2021年11月17日 14:51 弁護士ドットコム
演劇界などのハラスメント撲滅を目指している団体が、演出家の男性から名誉毀損で訴えられている訴訟の第1回口頭弁論が11月17日、東京地裁(野口宣大裁判長)であった。
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この訴訟は、ハラスメントの相談を受け付けたり、啓発活動をおこなっている「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」が訴えられたもの。
同会は、ある演出家の男性が、少女に対するわいせつ行為により、児童福祉法違反で実刑判決を受けたのち、再び演出家や主演などに起用されたことを受け、公開質問状を送付したり、署名活動をおこなったりしていた。
男性側は同会に名誉毀損されたとして、公式サイトの投稿削除や謝罪文の掲載、慰謝料500万円などを求めている。同会は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
原告の男性は以前、講師をつとめるワークショップの受講者である少女にわいせつ行為をしたとして、児童福祉法違反の疑いで逮捕され、懲役2年の実刑判決を受けた。
その後、刑期を終えた男性は、事件前に手がけていた舞台の続編で、引き続き原作・脚本・主演などをつとめると発表された。しかし、ネットなどで男性の登用に対する批判が高まったことなどから、同会は舞台のスポンサーに再検討を求めたり、登用を止めるよう署名活動をおこなっていた。
同会が公式サイトで掲載している一連の文書の中で、「(男性が)脚本・演出家という立場を利用しキャスティングを餌に行なった大変卑劣なものであったと思います」などされている点について、男性側は、虚偽であり、名誉毀損だとして、同会代表の知乃さんと同会副代表である田中円さんを訴えている。
これに対して、知乃さん側は答弁書で、同会の記載に違法性はないと反論。さらに、男性側の主張の前提として、当時10代だった被害者と当時40代だった男性が恋愛関係にあったため、性的関係を持ったという認識を持っているのかなど、求釈明をおこなった。
この日、法廷では知乃さんが意見陳述をおこなった。知乃さんは、同会には演劇・映画・芸能界のハラスメント被害者から相談が多数の相談が寄せられるが、泣き寝入りするケースが多いと指摘。「誰かの人権を踏みにじって作る作品など存在すべきではありません」と語った。
一方で、今回の訴えについて「なくす会の活動を萎縮させようとするものにしかみえません」と批判。この方法が成功すれば、演劇界などからハラスメント撲滅を大きく後退させると懸念を示した。
口頭弁論後、被告側は東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた、知乃さんらの代理人である馬奈木厳太郎弁護士も「単なる名誉毀損の訴訟ではなく、演劇界からハラスメントをなくそうという業界の意思が問われています」と語った。
知乃さんらは男性に対する反訴も検討しているという。次回の口頭弁論は、12月22日に開かれる予定。