2021年10月30日 10:01 リアルサウンド
私立恵比寿中学の安本彩花が、10月29日に1st写真集『彩aya』をリリースした。ちょうど1年前の10月29日は、彼女が悪性リンパ腫の診断を公表した日。壮絶な治療を経て2021年4月5日に寛解を報告した彼女が、「待っていてくれたすべての人への恩返し」として制作したのが、この写真集だ。
大きな病と向き合ったからこその表情、そして強い意志を感じる眼差し。そんな魅力的な写真たちは、すべて安本自身によるセルフプロデュースという。「誰かに勇気や自信を与えたい」というこの写真集に込められた強い願いがひしひしと伝わってくる渾身の一作である。
ハイトーンのベリーショートヘアの彼女は驚くほどヘルシーで、弾けんばかりの笑顔を見ているうちに、こちらが元気をもらっていることに気づかされる。なぜこれほどまでに前向きな写真集を作ることができたのか。その本音に迫った。(佐藤結衣)
(参考:【写真】安本彩花の撮り下ろし写真&写真集カットをチェック)
■“彩”る私と“素”の私、どちらもありのままに
――今回の写真集はマネージャーさんに直談判して企画がスタートしたそうですね?
安本彩花(以下、安本):そうなんです。「こういうのを作りたいです!」って連絡してお願いしたんですけど、そのときはまさか本当に実現すると思ってなくて。でも、今言わないと絶対に後悔するって思ったんです。だから、こうやって満足のいく写真集ができたのがすっごくうれしい。なんか自分の作品だけど、見ていてどんどん自分の魅力に魅了されて「私、素敵じゃないの!」みたいな(笑)。早くファンのみなさんに届けたいなって思っていました。
――具体的に「こういう写真を撮りたい」といったところから安本さんがプロデュースされたんですか?
安本:そうです。この写真集は“ありのままの私“を一番に表現したかったので、ずっとお世話になっていて本当に私のことを知ってくださっているスタッフのみなさんとどうしても作りたいってところからお願いしました。私自信、闘病中にカッコいい女性たちの写真を見て勇気をもらった経験があったので、私のなかの“女性の強さ“みたいなところも出していきたいというのも、こだわりとしてありました。
――カッコいい女性たちとはどのような方々だったのでしょうか?
安本:特定の誰かというわけではなかったんですが、例えば役作りのために坊主になった女優さんや、乳がんになった友だちと一緒に頭を剃ったシンガーさんとか……いろんな理由で髪を手放した女性たちですね。みなさん「髪がなくなってからのほうが自信が持てるわ」ってキラキラしておっしゃっていて、そういう姿にすごく勇気をもらったんです。私もそんなふうになりたいって思いました。
――今回の写真集に収められている表情を見ると、一段とパワーアップしたというか、さらに元気を届ける側として戻ってきた印象です。
安本:ありがとうございます。やっぱりみなさん少なからずコンプレックスって何かしらあったりするじゃないですか。性別を問わず、容姿に関わることじゃなくても、どっか自信が持てない部分ってあると思うんですけど。そういうときに私の存在が少しでも自信に変わったり、少しだけ「よしっ!」って思うきっかけになれたらなって思っています。
――ご自身でお気に入りの写真といったら、どちらになりますか?
安本:本当は、全部お気に入りなんですけどね! 自分で言っちゃいますけど、どれもめちゃくちゃ良くて、選ぶのがすごく大変でした。でも、やっぱりこの黒いドレスを着ている写真は、この写真集を作るにあたってやりたかったことを象徴している1枚ですね。ポーズもいろいろ研究しました(笑)。メイクも、ふだんのアイドルらしいメイクからは少し飛び出して、おしゃれを楽しませてもらいました。
――撮影時、印象に残っていることはありますか?
安本:ロケで行った八ヶ岳もすごくキレイで、作品としてはすごく素敵なんですけど、個人的に思い入れが深いのは、実家で撮ったカットですね。自分の部屋で、すっぴんで撮るとか、なかなかできない経験でした。
――え、この写真すっぴんなんですか!?
安本:そうなんですよ、本当に素の状態の自分で。
――そうだったんですね。とっても素敵です!
安本:ありがとうございます! 実家は自分が治療していた場所でもあったので、正直いまでもセンチメンタルな気持ちになっちゃう瞬間もあるんです。でも、それも含めて私のリアルだから。何か作品として表現できたらと思って。ドレスで着飾っていろんな色を彩る私がいるなら、何にも染まっていない素の私も見せていきたいなと思って、実家で撮影したいとお願いしました。
――実家というプライベートな場所に、お仕事関係の方々がいるって、変な感じしませんでしたか?
安本:すっごく不思議な感じしました! そのときカメラマンさんに言われたんですけど、やっぱり実家にいるときの私の表情が、ふだん恵比寿だったり仕事場にいるときの顔と全然違うんですって。表情だったり、目の感じとか。そのあたりも今回のチャレンジがなかったらわからないことだったので面白かったです。
――ご家族はどんな反応されましたか?
安本:撮影時、お父さんがいたんですけど……私のお父さんって結構お節介な人で(笑)。「ここで写真撮りなよ」とか「これと一緒に写真撮ったらどう?」とか、めっちゃ入ってくるんですよ! 「わかったよ、わかったよ」って撮影していました。私の実家は美容室なんですけど、そのエリアで撮影しているカットは、お父さんの背中もちょっと写ってます。
――これはお宝ショットですね!
安本:そうですね(笑)。昔から応援してくださっている方は、お父さんのことも知ってくださっているので楽しんでいただけたらうれしいです。
■“復帰“というよりも“生まれ変わった“イメージで
――先ほど、いまでもセンチメンタルな気持ちに……とおっしゃっていましたが、今回の経験をされる前とされた後で、心の持ち方に変化はありますか?
安本:今となっては、すごくその経験がいい意味で大きな変化になっていて。むしろ明るく物事を捉えられるように変わっているので、自分にとって大切なかけがえのない時間になったんだなって思います。
――つらい経験って、乗り越えなきゃと思うとさらにとらわれてしまいそうになりますが、うまく付き合っていくという感覚がつかめてくる瞬間がありますよね。
安本:そうですね。いまはそんな感じになりつつあります。
――今回の写真集では壮絶な闘病時の思いもインタビューで収められていますが、ここまで気持ちの面で頑張ることができたのはどうしてだと思われますか?
安本:私はやっぱり歌うことが大好きで、「必ずまたステージに戻って歌うんだ」っていう思いだけは、常にブレずに持つことができたんです。それがやっぱり糧になっていて。くじけそうなときもあったんですけど、私には戻るべき場所があるんだって毎回思って頑張ることができたので。好きなことだったり、「これを頑張ったらこうするんだ」っていう願いが、大事だったなって思います。逆に、「ああ、私って本当に歌うことが好きなんだ」って気づかされた部分もありましたね。
――いま、ご家族のみなさんに対する思いはいかがですか?
安本:たくさん心配をかけてしまったからこそ、これからは本当に元気で楽しくやっているんだよっていう姿を見せたいなと思っています。きっとそれが私ができる親孝行というか、恩返しになるかなって思いながら。まわりのみなさんに感謝しながら、本当に小さなことから全部楽しんで、毎日過ごせているなって思います。
――体調管理の面で意識は変わりましたか?
安本:もともと私は何をやるにもやり過ぎちゃうタイプなので、いったん冷静になるように心がけています。そういう面では、すごくメンバーに助けられていて。みんな、私のそういうところはいいところでもあるけど、ちょっと気をつけようねって言ってくれて。私がちょっと頑張りすぎるときには「彩ちゃん! またやっちゃってるよ!」みたいに一声かけてくれるみたいな。自分でも気づけないことがあるので「あ、はい。気をつけます」って(笑)。すごくありがたいです。
――闘病中もメンバーのみなさんの存在は支えになっていましたか?
安本:はい。常に連絡をとっている子もいれば、ただただ優しさで見守ってくれる子もいたりして。1人ひとりの思いを感じることができました。「大好きな場所だし、大好きな仲間だから、絶対またみんなと歌って踊ってパフォーマンスしたい」っていう思いで頑張れたのも、メンバーがいてくれたからだし。みんなにもそう伝えると「待っているよ」「のんびり待っているからね」って、毎回安心するような言葉を言ってくれていました。
――ファンのみなさんからの言葉はどのように届いていましたか?
安本:InstagramのコメントだったりDMだったり応援のメッセージはもちろんなのですが、何気ないことを送ってくれる人たちがいたのがうれしくて。かわいい子や歌って踊れる子ってたくさんいるし、いつ自分のことを見てくれなくなっちゃうかわからないというか、いつまで待ってくれるかわからないなって不安になることもあったんです。でも、そういう何気ないメッセージをもらうことで、つながっている安心感というか「大丈夫だよな」って思うことができました。
――歌に関しては、今までと感じ方が変わったというようなことはありましたか?
安本:ありました。前までは歌っていて必死になってしまう部分が多かったというか。「この思いを伝えなきゃ!」みたいなのが強すぎて。純粋に歌うことを楽しむっていうことがちょっとおそろかになっていたなって気づきました。いまはとにかく歌っていることが楽しくて、その気持ちよさが発声にもすごく反映されているなって思う部分があるので、その感覚はこれからずっと大事にしていきたいなって思っています。
――発声から変化を感じたんですね。
安本:はい、すごく喉が開いているというか。もともと私はメンタルが歌に出やすいほうなので。嘘がつけないというか、自分のコンディションが全部出ちゃうタイプなんですよ。だからこそ、余計に感じられたのかもしれないです。前の歌もすごく好きだなって思う部分もあるんですが、また新しい挑戦の道が開けているのかなって思って。いろんな表現法というか、歌の表し方をしていきたいですね。
――素晴らしいですね。やっぱり治療して元の状態に戻ろうじゃなくて、バージョンアップしたという感じがします。
安本:本当、自分でもそう思っていて。復帰というよりもさらに強く生まれ変わったイメージなんです!
■今度は希望をもたらす存在になりたい
――いまコロナ禍で、急な病と向き合わなければならなくなってしまった方や、社会の混乱に巻き込まれる形で二度とない貴重な青春やライフイベントが奪われてしまった方もいると思うのですが、安本さんから伝えたいメッセージはありますか?
安本:そうですね。実際に私も治療していく中で「自分の人生が1回ストップしちゃっているな」「まわりのみんなはこんなに前に進んでいるのに」って思ったこともありました。でも、テレビやネットを見るとみんなそれぞれのステージで悩んでいるなって思うことができたんです。だからなかなかうまく前に進めず苦しんでいるみなさんも、横を見ればきっと同じ思いをしている誰かがいるから、「独りじゃないよ」っていうことは伝えたいなってすごく思います。私も部活の大会がなくなってしまって悲しんでいる子の話をテレビで見て、事柄は違うかもしれないけれど悩んで苦しんでいるのは一緒なんだなって。だから、「いつか私もその子も笑える日が来るといいな」って、「一緒に頑張ろうね」って勝手に思っていました。
――そういう意味では、SNSで近いステージで悩んでいる人と繋がりやすい世界にはなりましたね。
安本:私もいろいろ検索しました。YouTubeとかでもまっすぐな気持ちをカメラに向かって話している人もいて。リアルタイムで同じように悩んでいる人もいれば、ちょっとだけ先を見せてくれる人もいて。逆に、わたしが次の誰かの希望になれるのかもしれないって思うことができました。
――希望のリレーですね。
安本:本当にそうなったらいいなって。今回、この世界は本当に人と人とが支え合ってできているなって経験したので。私が、そのバトンを渡せたらいいなって思います。
――直談判してセルフプロデュースの写真集の願いを叶えることができましたが、これからさらにやってみたいことってありますか?
安本:いろいろ社会が落ち着いたらニューヨークとか行ってみたいですね。新しい考えみたいなのが生まれるような場所に行って、刺激を受けたいなって思います。大胆な行動している人ってすっごく楽しいじゃないですか。そういう人たちが集まる場所でまた写真も撮りたいですし、できたら路上ライブもして歌いたいです。以前、エビ中でトルコに行ってライブをさせてもらったことがあって、路上ライブに近いというかほとんどゲリラライブだったんですけど、すっごく面白かったんです。国が違うだけで、こんなにもセッション感が違うんだって、発見ばかりで! そういうことを色んな国でやってみたいなって思います。
――いいですね! これからの活躍がますます楽しみになりました。最後に写真集の発売を待ち望んでいたファンのみなさんへメッセージをお願いします!
安本:ここまで私の帰りを待ってくれたみなさんに、感謝の気持ちを込めてこの写真集を作らせていただきました。そして、その先には「いろんな人に自信や勇気を与えたい」という強い思いを込めた作品ですので、何か少しでもみなさんの支えになれたらいいなって思っています。これを手に取ってくださったファンの方や、この写真集をきっかけに初めて私を知ってくださったみなさんには、SNSとかで感想やコメントをいただけたらうれしいです。そうやってみなさんのコメントをきっかけに、また新たな私の表現というか「じゃあもっとこういうことをやってみよう」ってなるような気がしていて。そう思うと、みなさんの手元に届くことにすごくワクワクしています。オフショットの部分には「こういう気持ちで撮ったよ」とか「この場所にはこういう思い入れがあるよ」みたいな読み込む部分もあるので、ぜひ隅々まで楽しんでください! よろしくお願いします!!
(取材・文=佐藤結衣/写真=はぎひさこ)