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身を潜めていた自分の”欲望“がこっそりと顔を出す!? 『欲望屋アンダーグラウンド』の魅力

2021年11月16日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『欲望屋アンダーグラウンド』の魅力

欲望に素直に生きるあなたは、美しい。



 欲望とは、自分の腹の奥底から沸きあがるものだと漠然と思っていたが、少し違うのかもしれない。フランスの精神分析家ジャック・ラカンはこう言っている。「人間の欲望は他者の欲望である」と。


 あらゆる人の”欲望”が絡み合っているこの作品。欲望とは、なんだろうか。イメージでは底が見えない暗い世界、覗いてみたい……。筆者にとっては普段あまり読まない作品に手を出したと思う(最初だけ一瞬、『笑ゥせぇ〇すまん』が頭をよぎった)。GANMA!で公開されている青木ぶる氏の『欲望屋アンダーグラウンド』という作品だ。


※本作には過激・暴力的なシーンも含まれています。


2人の関係とは、犬飼の凪に対する感情とは

 「欲望が満たされた姿は何ものにも代えがたい」という犬飼の謎の理念から名をつけた、なんでも本舗『欲望屋』。そこで一緒に働くことになった凪。昭和の高度経済成長期に建てられた怪しい店が連なる楽園ビルで、2人が叶える欲望。その先には何があるのか……。


 まず目を引くのは、犬飼と凪の関係だろう。2人は同じ中学の同級生であったことや、犬飼が眼帯をしている右目を失った事件、凪と再会するまでの空白の期間に何かがあったということは序盤で明らかになってくるが、どうも2人の関係はひとことでは言いにくい。


 犬飼は自分たちのことを「変な関係」と周囲に漏らすが、凪に対する犬飼の本当の感情はどのようなものなのか。歪んだ愛、狂愛、執着、殺生与奪……一体彼女をどうしたいのだろう。反対に凪は考えていること、感情が真っすぐでわかりやすく(自分でははっきりとは気づいていないっぽいが)、いろいろと顔に出てかわいい。凪の感情の変化とともに、犬飼自身の”欲望”が何かも気になるところだ。


こじらせていた自分の性質に気づく

 自分の性癖(性格の癖や偏り)ってなんだろうとこれまでぼんやり思っていたが、この作品で唐突に気づくことになった。そのひとつは、睡眠薬入りのお酒を飲まされて気分が悪くなっている凪を、犬飼が介抱するシーンでのことだ。犬飼がスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを肩にかけ、凪の口に手を突っ込む。顎を持ちあげ、バケツに何度か吐かせる。「もっと口開けて?」と顔を近づける。なんだ……これ……吐かせているだけで、こんなに色気を感じることってある……!?


 続けて筆者の趣味になるかもしれないが、クール系の黒髪男性キャラが好きである。伏し目がちな目元とか、やや横顔の鼻から口、喉仏、胸鎖乳突筋のラインはずっと眺めていられる。涙ぼくろと黒髪、赤目(赤眼)、スーツの組み合わせもやばい、あと眼帯……あれ? これもう犬飼そのものじゃん。張り付けたような笑顔、時折見せる目が真っ暗で怖い、でも怖いもの見たさからか見てしまう……。


 本作には他にも黒髪イケメンがいる。ビルのオーナーと付き合っているヤンキー気質だけど漢気溢れる黒田、黒ミサ喫茶を営む超絶美魔王と自称するサタンくんもそうだ。特に第46話からはサタンくんの過去話が出てくるが、犬飼に詰め寄られて心と言葉、表情がうらはらになってしまうくらい本音をさらけ出してしまうところは個人的に好きなシーンのひとつだ。苦しくてしんどいのに口元は笑っているとか、どろどろの感情が溢れて余裕がない泣き顔とか刺さりまくる。あと関西弁な、反則。思わず自分の性癖や欲望が溢れ出してくる。人の欲望って奥が深くて、おもしろい。


「好きな男の鎖骨に住みたい」作者のあとがきも必見

 GANMA!でみられる作者のあとがきも面白い。作者の日常生活を垣間見ることができる。本編でのシリアスな展開のあとに、「やっぴー!」「いぇいいぇい!」みたいな脈絡ガン無視のあとがきがあると、コーヒーを噴きそうになる。だけど好き。「好きな男の鎖骨に住みたい」「なんで耳食べとんねん、さすがにひかれる!でも描いちゃう!」と、一番欲望に正直なのは作者ではないのかとさえ思う。読者としてその姿をみられるのは嬉しい。


 本編でもあとがきでも、こうした趣味嗜好に刺さりまくる箇所がたくさんあるので、出血多量覚悟で読んでみてほしい。


■書誌情報
『欲望屋アンダーグラウンド』1~4巻(電子書籍)
作者:青木ぶる
出版社:GANMA!