2021年11月13日 08:51 弁護士ドットコム
元プロ野球選手の清田育宏さん(35)が不倫報道などを理由とした契約解除を不服として、千葉ロッテマリーンズを相手取り、東京地裁で争っています。提訴は9月30日付で、11月4日に第一回口頭弁論がありました。
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(1)契約解除の無効、(2)既払い分を除く2年分の報酬約1億300万円、(3)慰謝料1100万円を求めています。球団側は争う姿勢を見せています。
弁護士ドットコムニュースが東京地裁で訴状などを閲覧したところ、清田さんの代理人は労働問題で実績のある法律事務所の弁護士たちでした。
提訴にいたった背景には、処分の重さだけでなく、処分にいたるまでの手続きへの不満もあったようです。球団側が清田さんの所属する労働組合「日本プロ野球選手会」との交渉に十分に応じなかったなどの主張がみられます。
まずは時系列から確認しましょう。清田さんは2009年にドラフト4位で指名されたロッテの生え抜き選手。2020年シーズンでは、出場こそ70試合で規定打席には達しませんでしたが、打率.278、7本塁打、23打点などを記録。シーズン最終盤には4番も任されました。
契約更改では、前年度の年俸7000万円から1000万円ダウンの1年契約を提示されましたが、清田さんは査定の内容が明らかでないと保留。同年12月27日にあった2回目の交渉で年俸6500万円プラス出来高(最大3500万円)の2年契約を結びました。
【注:なお、清田さん側が提出した証拠によると、契約書には2年契約とある一方、球団側からは提訴前に「1年契約であると認識している」などとする書面が清田さん側に送付されている】
清田さんは1月6日から石垣島で自主トレを開始しましたが、翌7日、写真週刊誌「FRIDAY」で、女性Aさんとの不倫などを報じられました。これを受けて、球団から無期限謹慎処分を受けています。
処分は5月1日に解除されましたが、5月21日にまたもや「FRIDAY」で、別の女性Bさんとの不倫を報じられました。Bさん宅から手をつないで出てきた二人の写真などが掲載されています。
球団は2日後の5月23日、清田さんに契約解除を通告し、公表しました。解除の根拠として示されたのは、▼謹慎処分を解除した球団の社会的評価が低下し、批判の声が寄せられていること▼不要不急の外出自粛など、球団の「コロナルール」に違反するといった自己中心的な行為でチームとの信頼関係を傷つけたこと▼不倫などの不品行な行為を継続したこと――などです。
一般にプロ野球選手は個人事業主とみられていますが、「労働組合法」の上では労働者とされています。清田さん側は、今回の裁判の争点のひとつが、自身が「労働契約法」の上でも労働者に当たるかどうかだとしています。
労働契約法17条は、契約期間中の解雇などについて、「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」として、高いハードルを設定しています。
そして、清田さんは、契約書や監督・コーチの指示に従って、キャンプや練習、試合に参加することから、指揮監督下で労務を提供しているなどとして、自身には労働契約法上の労働者として同条が適用、あるいは準用されると主張します。
そのうえで、▼Bさんとは男女の関係はなく、不倫ではない▼清田さんの妻は現在、清田さんの元不倫相手Aさんを相手に慰謝料を請求する裁判をしており、清田さんがBさんに会ったのは、裁判で妻に有利となる証拠の提供を受けるためだったため、不要不急の外出には当たらない▼球団から示されたコロナルールでは外出自粛は求められていたものの、外出禁止とはされていなかった――などとして球団側の示す契約解除の理由は「やむを得ない事由」には当たらないと主張しています。
労働者性はさまざまな要素から総合的に判断しますが、報酬の額もそのひとつです。プロ野球選手としては突出していないものの、世間一般的には高額と言える清田さんの年俸6500万円がどう評価されるか、という論点も今後出てきそうです。
清田さんは、自身が所属する「日本プロ野球選手会」に対する球団の対応も問題視しています。同選手会は、12球団に所属する日本人選手全員(一部の外国人選手を含む)が会員となっている労働組合です。
清田さんの問題での同選手会の動き出しは早く、1月7日に最初の「FRIDAY」報道があってから、団体交渉などを通じて、球団に対して清田さんへの処分の見直しなどを求めてきました。
たとえば、1回目の不倫報道があってすぐの団体交渉では、処分は一度出してしまうと大ごとになるため、事前に同選手会との話し合いを持ってほしいと要望していましたが、球団側はこれを受け入れず、無期限謹慎処分を発表しています。
契約解除の決め手になった2回目の「FRIDAY」報道についても、同選手会は、処分をする場合は事前に団体交渉をするよう申し入れをしていましたが、球団側は先に処分を公表しました。
契約解除を通告された日、清田さんは同選手会との協議を予定していたそうです。直接の関係があるかは不明ですが、清田さんがそのことを球団側に報告したところ、球団から呼び出しがかかり、その場で契約解除が告げられたとのことです。
清田さん側は、これらについて組合の関与を嫌った不当労働行為だと主張。「本来であれば、原告に保障されるべき手続の適正さを欠き、原告を一方的に排除した」などと指摘しています。
また、1回目の「FRIDAY」報道後の無期限自粛期間中、清田さんは球団施設の使用が禁止される一方、夕方に元チームメイトと近隣の公園で練習したことを球団に報告したところ、練習は人目につかない朝か夜にやるよう指示されたといいます。
満足な練習ができないことは選手生命にかかわるため、清田さんは同選手会を通じて、自粛解除の期間や条件を提示するように求めましたが、球団側からはなかなか回答がなかったと主張しています。
清田さんはこうした球団側の一連の対応に問題があったとして、慰謝料を求めるとともに、ブランクなどから事実上選手生命が絶たれたとして、今後逸失利益を追加で請求する可能性があることも示唆しています。
コロナ禍では、プロ野球の開催も危ぶまれており、関係者がコロナ対策に尽力する中、短期間に報じられた清田さんの2度の「不倫報道」には多くの批判が寄せられました。実際にロッテは2020年シーズン終盤、遠征中の選手の夜遊びが報じられ(「週刊新潮」2020年10月22日号)、関連は不明ながらチーム内のクラスター感染も起きています。
一方で、不倫が報じられた選手は他球団にもいますが、日本プロ野球選手会によると、「不倫などのプライベートの話でこれまで選手が処分された事例はなく、ましてや選手契約を解除された例などなかった」そうです。過去には、脱税や暴力事件で前科前歴がついても契約解除にならなかった選手もいます。
不倫などを理由とした、清田さんへの対応や処分が適切だったのか、裁判所の判断が注目されます。