アニメ映画「アイの歌声を聴かせて」のスタッフトーク上映会が去る11月12日に東京・立川シネマシティ シネマ・ワンで開催され、作品の上映後に原作・脚本・監督を務めた吉浦康裕、共同脚本を務めた大河内一楼が登壇した。
【大きな画像をもっと見る】「アイの歌声を聴かせて」はAIのシオンがその正体を隠して景部高等学校に転入し、クラスで孤立しているサトミの前で歌い出したことから展開されていくハートフルストーリー。シオン役を土屋太鳳、サトミ役を福原遥、サトミの幼なじみであるトウマ役を工藤阿須加が演じているほか、小松未可子、興津和幸、日野聡、大原さやか、浜田賢二、津田健次郎らが出演している。
イベントでは「アイの歌声を聴かせて」の音響監督を務めた岩浪美和監修による“特別音響調整版”を上映。吉浦監督はそのことに触れつつ「僕も観客として行くことが多い立川シネマシティで、岩浪さんが調整してくれた理想の音で鑑賞できるんだなあとお客様目線でも感慨深い思いです」としみじみと語った。司会から作品の着想について聞かれると、「プロットではAIは猫型だったり男性ロボットだったりと、今とは違う設定でした。このプロットを以前ご縁のあった大河内さんにお見せして感想がほしいと依頼したんです」と明かす。一方の大河内は「本音の意見がほしいのだろうと勝手に忖度して辛口コメントでお戻ししました(笑)。それなのに、監督から『一緒に作ろう』とオファーをいただいて驚きましたが、素直にうれしかったです」と笑顔を見せた。
その後、2人で協力して原案を再構築していく中でAIを女性型にすることが決まり、「突然歌を歌うミュージカルキャラ」というアイデアが出たとのこと。この段階で吉浦監督は「僕が今までやりたかったことを実現できる!」と確信したと、シオン誕生のエピソードを話した。大河内は「アニメ作品でミュージカルをやるのは難しいと言われているが、流行っているから作るではなく、やりたい!という監督の熱い思いが作品の原動力となりました」とコメント。「まだ音楽がない脚本の段階で、セリフを重ねて場面を盛り上げるべきか、それとも音楽(劇中歌)に託すべきか迷いながらも、できるだけ会話をセーブしながら書き進めたので、音楽が乗って完成した作品を見て、めちゃめちゃ面白くなっている! これでよかったんだ!と思いました」と満面の笑みを浮かべる。吉浦監督も「脚本と歌のイメージを同時に持って作っていて。やりたいことがはっきりしていたから迷いがなく、作詞の松井洋平さん、作曲の高橋諒さんも僕の思いを一発で形にしてくれて本当に、本当にいいスタッフとご縁だと思いました。さらに打ち合わせしていく中で、僕の想像以上のものを周囲が提案してくれてうれしかったし、贅沢な空間でした」と満足げに語った。
イベントの後半は観客からの質疑応答コーナー。IT業界で働いているという観客から、今の日本社会のAIに関する倫理観にはそぐわない描写もあることについて聞かれると、吉浦監督は「本当は法律上、倫理上よくないとされてる描写もありますが、正しいことだけを描くことがエンターテインメントではないと考えています」「AI社会の未来のポジティブな世界観を作品で表現したかった」と回答する。またほかの観客からサトミの母・美津子の元上司で、現在では部下である野見山のキャラクター造形について質問されると、大河内は「出世したい野見山は、ありがちな成功したいが失敗もしたくない、リスクを背負いたくない会社人です。部下に足を引っ張られるのは嫌だな。成功すれば俺のおかげですよ、と真っ先に言うタイプ!」と説明した。
終盤には大河内が「あっという間でした! 一方的に話し込みすぎましたが、これだけ自分も語りたかったんだなと改めて思いました(笑)。語り足りなかったところは皆さんもSNSなどで語っていただけたら!」、吉浦監督が「本作は細部にもこだわり、いろいろなネタが仕込まれているので、繰り返し観ていただきたいです! そして口コミで広がっている本作ですが、ぜひ友達にも広めてほしい」とそれぞれ挨拶。最後に吉浦監督の過去作品である「イヴの時間」「サカサマのパテマ」も立川シネマシティで上映されることが発表され、イベントは幕を閉じた。
(c)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会