2021年11月06日 09:31 弁護士ドットコム
衆院選と同時に実施された最高裁裁判官の国民審査では、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲と判断した裁判官4人が不信任率の上位を独占した。形骸化が指摘され、話題になりにくい国民審査の結果ながら注目された。
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一方で不信任率がもっとも高かった裁判官は7.85%。過去最高の15.17%(1972年)はもとより、前回2017年でもっとも高かった裁判官の8.58%にも及ばず、絶対的な値としては低いとも言える。
こうした結果をどう捉えるべきなのか。著書に『最高裁裁判官国民審査の実証的研究』(2012年、五月書房)がある明治大学の西川伸一教授に聞いた。(編集部・園田昌也)
そもそも、今回の結果は本当に夫婦別姓と関係あるのだろうか。西川教授が着目したのは、不信任率の上位から3つにグループ分けができる点だ(以下、敬称略)。
【合憲判断】
深山卓也(7.85%)、林道晴(7.72%)、岡村和美(7.29%)、長嶺安政(7.27%)
【違憲判断】
宇賀克也(6.88%)、草野耕一(6.73%)、三浦守(6.71%)
【関与なし(着任したばかり)】
岡正晶(6.24%)、堺徹(6.24%)、渡辺恵理子(6.11%)、安浪亮介(5.97%)
つまり、夫婦別姓を求める人だけでなく、夫婦別姓に反対する人の数も一定程度可視化されたと考えられる。
一方で、不信任率トップだった深山裁判官の7.85%という数字は決して高いものではなく、2000年からの8回の国民審査、全66人中33番目に過ぎない。
この点について、西川教授は(1)投票率の上昇、(2)対象裁判官の多さという2つの理由を指摘する。
まず、今回の投票率は55.69%で、前回よりも2ポイントほど上がった。普段選挙に行かない人が足を運んだことで、国民審査にまで十分検討の時間を割けなかった人が増えた可能性がある。
また、今回対象になった11人という数は、第一回の国民審査の対象者数14人に次ぐ、史上2番目の多さだった。単純に全員に不信任のバツをつけようとしても労力がかかる。人数が多い回は不信任率が低くなる傾向があるという。
絶対的には決して高くない不信任率というのは、最高裁裁判官の判断に影響することはあるのだろうか。
実際、不信任率が直接的に影響したかは定かではないが、国民審査を経て判断が変わった事例もある。
たとえば、下田武三裁判官が過去最高の不信任率15.17%を記録した1972年の国民審査では、青年法律家協会(青法協)に所属する裁判官の脱会工作を主導した岸盛一裁判官への罷免運動も活発におこなわれた。
この結果、岸裁判官も14.59%という高い不信任率を記録。その後、この問題をめぐって司法修習生を罷免された阪口徳雄氏(現・弁護士)が再採用された。
また、2009年の国民投票では、ほかの裁判官の不信任率が6%台なのに対し、涌井紀夫裁判官と那須弘平裁判官の不信任率が7%台中盤を記録した。2人は一票の格差をめぐる裁判で、「合憲」判断を下したことから、原告の弁護士グループから、全国紙の意見広告でバツをつけるよう名指しされていた。
罷免運動について那須裁判官(現・弁護士)は次のように述懐している(以下、いずれも『法曹』2017年2月号:法曹会)。
「『あの大法廷判決は、それほどまでに非常識な判決だったのか……』(…)等と心の中でぼやいたこともある」
「不安感が心中を横切らなかったといえば嘘になる」
関連は明らかではないが、那須裁判官はこの国民審査の1カ月後にあった、別の一票の格差訴訟の最高裁判決で、「違憲」に転じている。
国民審査で「民意」を示すことに批判的な意見もある。最高裁はあくまで法律に則して判断しているのであって、有権者の感覚や希望で裁判官を評価して良いのかというものだ。
今回の国民審査では、沖縄県で平均15%弱という高い不信任率が記録されたことも話題になった。政府への反発や辺野古新基地をめぐる最高裁判断が影響しているとみられる。
こうした結果が政治や司法判断に影響するかは定かではないが、国民が最高裁をジャッジできるのは国民審査しかない。