日本共産党が10月6日に公式サイト上で公開した2021年総選挙政策紹介ページで漫画・アニメ・ゲームに対する規制を訴えているのではないかと批判されている問題。「共産党が表現規制に舵を切った」と見る向きも多いが、これまでの主張とどういう変化があるのだろうか。(取材・文=昼間たかし)
「非実在児童ポルノ」の規制を主張
問題となっているのは政策紹介ページの「女性とジェンダー」を扱う項目だ。ここで、日本共産党は漫画・アニメ・ゲームを用いた「ポルノ表現」を「いわゆる『非実在児童ポルノ』」とし「現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つける」ために「子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意」をつくっていくとしている。
これをもって、表現物への規制を主張しているのかと思いきや、文化政策の項目では「『児童ポルノ規制』を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します」との記述もある。ここからもわかるとおり、来たる衆議院選挙に向けて有権者に訴えている主張にも拘わらず、まったくの整合性がとれていないのである。
特に問題のインパクトを強めているのは、新しく登場した「非実在児童ポルノ」という用語である。これは2010年に東京都の青少年健全育成条例改定問題が大きな騒動になった時に東京都が造語した「非実在青少年」を想起させるものである。この時は、創作された表現への規制を強化することを目指す東京都の方針への批判が殺到。日本共産党も「非実在青少年」という文言を含んだ条例改定案に反対の立場を取っていた。
それが一転、類似した用語を用いて創作物への規制も是認する態度を示していることに対して反発を呼んでいるのである。
批判に気付いたのか、日本共産党は即座に反応。党が運営するサイト「個人の尊厳とジェンダー平等のための JCP With You」上で「共産党は創作物に対する表現規制の容認(賛成)に舵を切ったのですか? 『女性・ジェンダー』と『文化』政策は矛盾していませんか?」の質問に応える形で、一足飛びな表現物・創作物に対する法的規制を提起したものではないとし、日本の現状への国際的な指摘がある中で、法的規制の動きに抗し表現の自由を守っていくためにも、議論を通じた子どもの性虐待・性的搾取を許さない社会的な合意形成の必要性を訴えている。
だが、この説明は法的規制を目指すものではないとしても、創作物への規制を求める世論を形成する意図があるのではないかと、さらなる批判を呼び起こしている。
大衆文化を嫌悪してきた日本共産党
創作物への規制推進に舵をきったかに見える、日本共産党。あたかも「裏切り」かのように批判されているわけである。だが、これを「裏切り」と捉えるのは間違いだ。党の方針は、過去も現在もまったく変化していないのだ。日本共産党の文化政策に詳しいA氏は語る。
「長らく日本共産党を支配していた宮本顕治(名誉議長・故人)が大衆文化を嫌悪していたことはよく知られています。かつて『赤旗』ではマンガを退廃文化であるという主張がくり返し掲載されていました。今では日本共産党が推薦する作品のように見られている『はだしのゲン』も俗悪だと批判していたことを、彼らは自己批判もしていませんよ」(A氏)
日本共産党の大衆文化、とりわけ漫画への嫌悪を示す事例としてもっとも知られるのは、昭和30年代に盛り上がった悪書追放運動である。この運動は、漫画本を始め「不良図書」と名指しされた雑誌や単行本を集めて燃やす昭和の焚書坑儒が行われたことで、現代でも知られている。これを主導した組織のひとつが日本共産党傘下の「日本子どもを守る会」であった。
「21世紀に入って、児童ポルノ法の強化や東京都の青少年健全育成条例改定には反対の立場を取ることもありましたが、彼らが反対しているのは、ただ公権力による規制に対してだけ。個別の党員には、様々意見があるでしょうが、党としては漫画をはじめ大衆文化を嫌悪する伝統が今も続いているといえます」
これまで筆者も幾度か日本共産党に取材を試みたことがあるが、2010年に東京都の青少年健全育成条例改定問題が浮上する頃まで、漫画をはじめ創作物への法規制の問題に対して同党は「党内で議論が固まっていない」などとして取材に応じてこなかった。それが、2010年の条例改定問題の時には「ぜひ、取材にお越し下さい」と連絡してくるようになったので、唖然としたことを覚えている。ただ、この時も「いつ、どのような形で創作物の表現を守る方針を決めたのか」尋ねたところ「いつ、でしたっけ……」と口ごもられたのを記憶している。
裏切ったのではない。単に党の日和見な態度のせいで、方針が一見わかりにくくなっていただけなのだ。