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映画俳優・奥野瑛太が『最愛』で知らしめる実力 2021年現在の梨央と政信の関係は?

2021年11月05日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

奥野瑛太『最愛』(c)TBS

 好評放送中である吉高由里子主演のドラマ『最愛』(TBS系)において、“主人公の兄”という、重要なポジションに配されている奥野瑛太。映画ファンにとってはお馴染みの俳優だが、今作が彼の力量を知る機会となっている方も多いのではないだろうか。堅実に作品を支えつつ、物語の盛り上げ役を担っているように思うのである。


 奥野といえば、やはり「映画俳優」の印象が強い。代表作『SRサイタマノラッパー』(2009年)とその最終章『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012年)の“MC MIGHTY”役で多くの映画ファンに鮮烈なインパクトを与えて以降、絶えず映画界から愛されてきた印象があるのだ。『高崎グラフィティ。』(2018年)の川島直人監督や『37セカンズ』(2020年)のHIKARI監督、『ラブ&ピース』(2015年)の園子温監督、『友罪』(2018年)や『糸』(2020年)の瀬々敬久監督などなど、メジャー/インディーズを問わず、新進気鋭の監督たち、そしてベテランの監督たちから必要とされている事実は、彼のバイオグラフィーを振り返れば明らかだ。スペクタクル超大作『アルキメデスの大戦』(2019年)のクライマックスシーンにおいて、激しいセリフの応酬に参加していたことも記憶に新しい。


 2021年は、西川美和監督作『すばらしき世界』で演じたチンピラ役や、熊坂出監督による『プリテンダーズ』で演じたネット記者役が素晴らしかった。どちらの作品も出番は決して多くはない。しかし前者では、役所広司演じる元ヤクザの、その根幹にある凶暴性を露呈させるに相応しい暴力的な若者を演じ、結果的に恐ろしいシーン作りに貢献。また後者では、インターネット上で過ちを犯す少女を追い詰める役どころを演じ、“一度過ちを犯すと、そう簡単には許してはもらえない”ーーそんな社会の厳しさを、淡々とした冷徹な語り口によって体現していたと思う。マンガ原作映画の実写化に、文学作品の映画化、社会に一石を投じるオリジナル作品まで、何にでも適応してみせる俳優である。


【写真】横暴な態度をとる若かりし頃の政信


 そんな映画での印象が強すぎることもある奥野だが、実際はテレビドラマにも膨大な数の作品に出演している。記憶に新しいところでいうと、やはり朝ドラ『エール』(2020年/NHK総合)での好演だろう。昭和の音楽史を中心に描いた同作で彼は、ヒロイン(二階堂ふみ)の姉の夫役を演じた。真面目な職業軍人で、音楽というものにも理解を示す人物。非常に礼儀正しい男ではあるが、厳格でプライドが高い。だからこそ、終戦後はなかなか職にありつけず、新しい時代に馴染めずにくさっていた。しかしやがては家族のため、そして生きていくために屋台のラーメン屋で奮闘し、戦後の生き方を模索しようとしていくさまが強く心に残っている。本作で奥野の存在を知った方も多いのではないだろうか。


 そんな奥野。どちらかといえば穏やかな登場人物の多い今作『最愛』において、彼が演じる真田政信は高圧的なキャラクターである。この政信は、主人公・梨央(吉高由里子)の実兄。両親の離婚が原因で幼い頃に離れ離れになり、父(光石研)の死をきっかけに、2人は再会することとなった。岐阜の田舎から東京へと出てくることを余儀なくされた梨央とは対照的で、何不自由なく育ってきたのであろう政信。奥野は限られたセリフと仕草によって、梨央との関係性、本作における政信の立ち位置までをも示している。


 本作は、梨央が上京してきた2006年と、彼女がとある殺人事件の重要参考人となっている2021年の物語が交差するかたちで展開していくものだ。15年もの時が経っているとはいえ、過去の梨央と現在の梨央とはまるで違う。政信が、孤独な少女が自立していくための一つのハードルともなったのは、第2話で描かれたとおり。梨央は自分のことを押さえつけてくる兄をやり込めることで、小さな自信を得たのだと思う。2021年現在の梨央と政信の関係、そして今後の作品における彼の立ち位置が気になるところだ。演じる奥野はどのような関わり方をしていくのだろう。


 さて、優れた俳優なのだと、知る人ぞ知る存在であった奥野。本作『最愛』で見せる姿は、今後ますます広く、彼の存在が世に浸透していくきっかけに繋がるのだろう。奥野瑛太を知るのは、いまからでも遅くない。ぜひとも知っておくべき俳優だと、ここで断言したいのだ。


(折田侑駿)