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【漫画】明日が不安な夜に……“かわいくないネコ”が心をそっと癒してくれる

2021年10月03日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

【漫画】辛い夜は“かわいくないネコ”と……

 眠りにつく前の世界は、時に不思議な寂しさと恐怖に満ちている。その日誰かから向けられた言葉を反芻して傷ついたり、会えない誰かを想って切なくなったり、世界78億人の誰ともすべてを分かち合うことができない恐怖に怯えたり……。


 「だれかたすけてくれないかなあ」。そう思いながらお布団の中で身を縮めている時、読みたい一冊がある。


 イラストレーター・フクモトエミが描く四コマ漫画『ぼくはネコ』だ。


(参考:【漫画】『ぼくはネコ』の印象的な“言葉”を4コマで読む


 Suck a Stew Dry、indigo la End、QOOLAND、さくらしめじなど様々なアーティストのアートワークやMV美術などを担当してきたフクモト。2021年6月には多くの個性的なアーティストを世に送り出す気鋭のレーベル・プロダクション「コドモメンタルINC.」に専属所属契約が決定し、その第一弾として『ぼくはネコ』が7月28日にコドモメンタルBOOKSより刊行となった。


 この本に登場するのは彼女のアイコンとなっている“かわいくないネコ”と、ネコの友達“ともだちくん”。基本的に起承転結で構成される四コマ漫画だが、本作に明確なオチは存在しない。ネコの取り留めもない独白と、時折それに応えるともだちくんとの会話が繰り広げられる。愛くるしいキャラクターに癒される一方で、何度も立ちどまって些細な日常に向き合うネコと、そんなネコの考えに「うん、うん」と相づちを打つともだちくんの姿や言葉にドキッとさせられたり、前触れなく自分の気持ちを言い当てられて目頭が熱くなったりする瞬間が繰り返し訪れる作品だ。


 今回はそんな『ぼくはネコ』から、特に筆者が心打たれた言葉を紹介したい。


■誰かと一緒にしあわせになるため必要なこと


「きみといることがしあわせなんて きみをしあわせのりゆうにはしないよ ぼくはひとりでもしあわせになれて それでもきみと一緒にいたいっていいたいから」(ネコ)


 一緒にいて「しあわせだなあ」と思える相手がいることは素晴らしいことだけど、その人が人生の“すベて”になったらいつしか自分も相手も苦しくなってしまうことが往々にしてある。ひとりで美味しいごはんを食べたり、他の誰かとおしゃべりしたり、それだけで充分に心満たされても求めてしまうのは“きみ”なんだと、ともだちくんに伝えたいネコ。


 大切な誰かと一緒にしあわせになりたいから、まずはひとりで立っていられる自分になろうと静かに決意するネコの優しさに胸がギュッとなる言葉だ。


■“ひとり”と“ひとり”のまま、寄り添い合う


「ぼくはネコくんのことを救えないけど ネコくんが泣きやむまでいっしょにいるよ ネコくんを救えるのはネコくんだけだから」(ともだちくん)


 1つ目に紹介したネコの言葉にも通じることだが、結局のところ自分を救えるのは自分しかいない。「だれかたすけて」と声を挙げることは大切だし、誰かといることで一時孤独や苦しみから逃れることはできる。だけど、違う人間だから100%理解し合えることはきっとない。それを互いにわかっていないと不用意に傷つけたり、勝手にがっかりしてしまう。


 だから突き放しているように思うかもしれないともだちくんのこの言葉も、実は誠実で思いやりに満ちている。“ふたり”ではなく、常に“ひとり”と“ひとり”で。ネコとともだちくんの関係はバラバラのままでも大切にし合って、一緒にしあわせになることはできると教えてくれるのだ。


■「大丈夫」をお守りに夜明けを待ちながら


「こういう夜は仕方ないんだ 大丈夫って100回唱えて すこしだけねむれたら きっと明日は大丈夫だよ」(ネコ)


 『ぼくはネコ』は冒頭でも触れたように「だれかたすけてくれないかなあ」という思いにそっと寄り添ってくれる作品だ。先日リアルサウンドで行われたインタビュー(https://realsound.jp/book/2021/08/post-837824.html)で、フクモトは「この4コマ本に刺さる人って、繊細だったり、考えすぎだったり、言いたいことを言えなくて生きづらい部分を抱えていたりする人たちなのかなと思っていて。そういう人が、こういうことを考えているのは自分だけじゃないんだなって、早く眠れたら、それが一番嬉しいです」と答えている。


 常に誰かがそばにいるわけではなくて、ひとりで夜明けを迎えなければいけない時もある。特にこのご時世、誰かと会いたくても簡単には会えない。寂しさに押し潰されそうになった時、ページをめくればどれか一つでも心に留まる言葉がある。その言葉はきっと、あなたのお守りになってくれるはずだ。夜空の下に同じ本を抱えて眠る人たちがいる、と思うだけでふかふかのお布団に包まれている気分になる。


(文=苫とり子)