トップへ

絵にも多様性を 見ている側の想像を膨らませる「歩行都市」

2021年10月08日 09:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

絵にも多様性を 見ている側の想像を膨らませる「歩行都市」

 開発者としてメーカー勤務をしながら、ロボットや乗り物をモチーフにした絵画、イラスト、オブジェなどを制作している“とんかちしょうねん”さん。


 「『役に立たないことを肯定する』を制作におけるコンセプトにしています」という作風が特徴的ですが、先日Twitterで投稿した「歩行都市」もまた、それが色濃く反映されたものとなっています。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


 「今回のコンセプトは、『日常のスケール外に想像を膨らませる楽しさ』になります」


 「私は『都市』というものは、その国や土地にあるからこそ意味を成しながらも、一方で人の集合であり、かつ様々な表情を見せ、結果内部へ人々を誘惑する存在と考えています。そんな多面的で人間らしい部分を強調して、『旅人』のような様相へと変化させました」


 今回の作品「歩行都市」についてこう語るとんかちしょうねんさん。そこには城塞都市のようでありながら、手足が生え、右手には槍を握りしめるというまるで門番のような「都市」の姿。


 一方で、「歩行都市」には、「どういった心情を抱いているのだろう?」「この後どんな行動をするんだろう?」と、見る人によって「答え」が変わってきそうな「無機質さ」も印象的。


 「絵の『外側』で見る人がストーリーを作れるように、絵の『中側』には答えがないようにしているんです。なので、『どの程度までヒトに近づけるか』という部分がこだわった点であり、苦労したところでもありますね」


 「本作では、本体部分の色を黄色をベースにしているんですが、安っぽさを感じさせないように他色を暖色系にして、全体的にノスタルジックな雰囲気にまとめています。建物部分も1棟ごとに細かく色を変えて、飽きが来ないような工夫も施しているんです」


 と、苦労した点とこだわりのポイントを教えてくれました。


 また制作過程においては、「人らしさ」と「巨大建造物ぽさ」の攻防が脳内で繰り広げられ、様々な葛藤の上で生み出されたとのこと。


 先ほど筆者は、歩行都市を見て「門番のよう」と記しましたが、それもまたひとつの「解」。そんな千差万別なイメージの柔軟性があるからこそ、投稿に対して1万を超えるいいねが寄せられたのかもしれません。


■ 「役に立たないことを肯定する」大切さ

 ところでとんかちしょうねんさんは、幼少期は工作活動に興じており、家電製品の分解といった機械いじりや乗り物・空想のロボットが大好きだったという人物。


 そんな工学系としてのルーツがある一方で、大学は美大に進学し6年間油絵を専攻。一見すると矛盾ともおもえる経歴ですが、それこそが自身の作風の特徴。最初に述べたように様々な機械のイラストを描かれています。


 また、「役に立たないことを肯定する」というコンセプトにより生まれた作品には、様々な反応があるとのこと。


 「作品をSNSに投稿した際に、『こんな形で上手く動くわけがない』『非効率だ』といったコメントが寄せられることが時にあります。確かに機械のイラストを描きながら、『役に立たないことを肯定する』というのは、矛盾しているように聞こえるかもしれません。機械というのは、『役に立つかどうか』という評価軸にさらされた存在ですから」


 「ただ、私たちも同様に『正解の形』というものはありません。私の経歴のように多くの矛盾があります。そういったある意味非効率的で、そして矛盾に満ちた部分を認めることが出来れば、『生きづらさを感じたり、外部の評価に苦しむことから少しでも解放されるのではないか?』と考えています」


 昨今は「多様性」という言葉が国内外で注目されていますが、作品を見た人たちの反応それぞれが、時代を反映していると言えるかもしれません。


 ちなみに最後、作品に託す願いとして「小難しい言葉を並べましたが、私の作品を見て少しでもワクワクしたり、クスっとしてもらえれば何よりですね(笑)」と教えてくれました。


 なお、10月1日から27日にかけて行われている東急ハンズ渋谷店の「ゆけ!!俺のロボ展 ~ジパング編~」にて作品展示が行われているそうです。とんかちしょうねんさんが作りあげる不思議な世界。お近くの方は、ぜひ足を運んでみてください。



<記事化協力>
とんかちしょうねんさん(@tboy1123)


(向山純平)