2021年10月13日 17:41 弁護士ドットコム
2021年の都道府県魅力度ランキングで44位となった群馬県の山本一太知事が10月12日、「法的措置も検討して参りたい」と発言し、波紋を呼んでいる。
ランキングは民間の調査会社「ブランド総合研究所」が年1回おこなっているもので、「自治体について、どの程度魅力を感じますか?」という問いに対し回答を点数化し集計しているものだ。
山本知事は10月12日の臨時会見で「なぜ群馬県の順位が下がったのか、判然としていません。根拠の不明確なランキングによって、魅力がないと誤った認識が広がることは、県民の誇りを低下させるのみならず、経済的な損失にも繋がる由々しき問題」と訴えたが、一方の調査会社は「この発言の意図が理解できないというのが率直な意見」と困惑している。
果たしてこのランキングに法的な問題はあるのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。
——山本知事の発言について、ネットでは「大人気ない」といった反応もありますが、法的にはどう考えられますか。
結論的には、法的な問題にすることにはかなりのハードルがあるのではないか、と思います。
まず前提として、名誉毀損であるというには、名誉権という権利の享有主体であることが必要になります。
この点については、地方公共団体は、公権力の主体であり、名誉権という人権を認めてよいのかという議論があります。
この議論はあまり明確に論じられてはいないようですが、公権力の行使とは関係がないところでのものであれば、一定の権利を認めても良いのではないかと考えられているようで、裁判例でも地方公共団体に人権が認められる前提で判断をしているものがあるようです。
今回のランキングに関するものは、公権力の行使と直接関係があるものではないので、権利の享有主体として、何かしら主張をしていく余地自体はあるのではないかと思います。
——下位にランキングされることは、名誉毀損に当たるのでしょうか。
「下位にランキングがされている」ということ自体は、社会的評価を低下させる、と言うこと自体はできると考えます。裁判例でも、ランキング下位に位置づけられたことで、名誉毀損や不正競争防止法違反といった法的責任が認められている例自体は存在しています。
しかし、仮にそうだとして、それが実際に違法になるのは、そのランキングの内容や根拠が虚偽であると言える場合です。
ランキングは、ある事項についての意見を集約して、一定のルールに基づいて順位付をするものといえます。そのため、ランキングは、一種の意見論評を表明するものということができます。
意見論評にかかる名誉権侵害については、公共性、公益目的、前提事実の重要部分の真実性があり、人格攻撃など論評としての域を逸脱していない場合には違法性がないとされます。
そのため、きちんとアンケート等をとっていて、それを一定のルールに基づいて点数化して順位付けしているということなら、前提事実の重要部分が真実であるといえることになりますし、人格攻撃があるともいえないでしょう。
群馬県の説明を見ると、得点の配分に差があることがおかしいといった指摘がされていますが、同じ項目について恣意的な点数操作をしているといった指摘がされているわけではないようであり、一定のルールに基づいて点数化していること自体は否定していないようです。
このような状況を見ると、違法性があると判断することは困難といえ、名誉権侵害は成立しないと思います。
また、不正競争防止法違反になるためには、不正競争行為がある必要がありますが、群馬県と民間の調査会社である「ブランド総合研究所」とが競争関係にあるということは、一般的に言ってかなり難しいと思います。
そのため、不正競争行為があるとして法的措置を取るということも困難といえます。
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」などがある。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp