2021年10月05日 21:41 弁護士ドットコム
6月からスタートした西口竜司弁護士の連載コラム「熱血・西口弁護士のなんでやねん事件簿」。弁護士のあるある話から、実際にどうやって弁護士に相談すれば良いのかまで、弁護士を身近に感じてもらえるような内容をお届けします。
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今回は西口弁護士にとって思い出深い事件について、語ってもらいました。
弁護士生活を10年以上続けてくると色々な方との出会いがあります。嬉しいこと、辛いこと、悲しいことなど挙げていけばきりがありません。
今回は、思い出深い事件について書かせてもらえたらと思います。もちろん、仕事上守秘義務を負っておりますので、ぼやかした内容になることはご承知おきください。
一番の思い出はといわれると、ある少年事件が浮かびます。事件名は言えませんが、マスコミで報道されるほどの事件でした。
私は、弁護士会より依頼を受けて面会に行きました。面会に行く前は凶悪な少年像を想像していました。
しかし、警察に行ってみて驚きました。ごく普通の礼儀正しい少年が目の前にいました。「こんな少年が、こんな恐ろしい事件を起こすなんて」と驚いてしまいました。
色々と話をしましたが、しっかりと受け答えもでき、「反省」をしていました。少年事件って「軽すぎる。実名が報道されないのはおかしい」という声も聞きますし、被害者の方からみれば許せないのも当然です。
私は、弁護士として少年に反省を促しました。毎日のように接見に行ったと記憶しています。面会では本当に色々なことを話しましたし、途中から少年から兄貴のように思われていたのかなとも感じました。少年の生い立ち、少年が現在置かれている環境、少年がなぜ事件を起こしてしまったのかなど色々と聞きました。
話を聞いているうちに自分自身が恵まれているということを感じました。私自身も聖人君子ではないので、色々な不満などもありましたが、少年の思いを聞くにつけ自分自身の不満が恥ずかしいことのように思えてきたのです。
被害者の方にも何度かご連絡をし、少年の手紙を持参して謝罪をしました。少年の手紙をみた被害者の方は涙を流され、「少年を許す」と言ってもらえました。
事件が重いので、少年審判では少年院送致という結果になりました。審判の後に少年と面会をした際、少年は涙を浮かべながら「本当にありがとうございました。このご恩に報いるために少年院を出たら頑張ります」と言ってくれたのです。
その後、個人的に少年院にも何度か面会にも行きました。それから数年して少年院を出たあと、手紙が届きました。「先生のお陰で今頑張っています。本当にありがとうございました」という心のこもった手紙をもらいました。私は、思わず涙が出ました。弁護士をやっていて本当に良かったと思える瞬間でした。
その後、連絡は取れていませんが、少年は頑張っていると確信しています。もう会うことはないかもしれませんが、貴方の活躍を心より祈念しています。
次に、こんな事件もありました。一般の方にとって弁護士はまだまだ敷居が高い存在ですね。ある市役所での法律相談で、ものすごく顔色の悪い男性と出会いました。男性は多額の借金を抱えており「死ぬしかない」という話をされました。
もちろん、私は男性に対し、死ぬ必要なんかない。貴方みたいな人のために破産という制度があるんだというお話をしました。
しかし、真面目な人がいるもんですね。「人様からお借りしたお金を返さないで破産なんかできない」と言われるのです。私としては、真面目な男性を死なせるわけには行かないのでその日のうちに事務所に来て頂くようお願いし、事務所で面談をしました。
はじめは罪の意識にさいなまれ、破産を拒否していた男性ですが、制度を説明して、徐々に破産手続きをすることに同意してもらえました。そして、何とか破産の申し立てまでこぎつけて同時廃止という手続きで免責されることになったのです。その際、男性から言われた言葉が残っています。
「先生のお陰で死なずに済みました」。そのときの顔は、初めてお会いしたときとは別人の顔でした。やる気に満ちた顔になっておられました。
その後、男性から年賀状をいただき「頑張っています。家族もできました。本当にありがとうございました」と記されていました。確かに破産という制度には色々な問題があります。しかし、借金のために人生を奪うことまで求めるものではないのです。生きてくれた彼に心より感謝の気持ちを述べたいと思います。
最後に、ある交通事故の被害者の方の件を書かせて頂きます。交通事故というのは、被害者にとっては非常につらい事件です。その人の人生が180度転換してしまうのです。
ある重大な交通事故の被害者の方は、大きな後遺症のため、事故前と事故後で人生が変わってしまいました。お金では解決できないですが、私は弁護士として最大限度の賠償を勝ち取りました。
その裁判をしている最中、彼は自身の置かれた状況にもめげず必死で頑張っていました。家族の方も素晴らしい方ばかりで彼の頑張りを支えておられました。厳しい状況下ですが、就職をされたようで今も頑張っていると聞いて少しだけほっとしました。逆境の中、頑張る彼の姿に尊敬の念しか浮かびません。
色々と書かせて頂きましたが、私は多くの方と出会い、多くの事件と対峙してきました。そして、多くのことを学んできました。これからも多くのことを学ぶのだと思います。今まで出会った皆様に感謝の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございました。
最後に、最近弁護士になりたいという人が減っています。実際仕事をしてみると大変なこともありますが、感動的なこともたくさんあります。是非とも挑戦をして欲しいと思います。また、読者の皆さまにおかれましては、もっと気軽に弁護士に相談して頂きたいという思いでいっぱいです。本当にありがとうございました。
(西口弁護士による連載は今回が最終回です。これまでご愛読いただき、ありがとうございました)。