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裁判員「20歳→18歳」引き下げ、知っていますか? 有志弁護士が「議論が不十分だった」と批判

2021年10月04日 14:01  弁護士ドットコム

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2021年5月の法改正で裁判員に選ばれる年齢がこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」になることについて、裁判員制度について日頃から情報発信している弁護士らが、都内で記者会見し、「法改正のプロセスに問題がある」と訴えた。


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一般社団法人裁判員ネットで代表理事を務める大城聡弁護士は、「十分な議論がおこなわれることのないまま、重大な法改正がなされたのは問題だ」と話した。



●少年法『等』の一部を改正する法律案で「18歳以上」に

裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から選任される(裁判員法13条)。選挙権は「18歳以上」の者に与えられるが(公職選挙法9条1項)、裁判員の選任資格についてはこれまで公選法附則10条で「20歳以上」を維持してきた。



ところが、2021年5月に成立した「少年法等の一部を改正する法律案」に、公選法附則10条の削除が盛り込まれていたため(同法案附則17条)、2022年4月から「18歳以上」であれば裁判員に選ばれることになった。



「衆議院議員の選挙権=18歳以上」という条文が原則どおりに適用されることになるとはいえ、高校生が裁判員に選ばれる可能性もあるなど、その変化は小さくない。



しかし、裁判員経験者などと交流することもある大城弁護士ですら、「9月下旬にたまたま見つけた最高裁のホームページの掲載内容で知った」というほど、国や最高裁の広報は消極的だという。



「裁判員に選ばれる年齢が変更になったという報道を見聞きした記憶もありませんし、法改正の動きがあることも知りませんでした。



国会でも、裁判員の選任資格の年齢引き下げについて、正面から議論されることはなかったようです。裁判員として参加する市民が主体的に議論することなく、重大な改正が行われたことは大きな問題です」(大城弁護士)



●過去の改正では議論の上「20歳以上」を維持していた

裁判員経験者ネットワーク世話人の牧野茂弁護士も「私たちだけでなく、学者やメディアの記者など私の知りうる関係者の誰もが改正を知らなかった」と話し、社会にほとんど知らされていない点を問題視する。



「裁判員制度は市民が中核となって支えるものです。議論の余地がたくさんあるはずなのに、市民の声がまったく反映されないまま改正されました。



2016年6月に施行された公選法で選挙権が『18歳以上』になった際には、少年法で少年として扱っている18~19歳が人を裁くという立場になることが妥当かが国会で議論され、最終的に附則で除外されました。



また、2018年に民法の成人年齢を18歳に引き下げる際にも議論となりましたが、『成人年齢引き下げとは連動しない』として附則は維持されました。



ところが、今回の改正では裁判員の年齢について議論された形跡は見当たりません」(牧野弁護士)



●「改正の事実をまずは知ってもらいたい」

裁判員制度は国民主権の原理に基づいており、裁判員の選任資格を選挙権年齢に合わせて「18歳以上」とすることには、大城弁護士も「幅広い年齢層の市民を参加させることで、民意の反映につながりうる」として、その合理性自体は否定しない。



しかし、裁判員に選ばれる年齢が変更されるという重大な法改正について、「あらかじめ周知するなどして、市民間で十分な議論を尽くす機会をつくれなかったことは、そのプロセスに問題がある」(大城弁護士)という。



牧野弁護士は、「18歳の裁判員が18歳の被告人に死刑を下すという事例が出てきてしまうかもしれない。それでいいのか」と話す。



「裁判員になれば、量刑まで判断することになります。それをどれくらいの年齢であれば、またどのくらいの社会経験を持っていれば十分に果たせるのか。司法作用の一翼を担うという重い責任とそれを遂行するだけの立場に誰を選ぶのかについては、慎重に判断する必要があります」(牧野弁護士)



すでに法改正されており、このままいけば、2022年11月頃に裁判員候補者名簿掲載通知が発送され、2023年1月からは18~19歳も裁判員に選ばれる可能性がある。もし「18歳以上」という裁判員の選任資格をあらためて変更しようとなれば法改正が必要だ。



「(裁判員の選任資格を再び)変えられるかどうか、変えるべきかどうかというのは、この問題が知られて、国民がどう感じるかだと思います。



18~19歳が裁くことになっていいのかという議論がでてくるかもしれないし、あるいは若い人ほど社会に積極的に関わっていくべきだという議論になるかもしれません。



いずれにせよ、改正されたこと自体が知られていないのが現状ですので、まずは多くの方に知っていただいたうえで広く議論をしていただきたいと思います。そこで当面の間、『20歳以上』のままにした方がいいということになれば、法技術的には実現可能です」