2021年11月22日 10:31 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第1回は「義父母の土地の上に家を建ててはいけない!」です。中村弁護士が自身のツイッターでつぶやいたところ、1万件以上リツイートされるなど大変話題になったこのテーマ。
中村弁護士は「後々の大きな爆弾を抱えてしまうことになるため、絶対にやってはいけません」と話します。果たして、その理由とは?
私は、現在池袋で離婚・男女問題の案件を多く取り扱っています。年間100件以上離婚や男女問題に関するご相談を受けている中で、「夫婦関係が悪化する前から、こうしていればここまで揉めなかったのになぁ」と思うことが多々あります。
これから「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」を5回にわたって解説します。夫婦関係が悪化してから修正するのは難しいので、夫婦関係が良好なときから、また、未婚の方は結婚前から意識してみて下さい。
まず、「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」の第1位が、「義父母の土地の上に家を建てる」ことです。
自分の実父母が所有する土地上に家を建てることも避けたいですが、自分の配偶者の父母の土地の上に家を建てるということは、絶対にやってはいけません(なお、ここでいう実父母、義父母の区別は、建物の所有名義人と土地の所有名義人の関係をいいます)。
これは、特に地方ではよく行われると聞きます。もしかしたら「タダで土地を使えてラッキー」くらいに思う人もいるかもしれません。しかし、これが大きな落とし穴になるのです。
日本の法律上、土地と建物には別の所有権が成立します。当然のことですが、建物を建てるためには土地が必要ですので、土地と建物の所有者が別の場合、土地所有者との間で、何かしらの権利が必要となります。そうでないと、不法占有者になってしまいます。
そして、一般的に、義父母の土地の上に建物を建てる場合、賃料を支払うこともなく、何らの契約書も交わさないことが多いでしょう。その場合、土地所有者(義父母)との間では、「使用貸借」という契約上の権利に基づいて土地を使用することになります。要は「タダで借りる」ということです。
お金を払って借りる「賃貸借」は、借主も一定の負担があるので、借地借家法で借主には手厚い保護がなされています。例えば、建物所有目的で土地を賃借した場合、借地借家法により、契約期間は最低30年とされますので、賃料不払いなどよほどのことがない限り、30年経つ前に追い出されることはありません。
しかし、使用貸借の場合、借主は何の負担もなく、あくまでも貸主の好意で貸されているにすぎないため、権利保護がとても弱いのです。
そのため、特に何も定めていない状態だと、信頼関係が破壊された場合に、いつでも「建物を壊して出ていけ」と言われる危険があります。
もちろん、建物から追い出されたとしても、住宅ローンは残ります。出ていけと言われてしまったら、建物は無価値になるどころか、少なくとも100万円前後の解体費用を支出しなければならない負の財産になってしまいます。
夫婦が離婚するとなった場合、財産分与においては、夫婦で貯めた財産の2分の1ずつもらえるのが原則です。
しかし、義父母の土地の上に建てた建物は、上記のとおり、負の財産でしかないため、建物の名義人は、家を手放して全て相手方配偶者に渡さざるを得ません。その場合は、夫婦で貯めた財産のほぼ全てを相手方に譲ることになってしまうことが多いです。
もちろん、相手に渡したくないなら、夫婦で費用を負担して建物を解体することも考えられますが、建物は住宅ローンの担保になっていることが多いので、担保である建物を解体したら、金融機関との関係で新たな紛争が発生する可能性があります。
夫婦が仮に離婚しなかった場合でも、使用貸借の場合、土地所有者が圧倒的に強いため、義父母と関係が悪化してしまった場合、建物所有者は非常に弱い立場になります。そのような弱い立場のため、相手の言いなりになるしかなく、非常に肩身が狭い思いをされている方をよく見かけます。
また、父母の土地の上に子ども夫婦が家を建てる場合、その父母と子ども夫婦で同居するケースもよくありますが、父母と子ども夫婦の関係が悪化して、子ども夫婦が家を出て父母と別居した、というケースもあります。その場合、父母が住んでいる家の住宅ローンは払い続け、それとは別に自分たちが住む家の家賃を支払うという「二重払い」の状態になってしまいます。
さらに、仮に夫婦関係も良好で離婚せず、親子関係も幸いにして良好であったとしても油断はできません。なぜなら、親はいずれ亡くなるからです。
親が亡くなった場合には、相続が発生します。遺言がない場合、兄弟がいれば土地の共有者として入ってきてしまいます。
私が過去に扱った事件でも、親が亡くなって相続が発生した後に、非常に揉めたケースがありました。建物を建ててから約30年後に起きた紛争です。その事件では、建物を壊して出ていくようにという判決が出されました。最終的にはうまく解決できましたが、薄氷を踏む思いでした。
この記事を読まれている方の中には、「既に建物を建ててしまったよ」という方もいるかもしれません。その場合、今からでも契約書を交わし、賃料を支払うことにして、「使用貸借」から「賃貸借」に変更することをお勧めします。
賃料というと、マンションの家賃などを想像し、月10万円前後払わなければならないのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、土地の賃料は、場所や広さにもよりますが建物の賃料に比べて相当安く、東京23区内で最寄り駅から徒歩圏内でも月2~3万円程度という例もあります。場所によっては、月1万円もいかないかもしれません。その金額で、借地借家法上の強力な保護が得られるなら、安いものです。
以上の理由から、土地と建物は、同じ所有者にしておくことを強くお勧めします。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」がスタートしました。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://naka-lo.com/