昨年来、コロナ禍でのテレワークの普及によって東京脱出の波が加速しているとされている。ところがSUUMOが関東1都4県の住民に聞いた「住み続けたい街」ランキングでは、都内の自治体がベスト3を占めた。(取材・文=昼間 たかし)
住めば都……いや住むことが出来れば……
このランキングは、「お住まいの街に今後も住み続けたいですか?」と質問するもの。つまり、実際に住んでいる人に聞いたアンケートだ。
第1位:武蔵野市
第2位:中央区
第3位:文京区
発表によると、武蔵野市がトップになっている理由は、吉祥寺の存在が大きい。住民の意見を元にした「街の魅力項目TOP5」は次のようになっている。
1:利用しやすい商店街がある
2:街の住民がその街のことを好きそう
3:人からうらやましがられそう
4:街に賑わいがある
5:公共施設が充実している
これをみるだけで、武蔵野市に愛着を持つ人はイコール吉祥寺が好きな人であることがわかる。とりわけ街の魅力として「人からうらやましがられそう」を挙げているあたり、この街に住んでいるだけで、なにかを成し遂げた気分になっていることが多いことが見て取れる。しかし、いつまでも「自分は吉祥寺に住んでいる」というプライドだけで住んでいられるものだろうか。
吉祥寺駅から徒歩10分のマンションに暮らして5年目の住人は、こう語る。
「確かに商店街は充実しているし賑わいはあります。ただ毎日商店街で飲み食いしたり、買い物をするわけじゃありません。なにより、自分の職場はテレワークになっていなくて、今でも都心に通勤しているので毎日の通勤ラッシュは変わらずつらいんです。あと、吉祥寺駅からどんなに遠くても……武蔵野市はもちろん西武新宿線の武蔵関駅あたりに住んでいる人まで『吉祥寺のあたりに住んでいる』というのは、いい加減恥ずかしいです」
このプライドがランキングを押し上げているのか。
住み続けたいなら金銭面での幸福が大前提
第2位にランクインした中央区、解説には、こんな一文があった。
「中央区の中で住み続けたい評価点をみると、日本橋・人形町、築地・東銀座など古くからの歴史ある街が高い傾向にあった」。
中央区の人口が急増しているエリアというと、勝どき・晴海あたりが想像されるのだが、「住み続けたい」意識が高いのはそのエリアではない。先祖代々、人形町に暮らす男性は話す。
「中央区はどこに住んでいるかでヒエラルキーが決まります。最上位は日本橋の古くからの住人に固定されています。次いで、人形町や築地、佃島。それ以外の地域は2級、3級、いや4級区民扱いですよ」
中央区のカースト上層に位置する日本橋や人形町、築地エリアだが旧来からの住民の数は減少傾向。変わって増えてきたのはマンションに住む富裕層である。東日本橋あたりでは、中層のマンションが増加しているが坪単価は350万円~という感じ。そんなマンションを購入できる層があえて選んでいるのだから「住み続けたい街」になるのは当然だ。
武蔵野市でも「財産があって吉祥寺駅から徒歩圏内に一戸建てを持つことができるなら、ずっと住み続けたい」という話を聞いた。中央区も同様で日本橋・東日本橋界隈の新住民は「街には風情もあるし、買い物も便利なのでずっと住みたい」とこともなげに語る。いや、日本橋界隈の高級店舗で普段の買い物ができるのだったら、日本のどこに住んでも豊かな生活ができるだろう。
タワマン人気で勢いがある勝どき・晴海界隈だが、日本橋周辺に住む人は辛い点数を付ける。
「古くからの住人は月島も含めて『埋め立て地』と、ちょっと下にみる傾向があります。勝どき駅は急な人口増に対処できず駅が大混雑。晴海に到っては、その勝どき駅以外に鉄道路線がない陸の孤島に近いエリアです。五輪選手村跡地のマンションは人気のようですが、交通の便が悪すぎますよ」(前同)
住み続けたい以前に、お金がなければ住むことすらできないのは、第3位になった文京区も同様だ。最近はマンションも増えているが、その数は決して多くない。一種、選ばれし者だけが住むことができるのが文京区である。
「住み続けたい」と考える人が多いだけあって、確かに環境には申し分がない。しかし、利便性は格段に落ちる。文京区在住2年目の男性は語る。
「まず、普段の買い物はとにかく不便です。中央区でもまだ安いスーパーはありますが、文京区はスーパーも例外なく文京区価格になっています。商店街もほぼ壊滅しています。それでもスーパーに客がいるということは、そういう層じゃないと住めないということなんでしょうね」
山手線の内側に住むという優越感を得るにもやはり必要なのは財産なのか。
結局のところ、「住み続けたい街」に住んでいるのは、すでにかなり成功している人たちなのである。いくら憧れのエリアだからといって、背伸びをして移住するのはオススメしない。そんなところに無理なく「住み続ける」には、かなりの金銭的な余裕が必要なのだ。