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ルパン三世はなぜ「フィアット500」を愛車としたのか 街から街へ……神出鬼没の大泥棒の車事情

2021年10月09日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

なぜルパンは、フィアット500に乗るのか

 放送開始50周年を迎え、今年の10月から新シリーズの放映を予定しているアニメ『ルパン三世』シリーズ。無類の女性好きでおちゃらけた性格が特徴的だが、物語のクライマックスで時折見せるワイルドで頼り甲斐のある姿に人気が集まり、今では国民的アニメに名を連ねる。


(参考:【漫画】ルパン三世がまさかの異世界転生!?


 そんな『ルパン三世』シリーズは、アクションシーンもさることながらカーチェイスも醍醐味だろう。特に毎度お馴染み銭形警部との攻防には心が躍る。そこで今回は、作中のカーチェイスを彩ったルパン三世の愛車を紹介する。


 本作には様々な名車が登場するが、ルパン三世の代名詞と言えば「フィアット500」だろう。それでは、ルパン三世が愛した「フィアット500」の魅力を振り返っていこう。


 筆者は以前、外車ディーラーで勤務していた。取り扱っているメーカーの中にフィアットがあり、よく「ルパンが乗っている車です」と商談していたことを覚えている。


 ルパン、次元、五右ェ門の3人が小さな車内にギューギュー詰めで派手なカーチェイスをするお馴染みのシーン。そんな「フィアット500」を有名にしたのが劇場版『カリオストロの城』だ。意外にもTVシリーズ1作目の後半からの登場である。


 1957年に販売を開始した「フィアット500」のスペックは、排気量479㏄、空冷直列2気筒縦置き、出力は15psで最高時速は100キロも出ないという大衆仕様であった。しかし、作中のカーチェイスで使用される「フィアット500」はスーパーチャージャーを搭載しており、クラリスの2CVを追いかけるためルパンが足元のレバーを引くと、リアフードが開いて一気にスピードがアップするというギミックが隠されている。


 なぜ、現実であれば戦闘力がこころもとない「フィアット500」がルパンの愛車として選ばれたのか。それには、ルパン三世の1stシリーズや劇場版『カリオストロの城』で作画監督をつとめた日本を代表するアニメーター・大塚康生氏が関係している。


 若かりし頃の大塚康生氏の愛車が「フィアット500」だったのだ。しかも、日本輸入第一号車だったという。一方で『カリオストロの城』で登場したクラリスが乗っていた「シトロエン」は、宮崎駿監督の愛車だった。


 半世紀ほど前から両車は“お洒落な車”のイメージが定着していたのだろう。怪盗アルセーヌ・ルパンの孫として世界を股に掛ける大泥棒ルパン三世。世界の名だたる名車に乗ってきた彼は、なぜ「フィアット500」を選び続けたのだろうか。


 あくまで想像だが、「フィアット500」は街中で目立たずに移動ができるからではないだろうか。日本であれば“外車”のフィアットだが、ルパン一味の活動範囲は海外が多いため大衆にまぎれて街から街へ移動することが可能だろう。


 いざ仕事となると崖を登ったり、階段を駆け降りたり、まるで動物のように駆け抜ける「フィアット500」。アニメを見ていても通常では考えられない挙動をするが、逆にケレン味が利いていて物語に没頭できる。


 ちなみに、そんな魅力が詰まっている「フィアット500」は、現在も新車で購入することができる。ラインアップは「1.2 ポップ」(200万円)、「ツインエア ポップ」(241万円)、「ツインエア ラウンジ」(276万円)の3グレードである。エンジンは圧縮比などをあげることで100キロまで12.9秒、最高時速160キロ、19.4km/Lと、大きく性能が向上している。


 「フィアット500」の特徴である2気筒エンジンは、「ドコドコ」とテンポの良い振動とどこか懐かしいエンジン音が心地よく感じられる。さらに内外装共に唯一無二のキャラクターであるため、見た目が気に入ったという理由で購入しても、ユーザーをがっかりさせることはないだろう。


 手が出しやすい価格で500に乗りたいというユーザーは1.2 Pop、2気筒エンジンを楽しみたいならツインエア、ルパンのようにルーフを開けて乗りたいなら500Cというように、それぞれのこだわりに合わせて楽しめるのだ。


 ルパン三世TVシリーズの第1話は、F1レースのシーンから始まる。ルパンとクルマは切っても切れない関係にあるのだ。日本ではマイナーな存在だったイタリアの大衆車がここまで有名になったのも、アニメーターの大塚氏、原作者のモンキー・パンチ氏の車への深い思いがあったからではないだろうか。


 10月から放送が予定されている新シーズンでも、これまで受け継がれてきた製作陣の粋な計らいに注目したい。


(文=杉本健太)