2021年10月22日 10:01 弁護士ドットコム
大人になっても結婚せず、親の家(主に実家の子ども部屋)に住み続ける男性や女性について、ネットでは「子ども部屋おじさん(おばさん)」(略称:こどおじ/こどおば)と呼ばれています。
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その実態について、弁護士ドットコムニュースがLINEで情報を募ったところ、息子に居座られて困っているという60代女性からの相談が寄せられました。
家賃や生活費を一切支払わないばかりか、暴力まで振るうといいます。親との同居に至った事情は人それぞれですが、同居生活に悩まされて、どうにか追い出したいと考える高齢親は一定数存在するようです。
今回は、実際に「子ども部屋」にずっと住み続けるケースではないですが、親の家に息子が居座っているという点で、類似事例といえるでしょう。こうしたトラブルで悩まないためのアドバイスを弁護士に聞きました。
会社員の60代女性内村さん(仮名)は、祖父母から相続した自宅で、30代の長男と20代の二男と暮らしています。離婚した元夫の家に住んでいた長男は、数年前に内村さんの持ち家に引っ越してきたそうです。
ところが、この長男は、仕事をしているのに、家賃や生活費を全く負担しないといいます。さらに、内村さんたちと会話を一切せず、「気に入らないと壁などに当たり、蹴ってドアなども壊されている」というのです。
「ゴミ屋敷」のような長男の部屋は不衛生で、内村さんは「私たちはストレスだらけで、出ていってほしいけど追い出せなくてどうしたらいいのか困っています」と頭を抱えています。
弁護士ドットコムの法律相談にも、内村さんと同じように「居座る息子」に悩む高齢親たちからの相談が届いています。
「息子は50歳になりますが未だに私の家に住み着き独り立ちしてくれません。私に黙って勝手にかなりの額(の年金)を引き出しています。しまいには暴言を吐く始末です。法律的に追い出す方法はないものでしょうか?」(70代の親Aさん)
さて、親の思いをよそに、勝手に居座る息子や娘を法的に追い出す方法はあるのでしょうか。平野由梨弁護士に聞きました。
——働いている成人の子について、親は扶養などの義務を負っているのでしょうか
まず、子が働いているかどうかは別として、法律上、親子間では、互いに扶養義務があるとされています(民法877条1項)。ただ、常に扶養を求められるということではなく、一方が扶養を必要とする場合に、他方が可能な状態にあれば、扶養を求めていけるということになります。
今回のケースでは、長男は働いて収入を得ているのですから、親が扶養をしなければならない理由はありません。
他方で、親も、自身の収入で生活できない状態になければ、子に扶養を求めることはできないことになります。今回は、共同生活における生活費の分担の問題のように思いますので、本来、自分の生活費は自分で負担するのが当然ですよね。
——生活費を負担しない子を家から追い出すために、親はどのような手続きを取れるでしょうか
法的な手続きの前に、まずは、家賃や生活費の分担について話し合いをすることですね。そもそも、長男の引っ越しの際に分担を決めていなかったのであれば、それ自体が問題で、長男は「親が負担してくれると思っていた」と主張する可能性もあります。
分担を合意していない以上、子が生活費を払わなくても何も違反はありません。さらに言うと、あらかじめ合意していても、その合意違反だけを理由として「自分が所有する自宅だから」と追い出すことはできないと思われます。
というのも、親はこれまで、無償で、自宅に住むことを認めてきたのですから、長男との間で使用貸借契約が成立しており、長男にも無償で住む権利があると思われます。
もちろん、使用貸借契約の解除が認められる余地もありますが、親子間ではなかなか難しいでしょう。
一方、予め家賃の支払いを約束していた場合は、使用貸借ではなく、賃貸借契約となりますので、家賃の滞納が続けば、契約を解除して、退去を求めることはできます。ただ、実際、同居しているお子さんに、理屈上は、契約を解除したと言っても、すんなり退去してもらえるかは別問題ですね。
——裁判など法的手続きをとることは有効でしょうか
法的には、使用貸借契約や賃貸借契約の解除が認められる場合もあるため、裁判手続で退去を求める余地はあると思います。ただ、現実的には、同居をしながら裁判を進めるのはかなりのストレスでしょうし、裁判手続外で揉めることも懸念されます。事実上、難しいと思います。
ですから、最初が肝心なのです。同居を始める時に、きちんと家計費の分担を決めておく必要があると思います。長男は完全に親に甘えて依存している「子ども」状態です。そんな状態にしてしまっているのは、それを受け入れてしまっている親側にも原因があると思います。
——悩みを抱える親へのメッセージをお願いします。
暴言や暴力を振るわれたり、年金まで取られてしまって、苦しんでいるのは理解できます。しかし、少し厳しいことを言うようですが、年金を取られるのであれば、通帳の再発行などによって、口座を使わせないようにする必要があります。当たり前のようにやっている家事も、親がやらなければ良いはずです。
話し合いが困難、もしくは話し合っても平行線が続くのなら、こちらから家を出るのが早いし、揉め事への発展を避けられると思います。
「自宅所有者である自分が生活を変える必要はない、相手が変えるべき」との考えに固執すると、関係性はより悪化していきます。特に暴力があるとなると、高齢の親の方が体力的に不利です。
法的措置を取られたいなら、まずはご自身がご自宅を出て、身の安全を確保した上で、手続を取るのがよいでしょう。そこまですれば、子も親の苦悩に気づいてくれるかもしれませんし、居なくなって初めて親の有り難さに気づくかもしれません。
【取材協力弁護士】
平野 由梨(ひらの・ゆり)弁護士
藍法律事務所所長弁護士。愛知県弁護士会高齢者・障害者総合支援センター運営委員会副委員長。
事務所名:藍法律事務所
事務所URL:http://www.ai-law.jp