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『東京卍リベンジャーズ』半間修二こそが物語を面白くする トリックスターとしての役割を考察

2021年11月15日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『東京卍リベンジャーズ(23)』

※本稿には『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 古今東西のおもしろい物語には、たいてい“トリックスター”と呼ばれるキャラクターが登場する。トリックスターとは、どこからともなくやってきて、めちゃめちゃに世界を破壊したのちに再生させ、どこかへまた去っていくという、なんとも型破りな(乱暴な?)キャラクターたちのことであり、たとえば、スサノオや孫悟空、プロメテウスやヘルメスなどがその代表格とされている。


 破壊と再生、あるいは、善と悪の両義性を持った彼らは、常識や既成概念にとらわれることなく、自らの信念を貫いて、世界に混乱をもたらし、人々の心を変えていく。そう――破天荒な彼らの行動は常に予測不能であり、だからこそ、目が離せないし、おもしろいのだ。


 さて、このトリックスター、現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで大ヒットしている和久井健の『東京卍リベンジャーズ』(講談社)でいえば、芭流覇羅(バルハラ)初代副総長の半間修二こそが、その役割を担ったキャラクターだと私は考えている。


■手の甲に「罪」と「罰」のタトゥーを入れた「死神」


 『東京卍リベンジャーズ』は、中学卒業以来さまざまなことから逃げてきた26歳のフリーター・花垣武道(タケミチ)が、ある時、タイムリープ能力を発現させ、中学時代の恋人(橘日向)の死を防ぐために、12年前の過去に何度も戻って奮闘する物語だ。また、その恋人の死に絡んでいるのが暴走族・東京卍會(とうきょうまんじかい)であり、タケミチはチームの内部から東卍(トーマン)を――いや、“未来“を変えようとする。


 ちなみに、件(くだん)の半間修二が物語に初登場するのは、第3巻。その時の彼の肩書きは、東卍と敵対する愛美愛主(メビウス)の“仮”総長だ。そののち彼は、芭流覇羅、天竺と所属チームを次々と変えていくのだが、ある時期は、東卍の陸(ろく)番隊隊長を務めるなど、まさに敵か味方かわからないトリックスター的な動きも見せる(もちろん、半間の東卍加入には“裏”があるのだが)。


 そんな半間は、もともとは歌舞伎町を縄張りとしていた暴れん坊であり(先ほどスサノオや孫悟空の名を出したが、“暴れん坊”というのも、トリックスターの条件のひとつだ)、「歌舞伎町の死神」として、新宿の不良少年たちに恐れられる存在だった。両手の甲には「罪」と「罰」という漢字のタトゥー。また、長身で痩せ形の体つきをしているのだが、東卍ナンバー2のドラケンと対等に戦うなど、その腕っぷしはかなり強いと考えていい。


■半間修二はこの物語の“黒幕”なのか?


 なお、この半間修二、物語の要所要所で東卍メンバーの敵として立ちはだかることが多いのだが、いまのところ、何をしたいのかは不明である。数少ない友人(だと思われる)稀咲鉄太に協力していた(あるいは、共闘していた)ようにも見えなくはないが、かといって、彼に“自分”がないとも思えない。


 そういえば――稀咲鉄太といえば、第21巻までは、ほとんどの読者が彼のことをこの物語の“黒幕”だと考えていたことだろう(かくいう私もそうだ)。ところが、同巻所収の第184~185話において、そうではない、ということがわかってしまう。となれば当然、次の読者の“疑いの目”は半間に集中することだろうが、個人的には、(いまの段階では)彼は黒幕ではないだろうと考えている。


 むしろ黒幕は他にいて、半間修二というトリックスターが状況をかき乱すことで、物語を複雑化している(さらにいえば、黒幕的な“誰か”を困らせている)、と考えたほうがおもしろいと思うのだが、いかがだろうか。


 いずれにしても、この半間がいなかったら、『東京卍リベンジャーズ』という物語の“予測不能なおもしろさ”はおそらく半減することだろう。


※ 再度注意。以下、あるキャラクターの生死について触れています。


 第205話(第23巻所収)で、半間は、朋友・稀咲の亡骸(なきがら)を見下ろして、「派手に逝ったなぁ」とつぶやきながらボロボロと涙をこぼす。むろん、だからといって、ある人物の殺害に加担した半間を許すことはできないが、この場面では、彼がただのクレイジーな「死神」ではなかったということが暗に描かれている(余談だが、かつて稀咲は自分のことを「道化」だといっているのだが、笑いと恐怖、現実と幻想など、さまざまな両義性を秘めた道化もまた、トリックスターと近い存在である)。


■型破りなトリックスターが物語をよりおもしろくする


 さて、『東京卍リベンジャーズ』はいま、最終章に突入――主人公・タケミチは12年前ではなく10年前にタイムリープ、その“目的”もこれまでとはかなり変わってきているのだが、現時点では、半間修二の動向はよくわからない(わずかに、稀咲の墓参りをする場面が描かれている)。


 だが、彼がトリックスターである以上は、ふたたび物語のどこかでひょっこりと顔を出し、敵も味方も混乱させて、すべてをぶち壊し、新しい道を切り開いてくれることだろう。


 もちろん、半間修二が“ラスボス”(あるいは、“もうひとりのタイムリーパー”?)として、物語の最後でタケミチの前に立ちはだかる、という展開も充分おもしろいとは思うのだが、それよりはやはり、この「歌舞伎町の死神」には、呼ばれてもいないのに突然現れて、秩序や常識を破壊する“愛すべき傍(はた)迷惑な存在”であり続けてほしいと考えているのは、私だけだろうか。