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「内々定」取消しで「就活」イチからやり直し…企業に損害賠償請求できる?

2021年11月07日 10:01  弁護士ドットコム

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部屋探しアプリを運営するベンチャー企業の新卒採用で、内々定47人のうち21人が内々定を取り消されるという騒動があった。


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内々定を取り消されたとみられる人たちがツイッターで声をあげていたところ、同社は11月4日、「弊社側に問題があった」として謝罪するリリースを発表した。



内々定を取り消された21人について、同社は「今後、最大限の誠意をもって個別にご対応させていただく」としている。



ただ、10月に入って、内々定を取り消されたようで、就職活動を一からやり直すことになった人もいるようだ。



一般論として、内々定を取り消された場合、企業側に対して損害賠償を求めることはできないのだろうか。そもそも、「内々定」と「内定」には、どのような違いがあるのか。加藤寛崇弁護士に聞いた。



●「内定」取り消し、どんなときに無効になる?

――「内定」となった場合、法的にはどうなるのでしょうか。



一般に、新卒採用の場合、採用企業は卒業年度の10月1日までに、採用決定の通知(内々定)をしたうえで、10月1日の内定式で正式の内定を通知しています。これは、かつては経団連が定めたいわゆる「就活ルール」、現在は政府の「要請」によって、正式な内定日が卒業・終了年度の10月1日以降とされているためです。



一口に「内定」「内々定」といっても、新卒採用とそうでない場合などまちまちですが、新卒採用の内定で、そのまま労働契約が成立することを前提としている場合であれば、内定によって、「始期付き」「解約権留保付き」の労働契約が成立したことになります。



「始期付き」というのは、現実に働いて給与を受け取るのは4月1日ですが、内定時点で労働契約は成立しているという意味です。「解約権留保付き」というのは、一定の内定取り消し理由がある場合(卒業できなかった場合など)に労働契約が解約されるという留保がついているという意味です。



――企業側が決めた内定取り消し理由にあたってしまった場合は、内定が取り消されても「仕方ない」と諦めるべきなのでしょうか。



いいえ、内定取り消し理由を企業が定めていても、解雇と同様に「客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合」でなければ、内定取り消しは無効となります。企業が「入社後の勤務に不適当と認められたとき」など、広い取り消し理由を定めていても、自由に取り消すことができることにはなりません。



内定取り消しが無効となった場合、通常の解雇が無効となった場合と同じように、企業に給与を支払い続けるよう請求することができます。4月1日以降は「労働者」としての権利を有しており、現実に働いていないとしても、それは企業の責任となるためです。



●「内々定」取り消しで、賠償請求が認められるケースも

――では、「内々定」が取り消された場合はどうでしょうか。



内々定の段階では、求職者側はまだほかの企業に就職活動を続けることもできます。企業側も正式な採用はその後の「内定」によることを予定しているので、一般には労働契約が成立したとは認められません。そのため、内々定の取り消しに対しては、4月1日以降の給与の請求をすることは困難です。



しかし、内々定前後のやり取りなどにもよりますが、求職者側にとって採用されるのが確実だと期待を抱かせながら内々定を取り消した場合や、企業側の対応が不誠実であった場合(採用方針について的確な情報を提供しないまま採用せず、安定した職を失わせてしまったケースなど)では、一定の賠償請求は認められています。



――賠償が認められたのは、具体的にどのようなケースでしょうか。



内定式直前に企業が内々定を取り消したり、転職のケースで労働者に前職を退職させておきながら内々定を取り消すなど、求職者に相当の不利益が生じたと思われる例が多いです。ただし、判決で賠償が認められる場合の賠償額は、50~300万円程度で、現実の損失からすると金額としては疑問が残ります。



――たとえば、企業側が半数以上の内々定者について、内々定を取り消した場合はいかがでしょうか。



半数以上の内々定者の内々定を取り消したことだけで結論が決まることではありませんが、企業側が無責任に多数の内々定をしたのではないかと判断され、内々定取り消しが不誠実であるとして、賠償責任が認められる方向で影響すると考えられます。



●企業名のSNS上への投稿、法的リスクは?

――内々定を取り消され、企業名をSNS上に投稿すること人たちもいます。このような投稿が「名誉毀損」にあたるなどの法的リスクはありますか。



多数の内々定取り消しが事実であれば、それはその企業から内々定をされても取り消されるおそれがあるということにもなります。ほかの被害者を出さないためということであれば、投稿も公益目的があり、名誉毀損は成立しません。




【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/