やっぱり住むなら「ど真ん中」がいいということなのか。あるアンケート調査で東京都中央区が「幸福度トップ」になったそうだ。
少し前のことだが、取材の途中に豊海のタワマン下にあるマルエツでお茶を買おうと入ったところ、楽しそうに買い物している幼稚園くらいの男の子を連れた親子連れがいた。聞き耳を立てているわけではないが、親子の会話が聞こえてきた。
「○○くんは大きくなったら、何になるのかな?」
「んー、パパと同じ電通」
うわ、これが中央区の子どもか。それにしても幼稚園でこれはヤバい。実際、汐留の電通本社に通うのに至便な場所ではあるのだが……。(取材・文=昼間 たかし)
選手村跡地の街づくりも
さて、冒頭のアンケート調査は、大東建託が東京都居住の20歳以上の男女に対して実施した「いい部屋ネット 街の幸福度ランキング2021<東京都版>」のこと。中央区は3位の武蔵野市、2位の武蔵野市をおさえてトップに輝いている。
より詳細な順位では、次のようになっている。
住み続けたい自治体ランキング:3位
誇りがある自治体ランキング:3位
愛着がある自治体ランキング:4位
街の住みここち自治体ランキング:1位
住みたい街自治体ランキング:16位
これらの総合点で港区をおさえてトップに輝いたというわけだ。
多くの商業施設が集まる銀座や日本橋、下町の雰囲気が残る月島や人形町。そして、勝どき・晴海の再開発エリアといくつもの顔を持ち、今後も「東京BRT」の本格運行が予定されているなど、文字どおり大都会の中での暮らしができる中央区。確かに「幸福な暮らし」がイメージできる地域ではあるだろう。
しかし、光あるところには影があるもの。その幸福を味わうためのハードルは極めて高いのだ。
まず住宅の価格がとにかく高い。家族で暮らそうと考えた時、ファミリー向けの2DK以上の物件を探すと築50年近い中古マンションでも価格は4000万円近くが当たり前。賃貸でも2LDKで築40年クラスですら月家賃10万円をゆうに上回る物件ばかり。タワーマンションの増えている月島や勝どきエリアでも、月家賃20万円以上の物件が当たり前。
そう、まずカネがなければ住めないというのが中央区の最大のハードルである。中央区で幸せな家族生活を送ろうと思ったら世帯年収で1000万円超は不可欠だろう。
夫婦共に年収700万円、世帯年収が1400万円という家庭だと、他のエリアならかなり余裕のある暮らしができそうだが、これで中央区にマンションを買ったとすれば月々の支払いはどんなに少なくても15万円以上。子供がいて学費の貯金等々を考えると、かなりカツカツの生活を強いられる。
日々の暮らしも……心地いいのかこれ?
選手村跡地の街づくりも進んでおり、今後発展するエリアと見られている月島・勝どき・晴海エリアだが、その住み心地は決してよいとはいえない。
確かに銀座へバスで10~15分程度。歩いてもいけるという価値はある。でも日々の暮らしに目を向けると疑問だらけ。スーパーはそこそこ充実しているものの、商店の数は限られている。
地元の人が「むかしはスラムだった」と隠すこともなく語るエリアは、再開発ですっかり綺麗になった。ただ、とにかく店が少ない。商店の多くはチェーン店。個人店も家賃を反映してか高め。かつ多くは酒がメインの店だ。街に風情などはいっさいない。
少し歩いて月島ならば、下町情緒があるかと思いがちだが、もはや月島に下町はない。もんじゃストリートは完全な観光地であり、下町の残骸が残るだけとなっている。
もし、繁華街に近くてかつ風情のあるエリアに住みたいならば、日本橋・東日本橋あたりとなるだろう。このエリアでは古くからの住民が減少する一方で、マンションが増加し新住民も増加している。
ただし、そのエリアのマンションを買おうとすると、湾岸エリアと桁が違う億超えになってくることもザラ。もとよりカネで幸福を買える層のためのエリアといえるだろう。ただ、こちらのエリアも日々の暮らしのための、普段遣いの落ち着いた店は少ない。
毎日デパ地下でおかずを買って、週末は外食が当たり前。そんな生活を続けたい……そして続けられるのでなければ、中央区はとても住みやすい街とはいえない。冒頭の親子ではないが、あちこちで「格差」を実感させられる街。それが中央区なのだ。