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『ミミズクと夜の王』残酷でシビアな世界に垣間見える優しさ 作者が本作に込めた思いに迫る

2021年11月06日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『ミミズクと夜の王(2)』(花とゆめコミックス)

 なんて可愛い漫画なんだろう。だが、その内容はことのほか残酷でシビアだ。


 紅玉いづきの小説『ミミズクと夜の王』(KADOKAWA)が、鈴木ゆうの手によっていま、漫画化されている(漫画版は白泉社より、現在第2巻まで刊行中)。


彼女が初めて手に入れたかけがえのない「居場所」
『ミミズクと夜の王(1)』

 主人公は、手枷・足枷をつけられ、額には「332」の焼印を押された少女「ミミズク」。物語は、このミミズクが、ある美しい月夜に、「夜の王」と呼ばれる魔物と森の中で出会う場面から始まる。夜の王とは、「月の瞳を持つ森の絶対の支配者」のことであり、黒い大きな羽が生えたまるで悪魔のような姿をしているのだが、ミミズクは“彼”を「きれい」だと思い、こう問いかける。「ねーねー きれいなおにぃさぁん あたしのこと 食べてくれませんかぁ…!?」


 そう、手枷・足枷や額の焼印を見てもわかるとおり、ミミズクはもともとはある「村」の奴隷だったのだが、わけあっていまは自由の身になっている。だが、彼女が選んだのは生き長らえることではなく、森で魔物に食べられることだった……。


 夜の王はそんな彼女の願いを聞き入れはしない。しかし、それは、ミミズクが生まれて初めて他者から“許し”を与えられた瞬間でもあった。


 一夜明けて、彼女は別の魔物と出会う。この魔物の存在が、なかなかいい。ミミズクによって「クロちゃん」という愛称をつけられることになるその魔物は、のちに主人公のメンター(導き手)兼バディとして、また、作品世界の解説者として、物語を陰から支えていく。


 森は、あるいはふたりの魔物は、奴隷だった彼女に、温かい食べ物から“優しい心”にいたるまで、さまざまなものを与えてくれた(「そんなものをつけて 邪魔ではないのか」と手枷・足枷のことを夜の王に問われ、「あたしの持ってるもんて これっきゃないからー キライじゃないよーう」とミミズクが答える場面のなんと切ないことか)。つまり、人々が恐れる魔物の森は、彼女が初めて手に入れたかけがえのない「居場所」だったわけだが、幸福な時間はそう長くは続かなかった。


 「森の魔物に囚われた少女の救出」を名目にして、大国・レッドアークの国王が、聖騎士に「魔王討伐」を命じるのだ。ここから先の展開について書くのは控えておこう。ただ、その後、舞台は「人間の世界」に移り、そこでもミミズクはそれまで知らなかったさまざまことを知っていく(あるいは、与えられていく)。最も大きかったのは、「クロ」以外の初めての人間の「友達」ができたことだろうが、そのあたりのエピソードについては3巻以降に描かれるだろうから、いまはこれ以上は触れないでおく。


 いずれにしても、この『ミミズクと夜の王』という物語は、「明日がかわるなんて信じられ」ず、人であることをやめようと思ったひとりの少女が、“人の心”を得るまでを描いた成長譚だ。しかもその心を最初に与えてくれたのが、“人ではない”者たちだったという展開も、なんとも味わい深いものがあるではないか。


 本稿の冒頭で私は、この漫画のことを「可愛い」と書いた。それはひとえに主人公の可愛さに他ならない。奴隷として過酷な世界を生き抜いてきた、そして、絶望の果てに魔物のいる森を目指した少女・ミミズク。そんな彼女は、どんなことがあっても、持ち前の明るさを失うことはなかった。その姿が、なんともいえず、可愛いのだ。かつていた「村」の人々は、ミミズクに鎖でつながった手枷・足枷しか与えてくれなかったかもしれないが、彼女のこの明るい性格は、彼女が生まれながらに持っている、いわば、神様が与えてくれたものだろう。


 だからこそ、ミミズクの成長は、周りの魔物や人間たち、さらには世界をも変えていくのだ。


 そう、(漫画版がまだ完結していない段階で、こういうことをいうのもなんだが)この再生の物語を最後まで読み終えた時、あなたはきっとなんともいえない優しい気持ちに包まれることだろう。それはたぶん、原作者と漫画家のふたりが本質的に持っている“優しさ”が、一見残酷な物語のコマとコマの間から滲み出ており、その“想い”が我々読者を温かく包み込んでくれるからに他ならない。


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