トップへ

歌広場淳の新連載スタート! 第一回:泣くほど感動した「EVO」の話をさせてくれ

2021年11月09日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳。3月に公開したインタビュー【ゴールデンボンバー歌広場淳が明かす、eスポーツ大会に出場した理由「ゲームで“まじ”になれば人生が変わる」】が大反響を呼んだことを受け、彼による連載「格ゲーマーは死ななきゃ安い」がスタート。記念すべき第一回は、現在アメリカ・ラスベガスで開催されている世界最大級の格闘ゲーム大会『The Evolution Championship Series』(EVO)について、記憶に残る名勝負や、“泣ける思い出”までを語ってもらった。(編集部)


(参考:ゴールデンボンバー歌広場淳が明かす、eスポーツ大会に出場した理由「ゲームで“まじ”になれば人生が変わる」


泣くほど感動した「EVO」の話
 僕が『EVO』という大会を初めて認識したのは、たぶん10年くらい前。当時はまだ大会の規模も小さく、いまのように「eスポーツ」という考え方も浸透していなかったので、仲間内で「ゲームをするために、わざわざアメリカまで行くの?」というような会話をしていたことを覚えています。海外に渡航してまで戦う、ということを想像できなかったし、同時に「もし日本人が参加したら、バチバチに勝つに決まってんじゃん」と。実際、当時は志の高いプレイヤーほど国内で切磋琢磨していて、海外の大会に参加するのは、むしろ楽しんでいるプレイヤーだったと思います。


 それがいまは、海外の大会を転戦するプレイヤーも増え、海外勢との実力も拮抗。『EVO』のような世界最大規模の大会は、ゲーマーにとって名誉をかけて戦う場であるとともに、名を上げるチャンスが得られる場になっているんじゃないかと。例えば去年は、若手のスーパープレイヤー・もけ選手が『ストリートファイターⅤ』で壇上(ベスト8)に残り、大ブレイク。帰国後、スポンサードを受けてプロゲーマーになりました。トップ層のプレイヤーにとってはそういう大会だし、また『EVO』は参加するための敷居が低いので、誰でも祭りとして楽しむことができる。本当に素晴らしい大会だと思います。


 記憶に残る名勝負は数多くありますが、昨年の『EVO』では、『ストリートファイターⅤ』のGrandFinal(決勝)――東大卒のプロゲーマー・ときど選手と、予選から決勝まで1セットも落とすことなく、圧倒的な強さを見せつけてきたPunk選手(アメリカ)の一戦が最高でした。『EVO』のトーナメントは、1度負けても「ルーザーズ」で勝ち続ければ優勝が狙える、ダブル・エリミネーション方式を採用していて、ときど選手は一度、Punk選手に負けていた。ポイントになったのは、豪鬼を操るときど選手が画面端に迫り、空中から飛び道具を放つ「斬空波動拳」を撃った際に、かりんを操るPunk選手が絶妙なタイミングで移動技を繰り出してそれをくぐり、着地の隙をついて倒しきる、というプレイでした。


 しかし! 決勝では同じシチュエーションで、Punk選手が移動技を繰り出したとき、ときど選手は後ろに攻撃判定があるジャンプ中キックでそれを潰した。このレベルのプレイヤーにとっては、「そりゃ対策するよね」という当たり前のことかもしれないけれど、僕は本当に涙を流すくらい感動しました。この一つのプレイに、「負けてたまるか!」「なめるなよ!」という強い思い、相手へのメッセージを感じ、やはり格闘ゲームはコミュニケーションツールなんだ、ということを思い知ったんです。


 ときど選手は見事に優勝。そのときに、配信番組で解説をされていたハメコ。(@hameko)さんが語ったエピソードがまた、素晴らしかった。ときど選手が『鉄拳』のイベントに出演した際に、控え室であるプレイヤーに対して、「もし“鉄拳星人”が地球に攻めてきたらどうする? もし地球の代表が負けたら、人類は滅ぶ。自分は代表に選ばれると思う? 選ばれたい?」と問いかけたそうです。相手が答えあぐねていると、ときど選手は「俺は“ストⅤ星人”が攻めてきたら、地球代表に選ばれたい。最強って、そういうことなんだと思う」と話したそう。


 格闘ゲームに限らず、こんな思いでひとつのことに打ち込んでいる人が、地球上にどれだけいるだろう? 普通は笑っちゃうような話かもしれないけれど、実際に“格ゲー星人”のような異次元の強さを誇っていたPunk選手を倒し、世界一になった。僕も、もし“ライブ星人”が地球に来て、「楽しいライブをしなかったら皆殺しだ!」と言ってきたときに、ゴールデンボンバーは手を挙げられるバンドでなければ、と思います。X JAPANさんが手を挙げてくだされば譲りますけど(笑)、少なくともその気持ちでいなきゃと。これも、格闘ゲームから学んだ多くのことの一つ。人が笑ってしまうようなことを真剣にやっている人は、本当にカッコいいです。


 『EVO』でもうひとつ、記憶に残るシーンを挙げるとしたら、やっぱりあまりにも有名な「背水の逆転劇」。2004年大会の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』部門で、ウメハラ(梅原大吾)選手が、アメリカの英雄=ジャスティン・ウォン選手に対して演じた、劇的な逆転勝利です。ウメハラ選手が操るケンの体力は残り1ドットで、必殺技をガードしても死ぬという状況。そこで、ジャスティン選手は春麗のスーパーアーツ=連続でキックを繰り出す「鳳翼扇」を放つが、ウメハラ選手はそれをすべてブロッキング(※相手の攻撃を受ける瞬間にレバーを入れることで、ダメージを無効化するシステム)して、逆に最大コンボを決めて倒しきった、という試合です。


 テクニックの凄さ、それを大舞台でやってのけた精神力、最後の「それでしか倒せない」というコンボ選択と、多くの要素が詰まったプレイですが、動画が拡散されて、梅原大吾という人を取り巻く環境を一気に変えてしまった、ということが大きいと思います。僕も「女々しくて」のヒット以降、少し感じたことですが、ひとつのきっかけで人生を変えてしまうようなことが、格闘ゲームにもある。この動画はゲームのことを何も知らない人でも、見たことや聞いたことがあるかもしれないし、実際に見てみると、「すごいことが起きている」のは一目瞭然で、現場の熱狂に「格闘ゲームというのは、ものすごい熱量のあるものなんだな」ということを感じられると思います。
 今年1月、その『EVO』が日本に来ました。僕もプレイヤーとして、また配信番組のゲストとして参加させていただきましたが、『EVO』という冠をそのままに『EVO Japan』という“暖簾分け”は、運営委員長・ハメコ。さんの尽力もあって大成功。僕はトーナメント進出をかけた予選プールの決勝で負けてしまったものの、本当に楽しかったし、自信になりました。外国のプレイヤーとオフラインで戦う機会は貴重だし、あの熱狂をもう一度体感したい。来年は2月に福岡で開催されることが発表されているので、僕もぜひ足を運びたい――そう思わせる魅力があります。


 僕は最近、eスポーツ関連のお仕事もいただけるようになり、スター選手が集まるリーグ戦『RAGE STREET FIGHTER V All-star League powered by CAPCOM』(AbemaTV / OPENREC.tv)の配信番組では、格闘ゲームに詳しくない人たちにその魅力を伝えつつ、元々のファンの人たちにも受け入れてもらわなければ……というところで悪戦苦闘していますが、そこで垣間見えたプレイヤーの考え方や、試合に向けての対策、研究の成果などを知ることができて、『EVO』のような大会を見るのが、さらに楽しみになっています。


 今年、世界大会での日本人プレイヤーの活躍はすごいことになると思うし、その端っこの端っこで関わらせてもらっているのが、本当にうれしくて。先日は『勝ったら100万円!SFV AE 賞金首』(AbemaTV/8月23日放送)の収録で、ときど選手に「初めてプレイを見たんですけど、歌広場さん、いいところいっぱいありますよ」とコメントしていただき、舞い上がってしまいました(笑)。ゲーム番組で説得力のある立ち回りをするためには、ゲームで強くなるのが一番の近道。プレイヤーとしてのスキルも磨きながら、格ゲーの魅力を伝えるお手伝いができたらと思っています。


 「大会」について、最後に少し突っ込んだことを言うと――僕が言うのもなんですが、タレントが参戦するお祭り的なものと、そうでないものを分けてもいいのかな、と思います。「eスポーツ」という言葉とともに、開かれたものになっていくのはもちろん素晴らしいけれど、一方で専門用語がバンバン飛び交い、血で血を洗うような、昔ながらのゲーセンみたいなディープな大会もあってほしい。例えば、僕も観戦しに行った『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』の全国大会=クーペレーションカップのような、濃密な空間。ゲームのリリースから20年が経とうというなかでも多くのプレイヤーが集まり、その文脈のなかにいるからこその楽しみが生まれています。遊園地のような大会もあれば、京都の料亭みたいに、一見さんお断りに近い大会もあっていい。そして、僕はそのどちらにも対応していけたら最高だな、と思っています。