2021年10月12日 11:21 弁護士ドットコム
大小の島々が点在する瀬戸内海で、無数のドローンが飛び交う光景が、近くない将来に見られるかもしれない。
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瀬戸内海に浮かぶ離島・粟島(香川県三豊市)で今年8月、ドローンを使って、日用品などを運ぶ「定期航路」が開通した。無人物流の事業化に取り組むベンチャー企業が、地元自治体とタッグを組んで実現させた。
定時ダイヤを組んだ離島向けのドローン航路は、世界でも初めてだという。加速度的に進む離島の過疎化を食い止めるために、粟島で実績をつくり、ほかの離島にも広めたい考えだ。(ライター・藤田勝久)
香川県西部に位置する三豊市は、人口約6万人の小さな町。南は讃岐山脈で徳島県と接し、北は荘内半島で瀬戸内海に突き出た、南北に長い地形を持っている。
同市詫間町には、古くから「浦島太郎伝説」が言い伝わっており、太郎が竜宮城からの財宝を積み出したとされる「積」、太郎が玉手箱を開けたとされる「箱」などの地名が現存する。浦島神社という神社もある。
沖合に浮かぶ粟島にも、乙姫を想起させる「姫路」という地名があるほか、太郎を乗せた亀を弔う「亀戎社」という神社が残っている。
この粟島と、約4キロ離れた四国本土をドローンで結ぶ事業は、浦島太郎伝説にちなみ「MITOYO RYUGU PROJECT」(ミトヨ・リュウグウ・プロジェクト)と銘打たれている。
島民が希望した日用品が、品物の実費と送料500円でその日のうちに配達してもらえる。
配達の流れはこうだ。島民は、カタログに掲載された40種類の商品からほしいものを選び、正午までに予約する。
島には高齢者が多く、電子メールやスマートフォンを使えない人も多いことから、予約はコールセンターへの電話か、注文票を島内のポストに入れるアナログな方法にしている。
コールセンターから連絡を受けた地元のコンビニエンスストアが商品を港まで配送。商品を積んだドローンが午後2時ごろに港を出発し、海の上を飛んで島へ向かう。島では現地スタッフが注文者の自宅まで戸別配送する。
プロジェクトに取り組むのが、「かもめや」という高松市のベンチャー企業だ。小野正人社長は、もともとIT企業のサラリーマン。瀬戸内国際芸術祭のボランティアサポーター事務局を経て、2014年に創業した。
離島めぐりの趣味が高じて、かつて高松市沖の離島・男木島に移住したことも。島にコンビニがないなど生活の不便さを身をもって感じた。クラウドファンディングで資金を集め、2016年に法人化した。
長崎県の五島列島で実証実験をおこなったのち、三豊市に事業を提案した。瀬戸内国際芸術祭などを通じて島の活性化に取り組んでいた市も二つ返事で了承した。
両者は、ドローン物流エリアモデルの実現に向けた連携協定を締結。あいおいニッセイ同和損害保険がスポンサーとして入り、資金面でのめどもたち、実現にこぎ着けることができた。
小野社長は「粟島のプロジェクトが始動し、瀬戸内海の離島を持つ他の自治体からも複数引き合いが来ている」と話す。
とはいえ、取り組みは道半ば。現在運用しているドローンだと航空法などの規制で、風速が秒速10メートルを超えたり、少しでも雨が降る可能性があったりすると飛行できない。
週5日の運航予定だが、就航率はいまのところ40~50%程度にとどまっている。
積載重量も1キロのため、運ぶ商品は、うどんなどの乾麺、スナック菓子、乾き物のおつまみ、ペット用ジャーキーなどに限られている。今後、雨でも運航でき、重さ5キロまで運べる機体を新たに導入する予定だ。
同社は、2022年ごろをめどに、粟島の診療所への医薬品の配送や、隣の島への航路拡大などを計画している。
さらには、陸続きだが交通が不便な半島先端部へドローンを飛ばすことや、無人輸送船による大型家具、家電などの重たい荷物の配送も目指すなど、夢は膨らむ。
「瀬戸内の離島は、生活の不便さゆえに人口が流出している。粟島で事業モデルを構築し、ほかの有人離島にも広げ、住み続けられる島を一つでも多くつくっていきたい」(小野社長)