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絶滅した鳥“ドードー”をめぐる大活劇が面白い 著者の熱量に圧倒される『ドードーをめぐる堂々めぐり』

2021年11月21日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

絶滅した鳥“ドードー”をめぐる話が面白い

 ドードーという鳥がいる。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場し、挿絵にも描かれていることから、世界的に有名な鳥だ。藤子不二雄の漫画『ドラえもん』にも登場したことがあるので、そちらで知ったという人もいることだろう。


(参考:【画像】旅鳥の美しい姿は必見!「シギチ」の魅力から楽しみ方まで


 ただし、そうした作品で興味を覚えても、実物を見ることはできない。なぜなら数百年前に絶滅したからだ(国際自然保護連盟のレッドリストでは、絶滅年を1662年としている)。私たちは、残された絵や文章、あるいはドードーの標本などを通じて、ありし日の姿を想像するしかないのである。


 ちなみにドードーは、ハト目だが、飛ぶことはできない。ずんぐりした体と、くちばしが特徴。昔は25キロ程度の体重といわれていたが、その後の研究により、現在では10キロ程度とされている。生息地は、マダガスカル沖のモーリシャス島。1598年に発見されるが、人間の乱獲と、持ち込まれたモーリシャス島にいなかった動物が、ドードーの雛や卵を捕食したことにより絶滅した。人間により絶滅した動物は少なからずいるが、その代表といっていい。


 だが、失われた存在だからだろうか。過去から現在を通じて、ドードーに魅了された人は多い。『ドードーをめぐる堂々めぐり』(岩波書店)の著者である川端裕人も、そのひとりだ。


 17世紀の日本に、ドードーが来ていたことを知った著者は、その行方を探求するうちに、どんどんドードーの深みにはまり、四国や九州を経て、チェコ、イギリス、オランダなどを巡り、ついにはドードーが生息していたモーリシャス島での発掘調査にまで参加するのである。その過程で見えてくる、日本と西洋の歴史。ドードーを調査した研究者たちの肖像。博物学と生物学を往還しながら、明らかになっていくドードーの実像と、読みどころが満載だ。いやはや実に刺激的で、面白い1冊なのである。


 その中でも特に興味深かったのが、正保4年(1647)に、ドードーが日本に来ていたという一件だ。この年、長崎で大きな騒動が起きた。二隻の軍船に乗って、ポルトガルの使節が来日したのである。しかし、すでに鎖国していた徳川幕府は、使節が勝手に上陸したり出航することを拒否。四国と九州の藩を駆り出し、港を封鎖したのである。なお本書では、この騒動を「長崎有事」と表記しているので、以後はこれに従う。


 6月から始まった「長崎有事」だが、8月29日に幕府の方針が決定する。端的にいえば、おとなしく帰ってもらい、何もなかったことにしたのだ。いかにも日本的な、なあなあな処置だ。それはさておき、この方針が決定した日の午後に、オランダ船「ヨンゲン・プリンス号」が沖合に現れる。そして封鎖の一部を解いて、湾内に入ることが許された。このオランダ船に、ドードーが乗っていたのだ。なんともドラマティックな話である。


 しかもこの「出島ドードー」の存在が明らかになったのは、最近のことだ。ロンドン自然史博物館の研究員が、このことに関する論文を発表したのは、2014年のことだという。その後の著者の調査により、日本側の史料によって、もっと早く「出島ドードー」の存在に気づく可能性があったことが指摘されている。しかしまあ、よく調べ出したものだ。著者の好奇心に基づく行動力には、感心するしかない。


 さて、これだけでもムチャクチャに面白いのだが、著者の情熱は止まるところを知らない。ドードーを追って、調べに調べる。といってもドードー自体が存在しないので、必然的に周辺調査になる。「出島ドードー」の行方を探索したと思えば、世界的に知られた、日本人のドードー研究家・蜂須賀正氏の業績を調べる。わずかに残された、ドードーの骨や標本を見るために、世界を股にかける。著者の知的冒険の旅は、そのままで貴重な記録になっているのだ。そしてその記録が本になったことで、多くの人があらためてドードーに注目するようになる。もしかしたら、これにより新たな事実が発見されるかもしれない。ドードーの追究に終わりはなく、だからこそ面白いのだ。


 ところで本書の著者は、優れた小説家でもある。だから期待したい。いつかドードーをめぐる堂々たる物語を書いてくれることを。


(文=細谷正充)