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意外と知らない「クルマ」の豆知識 第14回 世界で最も長い距離を走ったクルマは?

2021年10月01日 11:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
多くのユーザーは数年に1度、クルマを買い替えるものだと思いますが、中には新車で購入したクルマに何十年も乗り続けている人がいるそうです。何十年も乗れば走行距離はかなり伸びそうですが、世界で最も長い距離を走ったのは一体、どんなクルマなのでしょうか。モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。


○最も長く走ったのはドラマでも有名なボルボ車!



ギネスブックによると、1オーナーで最も距離を走ったクルマは、アメリカに住むアーヴ・ゴードン氏が所有する1966年式のボルボ「P1800」だ。走行距離は300万マイル、約482.8万キロ(2013年時点)だという。ゴードンさんのP1800は、1998年に走行距離169万マイルに達した際、個人が乗用車で走破した最長走行距離としてギネスブックに認定されているので、その記録を自ら塗り替えたことになる。


こんなに長い距離を走ったP1800とは一体、どういうクルマなのだろうか。



P1800のデビューは1960年。若きスウェーデン人で、カロッツェリア・フルアに在籍していたペレ・ペッテルソンによるイタリア風のスタイリングをまとい、1961年に生産が始まった。当時は自社での製造が困難であったため、最初の数年間はスコットランドのプレスド・スチール社がボディを製造し、ウェスト・ブロムウィッチのジェンセン・モーターズ社で最終組み立てを行っていた。1963年にはヨーテボリ(ボルボの本拠地)に生産拠点を移している。


P1800は「121/122S」のフロアパンをベースとしているが、ホイールベースは短くなっている。エンジンは1.8Lの4気筒を搭載。当初の最高出力は100psだったが、後に108、115、120psと発展した。

実はこのP1800、1962年から1969年にかけて放映されたテレビドラマ『The Saint』で、ロジャー・ムーア演じる主人公サイモン・テンプラーが運転したことで、非常に有名になったのである。


ドラマに登場したP1800は実際にロジャー・ムーアが所有していたクルマで、1966年11月にスウェーデンのボルボ・トースランダ工場で製造されたもの。ムーアは、この有名な「1800 S」の最初の登録オーナーだった。ロンドンの登録プレート「NUV 648E」は、1967年1月20日に発行されたという。


『The Saint』で「ST 1」のプレートを付けたこのクルマは、1967年2月に撮影されたエピソード「A Double in Diamonds」でデビュー。その後、1969年にシリーズが終了するまで、主人公サイモン・テンプラーの乗り物として活躍した。



ムーアは後に、このクルマを映画『007/ゴールドフィンガー』(1964年)でソーロー氏を演じた俳優のマーティン・ベンソンに売却。その後は何人かのオーナーを経て、2000年代初頭にはオリジナルに近い状態に丁寧にレストアされ、現在はボルボ・カーズが所有している。



このパールホワイトの「1800 S」は、ボルボオリジナルの希少な「トランケート」スポークデザインのミニライトホイール、Hellaのフォグランプ、ボルボの木製ステアリングホイールを装備。車内には、ダッシュボード上の温度計や、スタジオでの撮影中に俳優たちに風を送るために使用された独立した室内ファンなど、『The Saint』撮影時のディテールが残されている。


日本にも、複数台のP1800が上陸を果たしている。当時の輸入ディーラーである北欧自動車やヤナセが輸入した個体だ。また近年では、ボルボ・カー・ジャパン元代表の木村隆之氏が所有し、クラシックカーイベントなどで活躍していた。



内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら(内田俊一)