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アニメファンのためのVR入門 オタクが夢見た「画面の中に入れるコンテンツ」の最前線!“VR”の魅力と始め方

2021年10月29日 17:10  コミックナタリー

コミックナタリー

「アニメファンのためのVR入門」ビジュアル
近頃、あちこちで耳にする“VR(バーチャル・リアリティ)”。最新技術を駆使したVRコンテンツには、アニメの世界に入ったような特別な体験ができたり、ここでしか味わえないオリジナルストーリーが用意されていたりと、さまざまな魅力がある。しかしゲームやガジェットに詳しくない人にとっては、興味が湧いても「よくわからないから」と手を出せずにいる人もいることだろう。

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本コラムでは、アニメ好きでVR文化にも詳しいWebライター・けいろー氏に、VR初心者のアニメファンでもVRに触れてみたくなる入門ガイドを執筆してもらった。前編ではVRの魅力と現状を解説。後編ではVR×アニメの魅力を体験できる主だったタイトルのいくつかと、それらをプレイするためのVRデバイスを具体的に紹介していく。

文 / けいろー

■ はじめに
近年、私たちにとってますます身近な存在となりつつある、VR(バーチャル・リアリティ)の世界。2020年には「ポケットモンスター」や「ソードアート・オンライン」といった人気タイトルのバーチャルイベントが話題になったほか、安価なVRヘッドセット・Oculus Quest 2が発売された。テーマパークや展示施設でのVR活用も進んでおり、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにオープンした新アトラクション「鬼滅の刃 XRライド」も話題となっている(参考:「鬼滅の刃」の“VRジェットコースター”がUSJに!煉獄と猗窩座の激闘を360度から体感)。

分野を問わず、今まさにあちらこちらで広まりつつあるVR。連載後編となる本記事では、アニメファンにぜひともおすすめしたいVRコンテンツを紹介する。前編では主にテーマパークで体験できるVRアトラクションを紹介したが、今回取り上げるのは家庭用VR。テレビゲームのように自宅で好きなときに楽しめるVR、それもアニメやマンガが好きな人にとってはおなじみの、人気タイトルのVRコンテンツを紹介する。さらに記事の後半では、VR機器の種類と選び方についても説明。少しでもVRに興味がある人は、ぜひ参考にしてみてほしい。

■ あの人気作品も! アニメファンにおすすめのVRゲーム
VRコンテンツといえば、リズムゲーム「Beat Saber」やソーシャルアプリ「VRChat」などのタイトルがすぐに思い浮かぶ人もいるかもしれない。「Beat Saber」は人気YouTuberもしばしばプレイ動画を投稿している話題作だし、「VRChat」関連の話題はTwitterでもたびたびトレンド入りしている。

その一方で、最近はアニメやマンガの人気タイトルの“VR化”も広がりつつある。具体的にはどのようなタイトルがあるのか、一部ではあるが紹介したい。

□ 「狼と香辛料VR」
「狼と香辛料VR」は、シリーズ累計400万部を超えるライトノベル「狼と香辛料」を原作としたVRアニメーション作品だ。

制作を担当したのは、原作者・支倉凍砂さんが主宰するサークル「SpicyTails」。つまり本作は、「原作者自らによるVRプロジェクト」でもあるわけだ。2018年にはクラウドファウンディングを行い、総額7000万円以上もの支援が集まったことでも話題になった。

原作者完全監修の作品ということもあり、そのクオリティは折り紙付き。キャストもアニメ版同様に福山潤さんと小清水亜美さんが担当しており、文字どおり「アニメそのままの世界に入れるVR作品」となっている。Steamのレビュー欄でも高評価を集めており、2020年には続編となる「狼と香辛料VR2」も発売された。

公式サイト:狼と香辛料VR狼と香辛料VR2

□ 「からかい上手の高木さんVR」
同じく人気タイトルのVRアニメーション作品としては、「からかい上手の高木さんVR」も外せない。シリーズ累計発行部数900万部を超えるマンガ「からかい上手の高木さん」を原作として、小学館と面白法人カヤックがタッグを組んで実現した作品だ。

プレイヤーは主人公・西片の目線になり、高木さん(CV:高橋李依)の“からかい”を超至近距離で擬似体験できる。2人で並んで下校したり、海でビーチボールで遊んだり。続編も制作されており、「釣り」「ポーカー」「雪だるま」「スポーツテスト」の4つのシーンを追加コンテンツとして楽しめる。

原作の人気エピソードを追体験できるだけでなく、オリジナルストーリーも収録している本作。「西片の目線で高木さんと一緒に過ごす」というまるで作品の世界に入ったかのような体験ができると同時に、原作にはない新鮮なやり取りも間近で見ることができる。没入感の高いVRでの“からかい”を、ぜひ目の前で堪能してみてほしい。

公式サイト:からかい上手の高木さんVRからかい上手の高木さんVR 2学期

□ 「ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP」
アニメ系VRコンテンツの2021年の注目作としては、「ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP」が挙げられる。3月には「本栖湖編」が、4月には「麓キャンプ場編」が、続けてリリースされた。

タイトルごとにプレイヤーの視点が異なり、「本栖湖編」では各務原なでしこの視点で志摩リンと、「麓キャンプ場編」ではリンの視点でなでしこと、それぞれキャンプを楽しめる。もちろんフルボイスで、キャスト陣もアニメ版と同様。「ゆるキャン△」の作中でおなじみの、メッセージアプリを介した“野クル”の面々とのやり取りも必見だ。

ただ、ファンの中にはもしかすると、「俺はキャラの視点じゃなくて、空気になって2人の様子を眺めていたいんだ!」という人もいるかもしれない。確かにその気持ちもわからなくはないが、「作品の世界に入って、キャラクターの視点で交流できる」という体験には、アニメともノベルゲームとも異なる不思議な感動がある。個人的には一度は味わってみてほしいと感じた。

公式サイト:ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP

□ アニメファンにおすすめのVRコンテンツはほかにも!
ここでは実際にアニメ化されている3つの作品のVRタイトルを紹介したが、魅力的なVRコンテンツはほかにもある。

例えば、講談社が2016年から展開しているVRアイドルプロジェクト「Hop Step Sing!」。歌とダンスを間近で堪能できるVRミュージックビデオのほか、YouTube活動やコミカライズも展開しているメディアミックス作品だ。特にVR MVは「ファン目線」でのライブ鑑賞とは異なり、その場の「参加者」として空間に働きかけられるギミックもあり、一般的なMVとは異なる体験ができると評判だ。

ゲームタイトルとしては、名作「バイオハザード4」のVR化が話題になったことも記憶に新しい。2005年発売の同タイトルを、オリジナル版の魅力はそのままに、VRの視点で操作しながら楽しめる。バイオハザードといえば、初のアニメシリーズとなる「BIOHAZARD:Infinite Darkness」も2021年7月からNetflixで独占配信されており、シリーズファンにとってはうれしい展開が続いていると言えるのではないだろうか。

「Oculus Quest 2版 バイオハザード4」は、10月21日に発売されたばかり。人気タイトルの参入によって、今後ますますVR市場が活性化することを期待したい。

■ 購入するならどのVR機器がいい?
以上のようなVRコンテンツをプレイするには、基本的には専用のVRヘッドセットが必要になる。とはいえVR機器にもいくつかの種類があり、それぞれにスペックもさまざま。「どれを選べばいいのかわからない……」「ゲーミングパソコンが必須と聞いた」「どれもかなり高価なんでしょ?」などと、懸念を感じている人も多いのではないだろうか。

そこでここからは、本記事で紹介したVRコンテンツを楽しむために必要なデバイスとして、代表的な3つの選択肢を提示したい。

□ ① Oculus Quest 2
VRヘッドセットのエントリーモデル、かつ2021年現在の最適解として各所でおすすめされているのが、Facebookの子会社が開発・販売しているOculus Quest 2だ。

本連載の前編でも紹介したように、Oculus Quest 2はそれ単体でVRコンテンツを楽しめる。パソコンと接続する必要はなく、電源を入れて、VRヘッドセットをかぶれば、目の前にはVRの世界が広がっている。しかも、そうやって簡単お手軽にVRを楽しめる最新機種でありながら、3万円台後半から購入できてしまうというのだから驚きだ。

既存のVRヘッドセットのなかではシェア率も高いため、上で紹介した3つのVRコンテンツのすべてに対応しているのもポイント。おそらく今後リリースされるVRコンテンツも多くが「Oculus Quest 2対応」を前提にすると考えられるため、そういう意味でも買っておいて間違いのない機種だと言える。

※「Oculus Quest」は2022年初頭に「Meta Quest」へ名称変更予定。

□ ② VIVE Cosmos Elite
よりリッチな体験をしたい人には、HTCのVRヘッドセット「VIVE」シリーズの製品も選択肢に入ってくる。

VIVE Cosmos Eliteの場合、ヘッドセット単体で動作するOculus Quest 2とは異なり、起動するにはスペックを満たしたパソコンを準備して接続しなければならない。当然ながら手間も費用もかかるが、「Oculusストアにはない、高品質な(独立型ヘッドセットのスペックでは動作しない)PC向けVRコンテンツを楽しめる」というメリットがある。

VIVE Cosmos EliteはHTCのVRヘッドセットとしては一般消費者向けのモデルだが、それでも税込12万989円という価格設定になっている。ちなみに、Oculus Quest 2のようなスタンドアロン型モデルとしてはVIVE Focus Plusがあり、こちらは税込9万8725円。VIVE Focus Plusは「商用向け」のモデルとして公式サイトでは紹介されているが、Oculus以外の選択肢も吟味したい人は、参考にしてみてほしい。

□ ③ PlayStation VR / Nintendo Switch / スマートフォン
「いきなり高価なVRヘッドセットを買うのはハードルが高い」という人には、「すでに家にあるデバイスで試してみる」という方法もある。

たとえば、PlayStation 4 or 5に接続して使うPlayStation VR。おなじみのゲーム機の名前を冠するVRヘッドセットということもあって、アニメ以外に人気ゲームのVRタイトルも取り揃えている。ただし、PS VRの発売は2016年。そこそこ前の製品であり、2022年以降には次世代機の発売も予定されているので、それまで待つのもありかもしれない。

他方で、実はNintendo SwitchでもVRゲームをプレイできる。それが、「Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit」だ。

これは、ダンボールを使ってさまざまなコントローラーを作り、ゲームで遊ぶことのできる「Nintendo Labo」シリーズの製品のひとつ。空間を自由に移動できるわけではないため、あくまでも「簡易版」に過ぎない体験ではあるものの、VRの世界を垣間見れるデバイスであることは間違いない。「VR Kit」は税込8778円、さらにコンテンツ数を絞った「ちょびっと版」は税込4378円と、比較的安く購入できるのも大きな魅力だ。

最後に、今あなたの手元にあるであろう、スマートフォンで試してみるという方法もある。本記事で紹介した作品のなかでは「ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP」がiOS/Android向けアプリとしてリリースされており、今すぐにでもインストールしてプレイすることができる。VRでプレイするにはスマホ用のVRゴーグルが必要となるものの、簡易な作りのものなら数百円程度で入手可能。100円ショップなどでも取り扱いがあるはずだ。

こちらも体験としては「簡易版」のVRと言えるが、スマホアプリでプレイすることによって、否が応でもこう気付かされるはずだ。「VRなら、この『中』に入れる……ってコト!?」と。まずはスマホの画面を覗き込みながら、その「画面の中の世界に入れる体験がある」ことを実感して、VRに興味を持つきっかけとしてみてほしい。

■ VRは「画面の中に入れるコンテンツ」の最前線
「アニメファンのためのVR入門」と題して、前後編にわたってVRについて取り上げてきたが、いかがだっただろうか。

テレビゲームやスマートフォンのように身近な存在となるにはまだまだ時間がかかりそうだが、Oculus Quest 2の登場と普及、この1年の巣ごもり需要とバーチャルイベントの広まりによって、VR体験のハードルがぐっと下がったことは間違いない。Oculus Quest 2が世界的に売れており、ジャンルを問わずVR業界に参入する企業も増えている現状を鑑みれば、今後はますます新たなVRコンテンツが登場することだろう。

VR体験の入り口もさまざまだ。まずは前編で取り上げたテーマパークでVRを体験するも良し。後編で紹介したVR機器を早速買いに走るも良し。手元のゲーム機やスマホで試すも良し。はたまたVR機器のレンタルサービスを利用するという手もある。今や仮想現実への入り口はそこら中にあり、その多くは安価で気軽に試すことができるのだ。

それになんと言っても、メディアとしての「VR」はアニメファンとの相性が良い。いつかは「画面の中に入りたい」と、「好きなキャラクターと触れ合いたい」と、そう考えたことのあるオタクはきっと少なくないはずだ。VRは、そんなオタクたちが夢見てきた「画面の中に入れるコンテンツ」の最前線だと言える。

「SAO」のアインクラッド、「レディ・プレイヤー1」のオアシス、「サマーウォーズ」のOZ、「.hack」のThe World。数々の作品で描かれてきた仮想世界は、何年後か、何十年後になるかはわからないが、ゆくゆくは実現することになるはずだ。そしてそれらの世界に通じる道は、今ここにはっきりと示されている。

そんな未来を一足先に覗き込むことのできる、VRの世界。本連載を読んで少しでも興味を持ってもらえたのなら、これ以上にうれしいことはない。まずは慣れ親しんだアニメのVRタイトルに触れて、ゆくゆくはバーチャルイベントやVR SNSにも飛び込んでみてほしい。

それではまた、仮想現実の世界で会いましょう。