すっかりおなじみの光景となったUber Eats配達員の姿だが、そのリアルな実態は知られていない。2017年から兼業配達員を続け、6000件を配達したライターの飯配達夫さんに、当事者しか知らない赤裸々エピソードを寄稿してもらった。(文:飯配達夫)【連載第9回】
ドアの隙間、ギリギリのところから商品を受け取ろうとする客
宅配というのは見知らぬ人間との一期一会である。郵便の書き留めや宅急便、ピザ配達も同じだと思うが、見知らぬ他人が玄関先までやって来て、対面で荷物の受け渡しをする。
ただ、荷物の受け取り方にも人それぞれ微妙な違いがある。Uber配達員にとって最悪なのは、玄関ドアをかろうじて腕1本が通る程度しか開けないで、そのギリギリの隙間から商品を受け取ろうとする客である。
なんといっても絵面が悪い。扉の隙間から手を伸ばして物品を受け取られると、ヤバい品の受け渡しで、お互い顔を合わさないようにしている人たちのようだ。不気味で印象が良くないし、はたから見れば宅配側まで胡散臭くみえそうだ。
苦笑してしまうのが、たいていの場合、商品を受け取るのはできても、隙間が狭すぎて部屋の中に入れられないことだ。きっと配達員が立ち去った後であらためて扉を開け直しているんだろう。
まだ配達の経験が浅かった頃、この「隙間からの手」が荷物の取り込みに難渋していたので、親切のつもりでドアを少し拡げてあげたことがある。
これが大失敗だった。
そのときドアの奥から覗いていた女性の顔。「お願いだから殺さないで!」と言わんばかりに口を大きく開けたまま恐怖に凍り付いたその表情は、ホラー映画さながらだった。
いや、その反応には、こちらも驚かされたし、当時はえらく傷ついた。しかし向こうは向こうで怖かったのだろう。なんとも不幸なめぐり合わせだった。
なお、置き配が普及してからこんな対応は大幅に減った。コロナ禍は、配達員の業務体験を少なからず変えたと思う。