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ファンとのDMで契約解除を公表されたジュニアアイドル、元事務所に勝訴

2021年11月28日 09:31  弁護士ドットコム

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ツイッター上で発表された「契約解除」に関する投稿は真実ではなく、名誉毀損にあたるとして、当時10歳(小4)だったジュニアアイドル、早乙女ゆあさん(@yua_210826)が、元所属事務所とその代表を相手取り、損害賠償を求めた訴訟。


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その判決が10月13日にあり、東京地裁は「ツイッターの発表内容は真実と認められず、名誉毀損であり不法行為にあたる」として、早乙女さん側の請求を認めて、計44万円の支払いを命じる判決を言い渡した。



どうして事務所はこんな契約解除の投稿をおこなったのか。12歳(小6)になった早乙女さん本人と両親に経緯を聞いた。(ライター・玖保樹鈴)



●レッスン無料の代わりに撮影会に参加していた

早乙女さんは、小学3年生の春休み、家族で東京・原宿を歩いていたら、当時の所属事務所の代表にスカウトされた。



「テレビに出てみたい」と思っていた早乙女さんは、両親の承諾を得たうえで、タレント活動を始めた。すると、すぐに撮影会の仕事が入った。早乙女さんの母親によると、撮影会は毎週土日、同じ事務所のジュニアアイドルたちと一緒に開催されていたという。



「撮影会は10時から17時まで続き、30分交代でお客さんが入れ替わるものでした。事務所とは、レッスン代を無料にする代わりに、撮影会に参加する取り決めでした。衣装や交通費は自前で、毎回、高速道路を利用して送り迎えしていましたが、本格的な芸能活動につながると思い、家族みんなで応援していました」(母親)



●10歳に「結婚したい」とDMする中年男性

しかし、活動を続けるうちに、早乙女さんは事務所に対して不信感を覚えるようになった。



4年生に進級してすぐのことだ。ライブ活動も始めてほどなく、熱心に通って来たファンの1人から、ツイッターのDMに「直接話したい」とメッセージが届いた。撮影会常連の中年男性だった。



「撮影会にもライブにも毎回来てくれて、私のことを推してくれた人だった。初めてできたファンだったから、冷たくできなくて。それに撮影会は、ほかのアイドルの子と一緒なので、私だけファンがいないのはさみしかったから、『誕生日プレゼントは何がいい?』とか言われると、ほしいものを書いて返信してました。でも、それが何度もやり取りが続いて、半年ぐらい経つと『おはよう』とかのメッセージが来るようになって」(早乙女さん)



ファンと直接やり取りをするのは精神的に負担だからと、早乙女さんの母親は事務所の代表に相談した。すると、「ゆあはいじられキャラだから、別にいいんじゃないですか? しばらく様子を見ましょう」と言われたという。



「でもDMを返信するうちに、『なんでほかの人と話すんだ』と書いてきたり、『結婚したい』『キスしたい』というメッセージも来るようになりました」(早乙女さん)



「私が『ゆあは大人じゃないし、私は冗談で済ませるけど娘はちょっと』と返信したら、何枠も抑えていた撮影会を急にすべてキャンセルしたんです」(母親)



●本名を書いたメモを見せられて怯える

その後も半年近く、早乙女さんのDM何度も連絡があった。あまりの頻度に困り果てて代表に相談すると、そのたびに「様子を見ましょう」と言われ、ショックを受けた早乙女さんは「もう活動をやめたい」と伝えた。



すると、代表は急に「ファンとのDMを禁止しているというルールがあることにして、それを伝えるのはどうか」と言ってきた。そこで母親は「事務所に発覚したので、事務所のルールに従い今後はやりとりできません」と連絡したが、早乙女さんはすでにこのころ、恐怖を感じるようになっていた。



「あまり周りに人がいないときに、その人から『俺、知ってるんだよ』って、私の本名を書いたメモを見せられて。何かあったらどうしようとすごく怖くなって。



母が『事務所から連絡禁止と言われた』と伝えたら、撮影会にもライブにも来なくなりましたが、事務所は出禁にしたわけではないので、同じ会場の違うライブで見かけることはありました」(早乙女さん)





●突然、ツイッター上で「契約解除」が発表された

早乙女さんは、スカウトされた小学3年の春休み(2019年3月)、事務所代表と専属タレント契約を結んだ。その後、活動する中で、先ほどの述べたようなファンとのトラブルにあった。



そうした中、代表は2019年8月、会社を設立して、新たに契約を結ぶよう求めてきた。



しかし、代表はそれまで、ファンの行き過ぎた行為を制止せず「嫌がったりすると、仕事がなくなるよ」などと言っていたため、早乙女さんは不信感を募らせていた。



そこで、早乙女さん側が、新しい契約を結ばないままタレント活動を続けていると、2020年2月に契約についての再確認があった。



母親が理由を述べたうえで「契約したくない」と言うと、事務所側は「一度持ちかえって話し合いをしましょう」と言った。



ところが、その翌々日、事務所はツイッター上に「このほど、所属タレントyuaに禁止行為が発覚したため、保護者に事実確認したうえで契約解除をいたしました」「所属タレントに対して、顧客であるファンたちと直接コンタクトをとることを明確に禁止しております」などと投稿した。



このとき学校の授業を受けていた早乙女さんは、投稿内容を母親からのLINEで知った。



「ただショックでした。母から聞いて家に帰って自分で見て、びっくりして『ゆあが何か悪いことしたのかな』って思って。禁止行為はしていないのに、頑張っていたのにやめさせられたんだって知って、悲しくなった」(早乙女さん)



母親が代表に電話をするも出てもらえなかったため、父親から連絡をして「事実に反するからすぐ消してください」と言うと、「禁止行為があったので消しません」と返されたそうだ。



「そんな事実はないのに、これでは娘がファンと直接やり取りをして闇営業をするイメージを持たれてしまう。ゆあの信用を失墜させて、今後の活動ができないようにしたいのかと思いました」(父親)



●「そもそも『禁止行為』は明記されていなかった」

ちょうど春休みを迎えた早乙女さんは「芸能活動を続けたいけれど妨害されたらどうしよう」と1人で悩むようになっていた。同時に、事務所側の発表を真に受けた人たちからなのか、批判やアダルト動画をDMで送られたりするなどの嫌がらせを受け、事務所代表と同じ名前を耳にするだけで怯えるようになった。



そんな姿を見た両親は3月、事務所代表と事務所を相手取り220万円の損害賠償と、ホームページとツイッターアカウントに謝罪文の掲載を要求する訴訟を提起した。



「裁判は私がやるって決めました。ずっと仕事を頑張って平日でもライブをしてきたのに、その頑張りがなかったことにされたのは裏切りだし、ちゃんと本当のことを伝えたかった。同じような目に遭う子が増えるのも嫌だったから」(早乙女さん)



裁判は、9回の口頭弁論を経て、今年10月13日、代表らに対して44万円の支払いを命じる判決が言い渡された。裁判で早乙女さん側は次のような主張していた。



・不特定多数の人が閲覧するツイッターに「禁止行為があった」と投稿するのは、原告の社会的信用を失墜する行為であること



・法人化した事務所と早乙女さんは契約していないので、契約を解除された事実はない



一方、早乙女さんの代理人をつとめた河西邦剛弁護士は、事務所が言う「禁止行為」自体が、そもそも契約時に明記されていなかったと指摘する。



「1週間後に事務所はツイッターを削除していますが、消して終わりではありません。自分自身について事実ではないことが芸能事務所から発表されたことは、誰であっても受け入れがたいことです。真実を明らかにし、早乙女さんの毀損された名誉を回復するための訴訟でした。芸能事務所には早乙女さんを受け入れた以上、辞めるにしても最後までタレントを大切にしてもらいたかった。芸能事務所による解除発表が名誉毀損にあたる事例を示した判決という意味でも社会的意義は大きい」(河西弁護士)





●アイドルを目指すなら、事務所選びは慎重に

早乙女さんはフリーで芸能活動を続けることを選んだが、事務所代表とライブハウスで偶然会った際などに気分が悪くなり、動けなくなることもあった。しかし2年間我慢していたと振り返る。



「(判決のあった)13日に学校から帰ってきて、母から『勝ったよ』って言われて、めっちゃ喜びました。事務所のツイッターのせいで、私に悪い印象を持っている人もいるので、そういう人たちに、勝ってキラキラしている姿も見せられてよかった」(早乙女さん)



母親によると、早乙女さんは、判決までずっと怯えていたが、勝訴したことで晴れやかな表情に変わったという。現在は妹とともにフリーで活動しているが、今後は別の事務所に所属することも視野に入れている。



しかし、事務所選びは慎重にしたいし、アイドルを目指す子たちはぜひそうしてほしいと、両親は言う。



「仕事の契約は慎重に進めるのに、なぜ、ゆあのときはそうしなかったんだろうと、反省しています。『原宿=スカウト』というのは、アイドルを目指している子たちなら、みんな知っています。私たちもスカウトされたときは舞い上がってしまったけれど、相手を見極めるべきだった。だから、スカウトされても、契約前に踏みとどまって情報を集めてからにしてほしい」(父親)



事務所側は控訴しなかったため、11月2日に判決が確定した。早乙女さんは事務所代表に対して、「きちんと謝ってほしい」と望んでいる。しかし、現在も事務所のツイッターやブログには、謝罪文は掲載されていない。12歳の切実な願いは、はたして大人たちに届くのか。



それでも早乙女さんは「まだまだ歌もダンスも自信がないので、もっと練習してうまくなって、テレビや雑誌とか活動する場所を広げたい。人を信用できなくなっていたけれど、私のパフォーマンスでファンの方が笑顔になっているのを見ると今でも私は幸せになります。今はもっと多くの人にゆあを知ってもらいたいと思ってます」と今後もアイドル活動を続けていくことを決意している。