状態を見守り、何かあればシステムで乗員を助けようというのがマツダの思想だ。事故ゼロを達成するために人間からハンドルを取り上げる、つまり、完全な自動運転の世界を急いで実現しようという考えは、全くないわけでもないのだろうが、現時点でマツダはそちらの方向性をとっていない。というのも、マツダはクルマの運転が人間にいきいきとした気持ちを持たせ、人生を豊かにすると考えているからだ。MAZDA CO-PILOT CONCEPT 1.0の技術主査を務める栃岡孝弘さんによると、あくまで「人」を中心とし、ドライバーの「走る歓び」を安全技術でサポートしたいというのが同社の思いなのである。



そもそも自動運転で事故ゼロを実現するのは、完璧なシステムが求められるし、インフラとの協調も不可欠となるので相当に難しいし、できるとしてもかなり先になりそう。それなら、できるところ(効果のあるところ)からやっていこう、というのがマツダの考えのようだ。



「クルマの運転で人生を豊かに」と聞くと「マツダは理想主義者なのかな?」と思えるのだが、実際にやっていることを見ると、実はそうではないことがわかってくる。例えば安全技術は、一足飛びに自動運転社会を目指すのではなく、実効性の高そうな部分(内因性事故への対応)で着実に実用化を目指しているし、クルマの電動化についても、いきなり全部を電気自動車(EV)にするのではなく、今後もしばらくは自動車販売の中心となりそうな内燃機関の効率向上に、まずは力を入れていこうとしているからだ。マツダは意外にも(?)、かなりの「リアリスト」なのかもしれない。そんな気がした技術体験会だった。(藤田真吾)