2021年11月18日 18:21 弁護士ドットコム
特定の民族を貶める文書を社内配布するのは違法だとして、「フジ住宅」(大阪府岸和田市)につとめる在日コリアンの女性が、同社と会長を相手取り、損害賠償などを求めた裁判の控訴審判決が11月18日、大阪高裁であった。
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清水響裁判長は、フジ住宅と今井光郎会長に計132万円の支払いと、民族差別的な文書や、原告を批判したり、攻撃したりする文書配布の差し止めを命じる判決を言い渡した。(ライター・碓氷連太郎)
原告の女性は2002年から、同社で非正規従業員として働いていた。
女性によると、同社では2008年ごろから、戦前の「大東亜共栄圏」を肯定する書籍や、在日を含む中韓北朝鮮出身者を「卑劣」「野生動物」などと書いた文書が配布されていたという。
また、教科書展示会に動員されて、育鵬社の中学教科書に好意的な回答を書くよう求められたこともあった。これらは女性を名指しするものではなくても、差別にあたるとして、女性は2015年8月、計3300万円の損害賠償を求める裁判を起こした。
裁判に先立ち、女性は2015年3月、大阪弁護士会に人権救済を求めたが、会社側は300万円の支払いと引き換えに退職を提案していた経緯がある。
一審の大阪地裁堺支部は2020年7月、会社と会長に110万円を支払うよう命じる判決を下した。
その際、裁判所は「資料の内容と原告個人との結びつきが明確ではなく、原告個人に対する被告会社の従業員が抱く客観的な社会的評価を具体的に低下させる効果があると認めるには足りない。原告の主張は採用することはできない」と、資料配布は女性への差別には結びつかないとしていた。
一方で、「業務遂行と明らかに関連性のない教育の受講を強制することは労働契約上許されない」「労働者の国籍によって差別的取り扱いを受けない人格的利益を侵害するおそれが現実に発生していて、社会的に許容できる限度を超えている」とし、会社と会長が環境型ハラスメントをおこなっていたことは認めた。
さらに、教科書展示会への参加をめぐっては「組織的、計画的、継続的におこなわれた党派的な運動。いわゆる政治活動だった」として、強制を伴わなくても、労働者の思想・信条の自由を侵害する違法行為だと判断している。
この一審判決を不服とした被告側と原告側の双方が控訴した。原告側は、差別的文書と、原告に対する個人攻撃をおこなう文書の配布を差し止めるための追加の申し立てをおこなっていた。高裁判決は、この追加された分を認めたかたちとなった。
高裁判決後の記者会見で、女性は「会社にはこの判決を受けとめて、考えて変わってほしいと思います。判決文に書かれていることを会社が守ってくれれば、いい企業に変わってくれるだろうし、そうなってほしい」と話した。