F1第16戦トルコGPのレース後の角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は、悔しさを体全身から滲ませていた。それは、今年見てきたこれまで15戦とはまったく違うものだった。その悔しさは、レース後の取材の最後に次戦アメリカGPへ向けた抱負を聞いた際の、こんなやりとりからも十分うかがえた。
「もちろんアメリカも全力でいきたいです。でも、いまはまだ気持ちが切り替えられていないので……」
それだけ今日は悔しかったのかと尋ねると、「はい」と言って、その場を後にしたほどだった。
角田がこのレースでここまで悔しい思いをした理由はふたつあった。ひとつはレース序盤のルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルだ。
レース後の取材で海外のメディアが「ルイスとのバトルは楽しめたか?」と質問すると、角田は「僕にはそれはどうでもいいことです」と言った後、こう続けた。
「僕にとって大切なことは、ホンダのラストイヤーにホンダとレッドブルとマックス(・フェルスタッペン)にチャンピオンを獲ってもらうこと。だから、抜かれないよう全力で戦いました」
8周目まで粘ったことを尋ねられると、「それは決して十分じゃなかった」と悔しがった。
もうひとつの理由は、22周目のスピンだ。その理由を角田はこう説明した。
「ハミルトンとのバトルでかなりタイヤを消耗してしまって、なかなかペースを上げるのが厳しい状態だったのに、プッシュしたらスピンしてしまいました」
8周目にハミルトンにオーバーテイクされた角田は、17周目にカルロス・サインツ(フェラーリ)にも抜かれ、10番手となる。そのため、ペースが落ちたと勘違いしたのだが、実際にペースは落ちておらず、ラップタイムは徐々に上がっていた。しかし、パワーユニットを交換して最後列からスタートしたサインツがあの時点でほかのドライバーより速かっただけだった。
ところが、サインツに抜かれて10番手となった角田は、ポイントを死守しようとさらにペースアップを図ったために足をすくわれてしまった。チーム側がサインツのペースと、そのほかのドライバーのペースを角田に伝え、「このままのペースで走れば、ポイントを十分獲れる」などといったコミュニケーションをとっていれば、角田もあそこで無理はしなかったのではないかと考えると、悔やまれるスピンだった。
しかし、フランツ・トスト代表はこう言う。
「ユウキについては、いいスタートをし、素晴らしいパフォーマンスで長い間ハミルトンを抑え、かなりのラップで8番手を維持してくれた。その後、スピンして14番手に下がってしまったのは残念だが、彼にとっては大きな学習プロセスであり、ウエットで走る機会もそれほどないことから、インターミディエイトがどのように機能するのか、こういったコンディションにおけるクルマの挙動を学習できたことは大きな収穫だと思っている」
確かにトルコGPで角田はつまずいた。しかし、この日のレースでつまずいたのは、角田だけではない。角田に8周目まで抑えられたハミルトンも、レース後は悔しさを滲ませてミックスゾーンにやってきた。大切なことはつまずいたかどうかではなく、どうやって立ち直るか。アメリカGPに期待したい。