2021年10月28日 19:41 リアルサウンド
15年前と現在で起きた事件を追う珠玉のサスペンスラブストーリー『最愛』(TBS系)。まだ2話にして考察に熱を上げる視聴者とともに事件を追いかけてくれる心強い存在が、捜査一課の刑事たちである。
【写真】『最愛』津田健次郎登場カット数点
ヒロイン・梨央(吉高由里子)の初恋の相手でもある刑事の宮崎大輝(松下洸平)、コンビを組む所轄刑事の桑田仁美(佐久間由衣)、第一係長であり大輝の先輩である山尾敦(津田健次郎)。ときには、事件の真相を突き止めていくシリアスな側面も多い刑事パートで、彼らの些細なやりとりから見える関係性はちょっとした癒しを与えている。
今回、山尾刑事を演じる津田健次郎に、松下洸平、佐久間由衣と築き上げる現場での関係性と山尾役に込める遊び心について話を聞いた。大人気アニメ『呪術廻戦』の七海建人をはじめとする声優としての表現の違い、またファンへの思いを語る中で見えた津田のチャーミングな一面に迫る。(編集部)
■台本には出てこない山尾刑事の細かい設定
――第1話放送後、津田さんへの反響がものすごかったですね。
津田健次郎(以下、津田):関係者のみなさんやTwitterのフォロワーのみなさんから、「おもしろい」というご意見をたくさんいただいて、本当にありがたいなと思いました。
――ホッとしましたか?
津田:めちゃめちゃホッとしました(笑)。実は、前日くらいからソワソワしていたんですよ。現場でも、あまり余裕がなくてモニターを見られていなかったので、自分の芝居も含めてどんな作品になっているのかなとドキドキで。本当にホッとしましたけど、気が緩まないように緊張感を持ってやっていけたらと思っています。
――撮影前、新井順子プロデューサーや塚原あゆ子監督とはどのようなお話を?
津田:衣装合わせの時に、「登場人物たちがシリアスな芝居をしていくことになるので、山尾と桑田しか緩めるところがないんです」とお話をいただきました。「作品の“ほんわかした部分”を担っていただけるとすごくいいな」と。山尾はサブバッグを持っているんですけど、そのバッグがとても可愛らしくて、刑事のイメージとはかけ離れているんです。それが僕としてはすごく意外で、「めちゃめちゃおもしろいじゃないですか!」とテンションが上がりました(笑)。こういうところに、新井プロデューサー、塚原監督のヒットメーカーたるゆえんを感じましたね。
――“刑事”としてのキャラクターについては、どのようなイメージで撮影に臨まれたのでしょうか?
津田:丁寧に作られているドラマで、すごく細かく設定があるんです。台本には出てこないですけど、子どもがいて、どこの大学を出て、学生時代はどんな感じで、と。キャリア官僚ではないけれど、ノンキャリアの頂点に手が届きそうなところまで来ている人だとわかったので、仕事ができるのは間違いない。はじめは派出所勤めだったので、叩き上げであることも間違いない。いわゆる現場刑事のパワフルな部分と、人心掌握して組織を動かしていく管理職としての部分、そしてエリートで知的な部分を、人間関係の中で多層的に見せることができたら一番いいのではないかと思っていました。
■役作りで“可愛さ”を加える仕掛け
――宮崎役の松下洸平さん、桑田役の佐久間由衣さんとの撮影が多いと思います。
津田:初めてご一緒するおふたりだったので、現場でお会いできるのを楽しみにしていました。楽屋が大部屋なんですけど、ご挨拶したら本当にフレンドリーで柔らかくて。「ありがたいなぁ、よかったなぁ」と嬉しくなりました。おふたりとも楽屋ではマイペースに穏やかに過ごされていて、撮影になるとピッと緊張感が走るような方なので、楽しく、たまにはくだらないことをお話ししながら、もっと仲良くなれたらと思っています。
――劇中では、おふたりとどのような関係性に?
津田:松下さんに関しては、現場刑事とそれを監督していく上司という“立場の違い”による温度差や熱量の差が出てくるので、そこでひとつドラマを作っていけたらと思っています。体育会系の先輩後輩のような、挨拶代わりにちょっとケツを蹴るみたいな(笑)、おもしろい関係性も見せられるかなと思うので、そのあたりも楽しみにしています。佐久間さんとは、プロデューサー、監督提案の“ゆる~い部分”を作っていけたら、ドラマがシリアスなだけではない、豊かなものになるのかなと思っています。第1話でも「桑……(田)」って、桑田の名前をあまり覚えていないっていう(笑)。あれは台本には書かれていなくて、僕が面白いなと思って勝手にリハでやったことをそのまま採用していただきました。
――佐久間さんはどんな反応でしたか?
津田:いやぁ、それが素晴らしかったんですよ。事前打ち合わせなしでやってみようと思って、「桑……」で止まってみたら、「田です」と言ってくれて(笑)。ありがたいし、楽しかったですね。きちんと受けてくれたので、お芝居の醍醐味のひとつだなと感じました。
――ちなみに、それ以外のアドリブは?
津田:ここだけの話、通販で可愛いペンをめちゃくちゃ探して、3種類くらい買いました(笑)。そのペン自体を使いたいわけではなくて、想像力が膨らむきっかけになったら面白いなと。僕は、サブバッグの話から想像が膨らんだんですよね。奥さんに「これ持っていきなさいよ」と言われているとか、子どものバッグを「便利だから」って勝手に持ってきちゃっているとか。僕の中には山尾がサブバッグを持っている理由はもちろんあるんですけど、視聴者のみなさんにも「どういう人なんだろう?」と想像を膨らませていただけたらと思っています。
――今後、ペンが出てくるのが楽しみです。
津田:出てくるかはわからないですけどね(笑)。僕の芝居を組み立てていく上で、可愛いバッグやペンを持てる人間でありながら、無骨なところもあるっていう要素が大事な部分になってくる気がしていて。小道具でいうと、本当に愛があるなと思うんですけど、僕専用パッケージの「のど飴」をいっぱい用意してくれているんですよ。絶対に「どこかで舐めよう」と思って、実際に使いました。きっと喉弱いんだろうな、なんて思いながら(笑)。
――現場の雰囲気が良さそうですね。
津田:僕はちょっと遅れて参加だったので、緊張しながら現場に行ったら、本当にみなさん優しくて温かくて。スタッフさんお一人お一人が、とても楽しそうにドラマを作っていらっしゃるのを見て、「めちゃくちゃいい現場だな」というのが第一印象でした。きっといい作品が生まれるぞ、と思いましたね。すごく素敵な現場です。
――塚原監督とは、現場でもお話しを?
津田:そうですね。時間がない中での作業でもあるのに、しっかりと時間を割いてくれるので本当にありがたいです。塚原監督からは直筆のお手紙をいただいて、その中に「観てくださるみなさんの金曜日の夜1時間が素敵なものになるように、私達はがんばっていきたいと思います」と書かれていたんです。視聴者の方の時間をものすごく大事にしていらっしゃるし、丁寧に、誠実に、とにかく楽しんでほしいという思いを込めて『最愛』が作られている。2年、3年と、長い時間をかけてきた作品でもありますし、お手紙までいただいたら、「そりゃあ、がんばりますよ」と。そんなふうに思っていたら、公式SNSにも「毎週金曜日の“最愛なドラマ”になったら嬉しい」という言葉があって、これは作品づくりに参加するみなさんの共通言語なんだと気づいて。感動しましたし、僕もできるすべてを尽くしたいと思っています。
■「ケミストリーをどう起こしていくか」
――今作を通じて、役者の面白みはどこに感じていますか?
津田:なんでしょうねぇ。フィクションである……つまり、実際にはないものをあるものにしていく。これはすごく大変なことなんですけど、その分、面白いなと、あらためて感じています。「お芝居って、難しいし、深いし、これは面白いぞーっ!」と、今、心から思っていますね。長いことお芝居はやらせていただいているんですけど、一周回って初心に戻った気がしています。
――刺激を受けることが多い現場なんですね。
津田:塚原監督や新井プロデューサーの中に、「こういうものにしたい」という強い思いは当然あるんですけど、「だから、こうしなくてはならない」ではないんですよね。結局、ケミストリーをどう起こしていくか。しっかりと余裕を持って、作品をより良いものにしていきたいと考えていらっしゃるので、とても刺激的です。「ちょっと遊びを入れてもいいですか?」と思うような部分もいっぱいありますし、塚原さんは本当に褒めるのがうまくて(笑)。「(気分が)ノッちゃいますやん。ありがとうございまーす!」っていう(笑)。それに、お二人とも独自のアイデアをお持ちで、僕には思いつかないような演出もたくさんあります。山尾というキャラクターをより魅力的に見せるにはどうすればいいのか、お話しして、試しながら作っていくのがすごく楽しいですね。
――現場で作品を作り上げていく感覚は、役者ならではでしょうか?
津田:声優の場合も、たとえば第一話の時には、自分のイメージしたものをまずやってみるんです。それが違う場合もありますし、「方向性は合っているけど、もっとこうしましょう」ということもあるので、そういった意味では役者も声優も共通しているとは思います。ただ、『最愛』の現場はスピード感がありますし、シリアスなドラマなので緊張感もある。その中で、「カット、OK」となった瞬間に空気が緩んで、ワイワイ楽しそうに、ベテランから若い方まで、その場でオンオフを切り替えているような雰囲気は、印象的かもしれないですね。
――山尾を演じる際、声について意識していることはありますか?
津田:まったく意識してないです。感情だったり、状況だったり、関係性だったりの中で、グルーヴに任せて声を出していくので、「こういう声質でいこう」ということは考えていないですね。
――ふだんから、そのようなスタンスで?
津田:声の仕事をする時にも、肉体状態や心情、キャラクター性みたいなものを踏まえたやりとりの中で、自然と声が生まれていきます。僕の場合、どのジャンルでも声を決めてから中身を埋めるという作業はなくて、自然にそのモードになればいいなと思いながらやっています。
――見せ方としては、声優と役者でどのような違いがあるのでしょうか?
津田:声優に関しては、よりフィクション性が強いことが多いので、“ちゃんと喋らなくてはいけない”ということはありますね。もちろん、どちらもきちんと喋るんですけど、『最愛』は現代劇ですし、ラフに喋って“日常語にしていく”ということを少し意識はして。そのあたりのリアリティは、色濃く出てくるといいなと思っています。
■ファンへのお返しは「いい芝居を、いい表現を」
――今回、ファンの方からの反響もすごく大きいと思うのですが、津田さんにとってファンはどのような存在ですか?
津田:本当にありがたいなと思っています。Twitterで、僕が投げたしょうもないツイートに一生懸命リプライをくださったり、お手紙をくださったり。随分昔から応援してくださっている方も、最近ファンになりましたという方もいらっしゃるんですけど、こんな僕に応援の熱だったり、声だったりをいただけることは、本当にありがたいと思うんです。その中で、自分が何でお返しできるかなと考えたら、やっぱり表現しかないんですよね。ファンのみなさんの人生における大事な一瞬一瞬、お時間を割いて応援してくださっている。そんなみなさんの人生が、ほんのちょっとでも豊かになるといいなと思うと、やっぱりいい芝居を、いい表現を、ということしかなくて。とにかくそこに邁進させていただきます、という気持ちです。
――過去のインタビューなどを拝読しても、津田さんは“常に全力”というスタイルでお仕事に臨まれているようにお見受けしますが、その原動力はどこにあるのでしょうか?
津田:すごくポジティブな意味で、いつか死ぬから。僕は、一回勝負だと思っているんです。しかも、人生の時間は想像するよりずっと短くて、ましてや充実した時間は、すごく少ない。たとえば、8時間寝るとしたら人生の3分の1寝ていることになるじゃないですか。しかも僕、夢を見ないんですよ。夢でも見られれば素敵な時間になるけど、ぐっすり寝ちゃっているので(笑)。限られた時間の中で面白いことをやらせていただいていますし、自分自身に「まだまだだな」と力不足を感じることが多いので、せめてフルスイングで、という思いがあります。それから、山尾を演じるにしても、彼の何十年もある人生の“ほんの一部分”をやらせていただくことになるんですよね。山尾の時間をギュッと凝縮するためには、こちらもギュッと何かを詰め込んでいかなくてはいけないな、という気持ちもあります。
――そんなふうに時間を大切にされている津田さんだからこそ、ファンや視聴者の時間を「いただいている」という意識が強いのかもしれないですね。
津田:それって、実はすごいことだと思うんです。僕自身、たった数十分で人生が変わったような経験もありましたし、映画やドラマが人生を変えることもある。だからこそ、本当に楽しんでいただける表現ができればいいなと思っています。
(取材・文=nakamura omame)