2021年11月30日 16:51 弁護士ドットコム
人気つけ麺店「大勝軒」から暖簾分けした「株式会社大勝軒TOKYO」(豊島区)の社長からパワハラを受けたとして、同社が運営する「大塚大勝軒」元店長の男性が11月30日、同社を相手取り、慰謝料と残業代など約1070万円をもとめる裁判を東京地裁に起こした。
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提訴後の会見で、元店長Aさんは「おまえもやってみろと言われて、(自分自身に)スタンガンを当てました」「大勝軒に入って、日常的な残虐的な暴力があり、主張も行動もかなり制限されて生活している日々」と涙を浮かべ、悔しさを滲ませて被害の詳細を語った。
Aさん(20代半ば)が加入する労働組合「飲食店ユニオン」の会見で経緯が説明された。
「ラーメンの神様」と呼ばれた故・山岸一雄さんの興した「東池袋大勝軒」運営会社から暖簾分けされた会社が、大勝軒TOKYOだ。
訴状によれば、原告のAさんは、同社の千葉県の店舗で2015年2月からアルバイトとして働いたのち、2018年3月に入社した。ほかの店での勤務を経て、2019年11月から2021年1月7日まで「大塚大勝軒」(同社の提携事業店)の店長として働いた。
そこで、社長から日常的に蹴られたり、タオルを投げられたりする暴力やパワハラを受けたと主張する。
また、社長は、ミスをした従業員に命じて、従業員自らの顔にスタンガンで電流を流させる行為を繰り返していたという。
別の従業員への行為が動画で残されており、会見でも流された。
動画は2019年3月4日に、社長からAさんに送られてきたもので、社長が別の従業員に撮影させたものだそうだ。
「おべっかは使いません。有言実行します」と発言した男性従業員が、バチバチと鳴るスタンガンを顔にあてると、あまりの痛さに顔に手を当て、後ろにのけぞる様子が映っている。
さらに、顔の映らない男性が何か発言したあとに、従業員がもう一度電流を流した。
Aさんによれば、発言しているのが社長で、「痛いというのは反省していない。反省しているのであれば、あんなに悶絶しない」という趣旨の内容だという。
なお、Aさんもまた、2018年9月ころ、スタンガンを当てることを命じられ、やむなく自分のこめかみに電流を流し、大きな痛みを感じたという。
従業員の被害現場に居合わせた際に「痛いのかな」と口にしたところ、やってみろと指示されたそうだ。
Aさんは、1日あたり午前10時から午後11時まで、週6日で働き、1カ月の残業時間は140~160時間に及んだという。2020年9月1日から、大塚店の17時以降の営業は1人で運行することになった。
長時間労働にもかかわらず、2019年、2020年の月給はそれぞれ19万5000円、20万5000円で、残業代は支払われなかったとしている。また、「店長手当」を含む手当などもなかったそうだ。
その後、Aさんはユニオンに加入し、11月12日に残業代と慰謝料を求める団体交渉をおこなった。会社側はAさんが「管理監督者」であるとして、ユニオンの主張に反発したというが、ユニオン側はAさんが管理監督者の裁量はなく、労働者であると主張している。早期解決が見込めなかったとして、提訴に至った。
Aさんは涙をにじませ、手で何度もぬぐいながら、訴訟の理由を話した。
「社会的経済的に弱い人を長期にわたって拘束・洗脳して、圧倒的立場での残虐なことがおきています。僕はユニオンと弁護団に相談してこの環境を抜けることができました。しかし、今も残虐なことが起きています。
このままでは自分がつぶれると思って、身勝手かもしれませんが、あの場所から逃げることを決めました。ほかの従業員を助けたいという気持ちは変わりません」
Aさんの代理人の深井剛志弁護士は「飲食業界において、正社員の店長にワンオペで回させたり、1人に責任・負担を生じさせ、人件費を削減させる。そのような構造的な欠陥が出た事件だ」と話した。
弁護士ドットコムニュースは11月30日、電話で同社にパワハラや長時間労働について電話で問い合わせた。「担当者不在で回答できない」としたため、メールでも見解を求めていた。
大勝軒TOKYO側は12月1日、代理人弁護士を通じてメールで回答した。
「当職が社長本人や従業員らに確認したところでは、そのような事実は把握できていません。逆に「(元大塚大勝軒店長)が日常的に暴力をふるっていた」という証言が出てきており、そのような加害者ともいうべき人間の発信した内容に報道機関の皆様が振り回されていることは残念でなりません。
当社の従業員が自分の顔にスタンガンを当てる動画が広まっていますが、その場に社長はいなかったとスタンガンを当てた本人ほかの従業員が証言しています。その者らによると、酒に酔った席での出来事とのことでした。
なお、例えば残業の関係では、2020年4月以降はほとんどの期間当社は東京都からの自粛要請に従って営業時間を短縮しており、基本的に残業の実態はなかったことを申し上げておきます」
(12月1日:大勝軒TOKYOの回答を追記しました)