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『東京卍リベンジャーズ』場地圭介が担う“メンター”としての役割 その特異なキャラ立てを考察

2021年10月13日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

東京卍リベンジャーズ(7)

※本稿には、『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 物語の序盤から中盤にかけて登場し、鮮烈な死にざま(あるいは熱い生きざま)を見せることで、主人公の心に“何か”を刻み込む役割を与えられたキャラクターがいる。


 この手のキャラクターをなんと呼べばいいのかはわからないが、「メンター」(導き手・師匠)の一種だと考えればいいだろうか。


 たとえば、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の煉󠄁獄杏寿郎や、『呪術廻戦』(芥見下々)の七海建人がそれだ、といえばわかりやすいかもしれないが、いま飛ぶ鳥を落とす勢いで大ヒットしている和久井健の『東京卍リベンジャーズ』でいえば、東京卍會壱番隊隊長の場地圭介が、その役割を与えられたキャラクターということになるだろう。


関連:『東京卍リベンジャーズ』松野千冬の存在が物語をより深くする ピュアな心が生んだ感動的な描写


■読み手を松野千冬に感情移入させることで、場地圭介のキャラをも立てる


 『東京卍リベンジャーズ』は、中学卒業以来さまざまなことから逃げてきた26歳のフリーター・花垣武道(タケミチ)が、ある時、タイムリープ能力を発現させ、中学時代の恋人の死を防ぐために、12年前の過去に何度も戻って奮闘する物語だ(その恋人の死に絡んでいるのが暴走族・東京卍會であり、タケミチはチームの内部から東卍“トーマン”を――いや、“未来“を変えようとする)[注1]。


[注1]ただし、物語はいま最終章に突入しており、タケミチは12年前ではなく10年前にタイムリープ。その目的は、「(元)東京卍會総長・マイキーを闇から救い出すこと」という風に変わっている。


 さて、前述の場地圭介だが、彼の物語初登場は第22話(第3巻所収)。といってもこの時はほとんど“顔見せ”程度であり、実際に彼が大きく物語に絡んでくるのは、第5巻から第8巻にかけて描かれている伝説の抗争――いわゆる「血のハロウィン」においてである。


 場地圭介は、東京卍會の創設メンバー6人のうちのひとりだ。総長・マイキーの信頼も厚く、長いあいだ壱番隊を率いていたが、ある時、突然チームを抜け、敵対する「芭流覇羅に行く」と宣言。もちろん、場地のこの不可解な行動にはワケがあるのだが、ここで詳しくそれを説明するつもりはない(気になる方はぜひ原作を読まれたい)。


 では、本稿で私は何をいいたいのかといえば、この場地圭介という漢(おとこ)の、「キャラ立て」の特異さについてだ。たとえば、先に同系統のキャラクターとして挙げた煉󠄁獄杏寿郎にせよ、七海建人にせよ、読者はおおむね、彼らのことを“主人公にとっての良き先輩”ととらえ、それなりにいい印象を抱きながら物語を読み進めることだろう。


 ところがこの場地圭介、“良き先輩”どころか、主人公のタケミチとの初対面の場面ではいきなりタケミチを殴り飛ばし、また、別の場面では、自分を尊敬している壱番隊副隊長の松野千冬を半殺しにしているのだ。本来なら、読者は――おそらくなんらかの“裏”があるのだろうとは思いつつも――こうした一見凶悪なタイプのキャラを好きになることはないだろう。


 だが、物語を読み進めていくうちに、誰もがきっと、彼のことを徐々に好きになる。まずは第6巻の冒頭で描かれている回想シーンを見て、場地が本当は仲間思いの優しい漢であるということを知り、そして、そんな場地のことを、(理不尽な半殺しの目に合わされようとも)ひたすら信じ続ける千冬のまっすぐな姿に、感情移入しないわけにはいかないからだ。


【再度注意】以下、あるキャラクターの生死について触れています。(筆者)


■物語自体が要求した悲劇


 結局、「血のハロウィン」の抗争中に致命傷を負った場地は、千冬の腕に抱かれながら、息を引き取ることになる。そして、“すべて”をタケミチに託すのだ。


“「マイキーを… 東卍を… オマエに 託す!!」(第61話より)”


 これはなかなか思い切った演出だと思う。なぜならば、千冬とは違って、タケミチと場地とは、そこにいたるまでほとんど心の交流はないのである。


 それでもなお、場地にとっては、何か、漢として認められるものをタケミチの中に感じ(「オマエはどこか 真一郎君[注2]に似てる」という言葉でそれを表しているのかもしれない)、タケミチもまた、そんな場地の想いをしっかりと受け止めたというわけだ。


[注2]マイキーの兄。


 いずれにせよ、こうした、主人公とほとんど接点を持たないままに、鮮烈な死にざま(生きざま)を見せつけることで“何か”を遺すメンターもありうるのだということを、場地圭介というキャラクターを見て、知った。


 また、厳しい書き方をさせてもらえば、この“壱番隊隊長の死”という悲劇は、物語自体が要求したものでもあっただろう。


 だが、東卍を「一人一人がみんなを守るチームにしたい」という彼が遺した強い想いは、この先も、タケミチ、千冬、マイキーたちだけでなく、読者それぞれの心の中でも永遠に生き続けるのだ。そう――「ペヤング半分コ」の優しさとともに。