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よしもと芸人がオンラインで「お笑い介護レク」、アフターコロナに利点も

2021年11月24日 08:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
被介護者の認知症予防や健康維持、QOL(生活の質)向上を目的に介護現場で実施される介護レクリエーション。コロナ禍では介護施設でのさまざまな交流やアクティビティが困難になり、施設利用者の心身機能低下のリスクが指摘されてきた。


こうした問題を受け、オンラインによる介護レクリエーションを確立するべく、介護レクリエーションのノウハウを持つ「BCC」と通信環境を提供する「NTT東日本」、全国の介護事業者のネットワークを持つ「全国介護事業者連盟(介事連)」が連携。



今年2月には介護サービス販売を手がける「エブリ・プラス」が販売主体として加わり、9月22日から吉本興業の芸人が出演する「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」の提供が開始された。


このサービスは介護業界にどんな変化をもたらす可能性を秘めているのか。各社の背景とともにうかがった。

○吉本興業が介護分野に乗り出した背景



5社連携体制のもと、このたび「Zoom」を使ってオンラインで提供されることになった「お笑い介護レク」。吉本興業は芸人の個性やお笑いの力を活かし、ゲームや音楽、体操、ワークショップなど、「お笑い」と「介護レク」を合わせた介護レクリエーションプログラムを従前から展開してきた。


よしもとエリアアクション業務推進室・藤原邦洋氏は「お笑い介護レク」の活動を始めた経緯をこう紹介する。



「昔から芸人の営業先として介護施設さんでのイベントや慰問に伺うことは多く、それで施設の利用者様やスタッフ様に喜んでいただけていました。認知症予防など"笑い"と介護の親和性の高さは広く知られていますが、お笑い介護レクの取り組みは、お笑いコンビ『レギュラー』が2014年にコンビで介護職員初任者研修の資格取得をしたことが大きなきっかけ。介護現場で芸人が活躍できる可能性に気づかされました」



2011年4月に全国47都道府県に「住みます芸人」を居住させる「あなたの街に住みますプロジェクト」を始動し、笑いの力による地域活性化にも取り組んできた吉本興業。約6,000人の所属芸人の中には介護施設で働いた経験を持つ芸人も一定数存在し、意欲や経験の面からも介護業界に馴染みのある芸人が実は少なくなかったそうだ。



「単に"お笑い"だけではなく、高齢者の方々の健康増進や自立支援により深く結びつくかたちで芸人が活躍できれば、とのことで所属芸人の『レクリエーション介護士』資格の取得を後押ししてきました」(藤原氏)



レクリエーション介護士は高齢者に喜ばれるレクリエーションを提供できる人材を育成のため、BCCが運営する民間資格。現在32人の吉本芸人がこの資格を所有する。


吉本興業とともに"レクリエーション介護士芸人"を育成してきたBCCの東京本社マネージャー・狭間希代美氏も、「高いコミュニケーションスキルを持つ芸人さんと介護レクの相性は非常に良い」と語る。



「従前からお笑い介護レクは施設の利用者様やスタッフの方々にとっても特別な楽しみの時間となっていました。コロナ禍になったのは、お笑い介護レクをより多くの施設や利用者で提供するべく、全国の"住みます芸人"の方々に資格取得をさらに推進していこうという頃でした」

○お笑い介護レクにおける芸人の役割



「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」では物理的な制約が取り払われ、従来カバーできていなかった地域にもお笑い介護レクを届けやすくなった。



「ただ、オンラインの画面越しだと利用者様の空気感が掴みにくく、どこまで踏み込んだコミュニケーションができるのかが課題でした。対面でのコミュニケーションならアドリブなども織り交ぜたコミュニケーションもしやすいんですが。間の取り方なども含めて芸人さんと試行錯誤してきました」(狭間氏)

吉本興業所属のお笑いコンビ「オスペンギン」の山中崇敬氏は、お笑いレク開始初期にレクリエーション介護士の資格を取得し、活躍する芸人の1人。お笑いレクの活動は普段の劇場などでのお笑いと共通点も多いそうで、参加者と双方向のコミュニケーションを重視しているという。



「一度にたくさんの施設や利用者さんとつながれる分、Zoomだと一人一人の利用者と交流しづらい面はあります。ただ、リアルでもオンラインでもコミュニケーションの本質は変わらないのかなと。リアルと全く一緒というわけにはいきませんが、参加者の方々に手を振ってもらうなどの身振りも取り入れて工夫すれば、オンラインの欠点はある程度カバーできる。それが自分たちに求められる役割だとも思っています」


本サービスを滞りなく提供するために不可欠なのが通信環境だ。NTT東日本はオンラインコンテンツの配信や運営環境の検討を重ね、各社と本プロジェクト全体の多岐にわたる調整を行ってきた。


「現在は首都圏から各地の都市部の施設へと広げている段階ということもあり、通信設備は比較的整った施設様が多い印象です。スムーズなサービス提供を実現するため、細かなオペレーションの部分で設定や調整を繰り返してきました」(NTT東日本神奈川事業部地域ICT化推進部・坂本一平氏)

○全国に「お笑いレク」を届けるために大切なこと



昨年11月の首都圏からスタートした本サービスのトライアルでは、1万1,600所の介護事業所が加盟する介事連が全面的に協力した。


「一口に介護といってもいろいろなサービスがあり、我々は介護事業者の横断的な組織なので、事業者ごとの特性を踏まえ、具体的なサービス提供先について意見交換させていただきました。本サービスの提供については1万を超える事業者の中でも入居系施設やデイサービスを中心にお声がけし、現在は徐々に全国へとエリアを広げているような状況です」(介事連理事長・斉藤正行氏)


トライアルを経て今年9月に開催されたキックオフイベントには、1,700施設と約2万5,000名の利用者が参加。エブリ・プラス社長の佐藤亜以氏も大きな手応えを感じているようだ。



「Zoomのアカウント制限が1,000までなので、急遽YouTubeで同時配信しました。当社にとっても、ほとんどの施設の方々にとっても初のオンラインで提供される介護レクでしたが、イベント2日前に電話サポート窓口をNTT様と当社で設けるなどして、大きなトラブルなく皆さんに楽しんでいただけました」


エブリ・プラスが介護施設向けに提供するレク/イベントのプラットフォーム上で利用できる、「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」。ニューノーマルに対応したサービスとして、いわゆるアフター・コロナにも高いニーズが見込まれる。


「さらなる普及に向けて、介護事業者がより対価を支払いやすいサービスにしていきたい。そのためには介護レクにおける"笑い"が高齢者の認知機能へ与える好影響について、しっかりとエビデンスを取り、単に楽しいだけではない価値を深堀していくことが重要だと考えています」(斉藤氏)



佐藤氏も生産性やサービスレベルの向上を求める介護事業者に、質の高いレクリエーションの価値を訴求する大切さを強調する。



「芸人さんを招くことが地理的に難しい施設もカバーできるオンラインレクには、複数の施設が共同で開催しやすいという、経済的利点もあります。従来、介護レクリエーションの多くはボランティアによって担われてきましたが、訪問とオンラインの両輪でお笑い介護レクの普及に貢献していきたいです」(佐藤氏)(伊藤綾)