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斎藤佑樹の引退発表で思い出す「カイエン乗りてぇ」発言と消えたファン

2021年10月12日 11:00  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

インタビューを受ける斎藤佑樹

 プロ野球・日本ハムの斎藤佑樹(33)投手が今季限りでの引退を発表した。

 高3夏の甲子園、青いハンドタオルで汗を拭きながらの熱投が注目され“ハンカチ王子”として大フィーバーを巻き起こしてから15年。その前半と後半で、運命は激変したといえる。

“ハンカチ王子”より“佑ちゃん”がいい

 早大1年生の春には大学日本一になり、4年生秋にも日本一を達成。「持ってる」というフレーズを含む発言で“ハンカチ王子”以来2度目の新語・流行語大賞の表彰も受けた。

 そして、プロ1年目から6勝を挙げ、2年目には開幕投手として完投勝利。ただ、よかったのはこのあたりまでだ。故障などで不調に陥り、2016年には出版社社長から車を買ってもらったことで叩かれた。

 おめでたい話題は'19年の結婚くらいで、ここ2年は一軍の戦力にすらならなかったのである。

 そんな斎藤は“ハンカチ王子”という愛称をあまり好きではなかった。2007年出版の『佑樹 家族がつづった物語』に収められた家族座談会では、

《“ハンカチ王子”といわれるのが嫌なんで……》

 として《呼ばれるなら“佑ちゃん”のほうが全然いい》などとぶっちゃけていたものだ。しかし、アンチからは別のあだ名をつけられた。プロ1年目に放送された『ニュースキャスター』(TBS系)のなかで、

「カイエン乗りてぇ」「青山に土地買うってやばいっすか」

 と語ったのがきっかけだ。優等生っぽいイメージとのギャップから“カイエン青山”と揶揄されるようになる。

 さらに、低迷が始まると“半価値王子”とからかわれたりした。ただ、その価値は半減どころではない。

 高3の夏に投げ合った田中将大投手は、斎藤の夢でもあった大リーグでの活躍も実現して、これまでに得た総年俸は約178億円。斎藤のそれは、その75分の1程度でしかない。何より哀しいのは、あれだけいたファンが消えてしまったことだ。

 野球ヲタでもある筆者が生で見たアマ時代の人気は、とにかくすさまじかった。なかでも、大学選手権デビューとなった東京ドームでの初戦。全国大会とはいえ、平日昼間の大学野球に集まる観客はそんなにいない。

ファンはどこへ行った?

 通常ならバックネット裏最前列に余裕で座れるはずなのに、彼を見に来た大勢の大人の女性たちがそのあたりを占拠したのである。

 当時は女性週刊誌でも毎週のように、彼の動向がグラビアに載った。それだけの需要があったわけだ。そこから数年でのファンの去り方。

 かつて、東京ドームができる前にあった後楽園球場でピンク・レディーが淋しく解散したときに、あれだけいたファンはどこに消えたのかということがあちこちで言われたが、それに匹敵する衝撃である。

 しかも、ピンク・レディーのファンが子ども中心だったのに対し、彼のファンは大人の女性が主体。見事な手のひら返しに、よくぞまあ、人間不信にならなかったものだ。

 そんなメンタルの強さから、引退後は指導者に向いているのではという声も。たしかに、天狗になりかかった選手をたしなめるとき、これほど説得力を持つ人はいない。

 ただ、メンタルの強さは最初からわかっていたことでもある。ハンカチで汗を拭きながら投げる球児など空前絶後だ。大観衆のなかで浮くことも平気だったのだろう。

 そういう意味では、大リーグに行ってあのパフォーマンスを行い“プリンス・ハンカチーフ”などと呼ばれる未来も見たかった。さすがは清潔好きの日本人だと、面白がられただろうに。

PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。