2021年12月07日 13:31 弁護士ドットコム
沖縄在住の音楽家でライターの大袈裟太郎さんが、2017年11月に沖縄・辺野古で逮捕された際に、「天誅が下った」「沖縄から追放、強制送還すべき」などとした産経新聞のネット記事は名誉毀損だとして、産経新聞社に110万円の損害賠償をもとめた裁判の第1回口頭弁論が12月7日にあった。提訴は10月7日。
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弁論後、大袈裟さんが記者会見し、「現実をねじまげていく恐ろしい行為」などと批判した。原告側によると、産経新聞側は記事を配信したことは事実としたうえで、請求棄却を求めたという。
訴状などによると、大袈裟さんは沖縄の辺野古基地建設に反対し、抗議活動をした際に公務執行妨害などの疑いで逮捕された。
産経新聞は2017年11月10日、那覇支局長の署名入りで「辺野古で逮捕された『大袈裟太郎』容疑者、基地容認派も知る”有名人”だった」という見出しの記事をネットに配信した。
事件のあらましや、ラッパーや俳優など、大袈裟さんの経歴にふれたほか、「しかし法を逸脱して傍若無人に振る舞う左翼・反基地活動家にあって、わけても『大袈裟太郎』容疑者の評判は基地容認派の間で散々だった」として、「高江を皮切りに辺野古でも暴力の限りを尽くし、その過激さから仲間割れを起こし、善良で穏健な仲間たちの離反を招いた」などの「評判」を紹介した。
また、「同容疑者の行状をよく知る」という人物(記事では実名)によるフェイスブックの投稿も引用した。
「『朗報』に接した良識派の県民たちはネット上で『沖縄県警はいい仕事をした』『天誅(てんちゅう)が下った』『沖縄から追放、強制送還すべき』などと声を上げた」
大袈裟さんは、記事の内容が社会的評価を低下させ、不法行為にあたると主張している。
この日、産経新聞社側は、記事が2020年6月までネット上で配信されていたことについてのみ認めたという。それ以外の主張は今後の期日でおこなうそうだ。
大袈裟さんは、記事が実生活にも影響していると語る。
「ネット上の誹謗中傷も、記事が出た以降、より苛烈になりました。『中国のスパイ』だとか呼ばれるようになりました。
2018年ころには、スーパーの食品売り場に行ったら、『中国のスパイだろ、くるすぞ』(沖縄の言葉で『殺す』)と胸ぐらをつかまれたり、影響が出てきて、今も続いています。常にストーキングや住所をさらされたり、おびやかされたりしています。
裁判しないと、私が暴力の限りをつくした人間として記憶に残ってしまうことになります」
大袈裟さんの代理人をつとめる神原元弁護士によれば、損害賠償請求の時効は、記事が出てから3年とするのが通常であるものの、インターネット記事の場合は、削除したときから3年という判例もあるという。神原弁護士は会見で「十分いける。まだ時効は完成していない」と強調した。
また、産経新聞社側から「名誉毀損に該当する記載は、ネットの発言」とする反論が予想されるとしたが、ジャーナリストの伊藤詩織さんへのSNSの投稿をリツイートした人に11万円の賠償が命じられた東京地裁判決を例にあげて、「引用であっても、そのまま肯定的に引用して拡散するのは問題だ」と唱えた。
「2ちゃんねるやツイッターの記載じゃないんです。これは産経新聞という全国紙が自らの記事として書いて全国に配信した内容です。容疑者が逮捕された事実について、天誅が下ったとか、沖縄から強制送還すべきという記載がジャーナリズムの世界や全国紙で許されるのか裁判で問うていきたい」(神原弁護士)
なお、大袈裟さんは、記事を書いた記者とは「お会いしたこともありません」と話した。