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松村北斗×稔がまとう文学的な香り 『カムカムエヴリバディ』を煌めく物語に

2021年11月19日 07:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『カムカムエヴリバディ』(写真提供=NHK)

 きっちりと着こなす詰襟に、朗らかで優しい声。投げかける瞳は一点の曇りなく、いつだって安子(上白石萌音)を真っ直ぐに捉えている。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の雉真稔(松村北斗)は誠実さが光るキャラクターだ。朝の顔にふさわしい気持ちの良い好青年ぶりに加え、気品あふれる佇まいでヒロイン・安子をリードする姿は早くも多くの視聴者のハートを捉えて離さない。


【写真】初めて出会った頃の稔と安子


 そんな雉真稔役に抜擢され、好演を見せているのが、ジャニーズ事務所所属のアイドルグループ・SixTONES(ストーンズ)の松村北斗だ。『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)、『レッドアイズ 監視捜査班』(日本テレビ系)などドラマでの活躍に加え、映画『坂道のアポロン』(2018年)では自ら受けたオーディションで役を勝ち取るなど役者としてもコツコツとキャリアを積み重ねている。


 そもそも松村は目標に向かって真っ直ぐ努力できるタイプの人物だと言えよう。それは彼がジャニーズ入所にむけて幾度も挑戦した経緯や、普段暗めの髪色を役作りのために染め変えて体当たりで挑む姿、そして難しい方言や英語の発音を習得して撮影に挑む勤勉さからも見てとれる。アイドルらしい華やかな立ち振る舞いの中にも努力を怠らない姿勢が、稔役を演じる中でも活きていると感じた。今回の朝ドラ出演では、その努力と才能の両方を遺憾なく発揮し、前半戦を彩るキャラクターとして存在感を見せている。


 そんな松村が演じる稔には、威厳ある雉真の家の“跡取り”にふさわしい品格と知性が感じられる。ディッパーマウスブルースでは外国のレコードに詳しいだけでなく、歌詞の和訳までさらりと披露する博識ぶりで安子を魅了した。他にも、本屋の店先に佇み分厚い本のページをめくる姿や、後に安子には英語の辞書をプレゼントするなど、粋な文学青年ぶりも板についていた。


 そして稔のまとう文学的な香りは、安子との手紙のやりとりからも感じ取れる。


「コスモスが風に揺れ、あぜ道を優しく彩っています」
「木枯らしが吹き上げ、潮の香りをかすかに感じます」


 など四季の移ろいに対してこのような繊細で美しい描写を手紙にしたためるセンスにこそ、内に秘められたノスタルジーとロマンティシズムが現れている。これらのシーンが強い説得力を持って映るのは、松村自身が普段から幅広い芸術活動に勤しみ、多くのことを“自分の体験”として消化してきたからこそ。SixTONESとしての彼が魅せる色香漂う姿に加え、演じる作中でどんどん新たな表情を開拓する松村の活躍からは目が離せそうもない。


 物語は戦況に合わせ刻一刻とシビアになる。稔と安子の恋もまた、一筋縄にはいかない苦しみの中を模索していた。安子はこの恋を「稔さんのことも、きっと忘れられます」と宣言して見せるのだが、その姿はあまりに切ない。これまでにも困難を乗り越えてきたふたりだからこそ、互いの手を携えて“ひなたの道”を歩き続けることを願いたい。


(Nana Numoto)