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ハマり役続く永野芽郁 新たな代表作『そして、バトンは渡された』で磨いた武器

2021年11月09日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

永野芽郁『そして、バトンは渡された』(c)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

 主演を務めた映画『そして、バトンは渡された』が公開中の永野芽郁。あっけらかんとした性格で、ハツラツとした笑顔が記憶に残る森宮優子役は、彼女の新たなハマり役となっている印象だ。共演者である田中圭、石原さとみ、岡田健史らの力を借りながら、またここに一つ、永野の代表作が誕生したのではないだろうか。


【写真】岡田健史とはしゃぐ永野芽郁


 本作は、2019年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこによる同名小説を実写映画化したもの。血の繋がらない親に育てられ、4回も苗字が変わった主人公・森宮優子の波乱万丈で賑やかな人生が描かれたヒューマンドラマである。優子はいつも笑顔の絶えない人物で、真面目で心優しい。かといってその笑顔は、“底抜けの明るさ”などとというものとは異なる。かつて母親に教えられた、「どんなときでも笑顔でいる」というのが癖づいているのだ。だから彼女は人当たりが良い人物に思われるものの、そのことで周囲から反感を買ったりもするのである。


 この優子を演じる永野。彼女本人にも、“いつも笑顔”の印象が強くある。“朝の顔”として、日本を活気づけた『半分、青い。』(2018年/NHK総合)のヒロイン役はその最たるものだし、ドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(2019年/日本テレビ系)や映画『仮面病棟』(2020年)など、作品のジャンル的に例外はあるものの、例えば2017年公開の『ひるなかの流星』や『PARKS パークス』、『親バカ青春白書』(2020年/日本テレビ系)など、多くのコミカルなタッチの作品や役どころで、物語の中心に立ってきたと思う。そこで彼女の武器になっていたのが、笑顔である。今作『そして、バトンは渡された』でも笑顔が重要だとなれば、これは永野にとって得意どころ、ハマリ役になって当然な気がするというものだ。


 今年の永野のハマり役といえば、フィクショナルな物語世界に狂言回しとしてリアリティを持ち込んだ『地獄の花園』での田中直子役、戸田恵梨香とダブル主演を務めた『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)の川合役があった。しかしいずれの作品でも、笑顔が印象的というわけではなかっただろう。この二作では、天然であっけらかんとしたキャラクター造形がハマり役として作品に反映されていたと思うのだ。これは先述した朝ドラ『半分、青い。』で演じた楡野鈴愛の、どこか頼りなさを感じさせる人物ではあるものの、どこまでも自由なキャラクター性とも重なる。これも永野の得意とするところなのではないだろうか。冒頭で触れているように森宮優子は、“あっけらかんとした性格”と、“ハツラツとした笑顔”が印象的。困難とも思える展開にもケロリとしているこの役は、まさに永野が適任である。


 それに本作で永野は、“笑顔の複雑さ”を手に入れていると思う。私たちが日常生活において、「はい、笑って」といわれて簡単に笑うことができないように、意識すればするほど、笑顔というものは上手く作れない。しかし、俳優は笑顔を簡単に作ってしまう。笑顔の得意/不得意というものは、それこそ幼少期から過ごしてきた環境が大きく影響するのだろうが、俳優はこれを訓練によって習得し、自在に操ってみせるわけだ。そんな笑顔には、バリエーションやグラデーションがある。心の底から笑っているのか、うっかり笑ってしまったのか、無理をして笑っているのかーー森宮優子にはこれが的確に見て取れるのだ。永野は本作で、自身の武器をさらに磨くことができたのではないだろうか。


 『キネマの神様』では名優・宮本信子の少女時代を好演した永野芽郁。これまでに彼女が主役級の役どころに配された作品の多くは、いずれもジャンル性が強いものであった。しかし、特定のジャンルに収まらない『そして、バトンは渡された』で主演を務め、成功に導いている事実は、彼女がまた一歩進んだ証でもあるだろう。


(折田侑駿)