トップへ

ゴミは社会を映す鏡!? ゴミ清掃芸人に聞いた"ゴミと社会の話"

2021年09月30日 17:41  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース

より良い社会を実現するため、環境問題への取り組みを掲げている会社は多い。だが、個人が扱う家庭やオフィスでのゴミに対する意識はどうだろう?結構、知らないことやどう処理すればよいのかわからないこともあって、適当にゴミを捨ててしまったりすることもあるのではないだろうか。そんな日常的なゴミの問題を書籍やイベント、メディア出演などでわかりやすく楽しく啓蒙してきたのが、お笑い芸人でありゴミ清掃員でもあるマシンガンズ・滝沢秀一だ。


最新刊『日本全国 ゴミ清掃員とゴミのちょっといい話』(2021年8月2日発売/主婦の友社)は、日本全国の市町村によるゴミ収集の取り組みが紹介されていて、思わず「自分が住んでいる地域はどうなんだろう?」と調べたくなってしまう興味深い内容となっている。ゴミ清掃員を始めて今年で9年、「本当にゴミを少なくしたい」という滝沢にその思いを訊いた。

環境に対する共通認識を作りたい



――『日本全国 ゴミ清掃員とゴミのちょっといい話』、発売おめでとうございます。



滝沢:ありがとうございます!



――今日は取材のためにお時間をいただいているわけですが、普段の滝沢さんは何時から1日が始まるんですか。



滝沢:ゴミ清掃があるときは、だいたい5時起きですね。5時半に家を出て6時半に出社して、アルコール検査をします。



――お酒が残っていないかチェックするわけですね。



滝沢:そうなんです。僕は運転せずに収集作業だけなんですけど、それでもやらなきゃいけないんですよ。公の仕事なので、結構厳しい決まりがあるんです。



――じゃあ、前の晩に晩酌することは絶対できないですよね。



滝沢:できないですね。だから、健康になりました(笑)。もともとお酒が好きなんですけど、もう飲まなくなりましたね。だいたい、これぐらい飲むとアルコール検査に引っかかるというのがわかりますし、何回かあぶないときがあったので。



――運転しなくても必ずアルコール検査しなければいけないというのは厳しいですね。



滝沢:一般の人としゃべるときに万が一酒臭かったらまずいだろうということで検査があるんですよ。まあ、なくしてほしいですけどね(笑)。



――滝沢さんは、これまでもゴミ清掃にまつわる書籍を数冊発売されていますが、今作はなぜこのような内容になったのでしょうか?



滝沢:今までは、ゴミ清掃員の大変さやゴミの出し方、マナーとかの本を出していたんですけど、そういうところに焦点を当てるだけじゃなくて、大きな枠組みをみんなに見てもらいたいなと思ったんです。自治体も横のつながりがなくて、「こんなに良いことをやっているのに隣の自治体ではやってない」みたいなことが結構あったりするんですよね。なので、「各自治体ではこんなことをやってますよ」っていうことをいろんなところに紹介して、その枠組みたいなものをみんなで共通認識して、良い環境作りをしていけたらいいなと思ってこの本を書きました。



――発売後1ヶ月ぐらい過ぎましたが、反響はいかがですか?



滝沢:「こんな取り組みやってるんだ!?」みたいな感じです。僕の本を読んでくれている人は、やっぱりゴミのこともだんだんマニアックになってくるんですよ(笑)。なので、他の地域でやっているゴミの出し方も知りたいという人もいて、この本を読んで「うちの自治体でもやってくれればいいのになあ」って思う人もいるみたいです。僕は、そういうことを思うことイコール、民度が上がるみたいなことだと思っているんです。ゴミに対する意識が高くなることは良いことだと思います。



――本の中でも、「環境に対する共通認識を作りたい」と書いてますね。

滝沢:そうなんです。地域によってゴミの出し方って違うじゃないですか?それってもう、時代に合わないんじゃないかなって思うんですよ。

ちょっとずつみんながゴミを減らすというのが大切



――これまで仕事をしたきた中で、使命感みたいなものも生まれてきたのでしょうか。



滝沢:僕は毎日ゴミのことを考えていたり、携わっている時間が多いので、「ゴミマニア」なんですよ(笑)。なので、「ここでこんなことをやってるぞ」とかみんなに知ってもらいたいんです。根本的には、「ゴミを減らしたい」という気持ちがあるんですよ。ゴミ清掃員なのに、ゴミがなくなったら仕事がなくなるじゃないかって言われるんですけど、そんなレベルじゃないんです。ゴミが異常に多くて、労働力もすごく必要なので、ちょっとずつみんながゴミを減らすというのが大切だなと思っていて。例えば、この本の中で奈良県生駒市の「もったいない食器市」というのを取り上げているんですけど、去年のコロナ禍のときは、断捨離がすごくて。不燃ごみで言ったら、お皿地獄なんですよ。


――お皿が大量に捨てられていたんですか?



滝沢:そうです。みんな、買ったりもらったりしたであろうお皿を片っ端から捨てるんですけど、これも違う人から見たら欲しい人もいると思うんですよね。そういう場があまりないから、みんなゴミとして捨てちゃうと思うんです。だから、みんながゴミにちょっとした意識を持ってくれれば、そういうお皿がゴミじゃなくなるかもしれないんですよね。



――たまに、家の軒先に「ほしい方はご自由にどうぞ」って、食器が置いてあることもありますけど、ちょっと手を出しづらい気がします。



滝沢:そうそう。僕も、Twitterでお皿を集めたことがあったんですよ。そうしたら異常に集まったんです(笑)。だから、みんなに捨てたいお皿がいっぱいあるんですよ。家の前で「ご自由にどうぞ」もやったんですけど、普通にやってもみんな持って行かないんですよね。でも結構、「どういう思いでこのお皿を出しているのか」みたいなことを書くと、意外と持って行ってくれて、キレイになくなるんですよ。だからやっぱり、モノに対する思いとかが今欠けているから、そこをちゃんと伝えればみんな持っていってくれるんですよね。



――コロナ禍はまだ続いていますけど、ゴミ収集の状況は1年前とあまり変わらないですか。



滝沢:ゴミを出すときに気を付けることなどは、やってくれる人が増えているとは思いますけど、それでもゴミに関心のない人もいて、結び口を結ばないでそのまま出す人とかは、一定数いるんです。そういう状態だと、道端にゴミをばら撒くみたいになっちゃうんですよね。そういう人にも知ってもらいたいなと思うんです。僕もゴミを回収してもらう側の立場でもあるから、清掃員が回収しやすいように、袋の中には8割ぐらいのゴミの量で、中の空気を抜いて、二重に縛るようにしています。

ゴミを楽しんでもらうというのが大事かなって思います



――滝沢さんがゴミ清掃員を始めて9年目とのことですが、実際に仕事を始めた頃にご自分のゴミの扱い方を反省したようなこともあったのでしょうか。



滝沢:結構ありました。もちろん、瓶とか缶とかの分別はしますけど、プラスチック資源って意味がわからなかったですもんね。そう考えてみると、1つ知識を得て「なんでみんな知らないんだ!?」みたいなことにならないように、今でも気を付けてます。「これはプラスチック資源ですよ」と言っても、たぶんみんな意味がわかってないと思うんです。僕は結婚した当時、杉並に来るまで「プラスチック資源」って知らなかったんですよ。うちの実家の地域にはなかったので。



――捨てるときにはどう分別していたんですか?



滝沢:可燃ゴミですね。でもそれがある地域とない地域があるんです。だから、プラスチック資源ってそんなに浸透していなかったりするんでしょうけど。結婚した当時、弁当の容器とかを洗えって言われたんですけど、ゴミなのになんで洗わないといけないのか意味がわからなかったんです。でもたぶん、認識としてはみんなもそんな感じで、ゴミと資源の違いをわかっていないんですよね。一般の人はそこから始めないといけないので、やっぱり同じことを何回も言わないといけないんです。周知活動っていうのはそこが大切だと思います。



――資源として出すなら洗う意味もわかりますもんね。



滝沢:そうなんです。でも学校で習ってるわけじゃないし、なんとなく、みんなパンフレットを渡されて、各々これに従ってやるようにっていう感じだから、周知の仕方にもまだ課題があると思います。だからこういう本で知ってもらって、ゴミを楽しんでもらうというのが大事かなって思います。



――本を読んでみると、本当に自治体によって取り組み方が違うことがわかります。



滝沢:違いますね。予算のある地域とない地域がありますから、予算がある地域だとAIを導入するとかできるかもしれないですけど。人口が少ないからすごく立派な清掃工場はいらないとか、そういう理由で各自治体によってゴミを出す事情が違うんですよね。



ゴミを全然分別しない会社は、だいたい6年以内に潰れる



――滝沢さんが仕事をしてきた9年間の中で、一番変わったゴミ事情ってどんなことですか?



滝沢:断然、ペットボトルです。(お茶のペットボトルを手に取りながら)ペットボトルなんか、これを出せばいいわけじゃないですか?でもその理屈をわかっていないというか、ラベルを剥がしていないとかキャップを取っていないことがほとんどだったんですけど、シャンプーの容器やキッチン漂白剤の容器とかを全部、ペットボトルだと思って出してるんですよね。あとは卵のパック、弁当の容器とか。TENGAみたいなものもよく入ってましたもん。


――それはちょっと嫌ですね(笑)。



滝沢:最近見なくなりましたけど。本人の中では分別してるんでしょうけどね。9年前なんかもっとひどかったですから、ペットボトル1つにしても、周知をするのにこれだけ時間がかかるんですよ。ず~っと地道に、「ラベルを剥がしてください」「キャップを外してください」って言ってきて、それでもこれだけ時間がかかるんです。やっぱり、リサイクルってすごく時間がかかるんですよね。もちろん、変わってる地域と変わってない地域はありますけど。人がラベルを剥がせば自分も剥がすし、剥がしてなかったら剥がさない人が増えたりとか、ゴミって人に影響されるので、やっぱり地域によって全然違いますね。



――集積所がなくなって、家庭への戸別回収を導入したらゴミが減ったという、「集積所をやめたらゴミが減った?」というエピソードも本に載ってますね。



滝沢:ちゃんと分別しないと家の前から持って行ってくれないので、ちゃんと分別するようになるんですよね。東京以外で多いのは、名前を書いてないと持っていってくれないというところも結構あるんですよ。それはまあ、プライバシーに関わってくるので僕はどうなのかなって思いますけどね。でも、そうすれば分別はちゃんとするはずなんですよ。



――この本の中で、滝沢さんが一番紹介したいお話を1つ挙げてもらうとしたら、どれですか?



滝沢:千葉県市川市の「24時間生ゴミボックス」です。これは、全国で取り入れてほしいですね。ゴミって、紙を抜かしてプラスチックを可燃ゴミから抜けば1/3ぐらい減るんですよ。ただ、次にぶつかるのが生ゴミなんです。生ゴミを24時間いつでも捨てられるとしたら、意外とゴミってでないんですよね。それ以外は、例えばおむつとか、いろいろ分別したけどこれは燃やすしかないという「燃やすしかないゴミ」という状態になると思うんですよね。だから僕はコンポスト(微生物の力で生ごみを分解して堆肥にする)みたいなことをやってみたりしているんですけど、それを家庭でやるのを強制するわけにもいかないじゃないですか?でも、自治体が「生ゴミをいつでもここで回収するから持ってきてください」ってやれば、結構ゴミは減ると思うんです。しかも、そのゴミを有効活用するということなので、良い取り組みだと思うので広がってほしいですね。



――可燃ゴミを捨てそびれてしまうときもあるので、24時間出しに行けるのはありがたいです。



滝沢:夏は腐ったりしますからね。ゴミ清掃員としても、生ゴミがなければゴミ汁が生まれなかったりするので。焼却にしても、あれって火で燃やすから、水は大敵なんですよ。そうするとまたエネルギーを足さないといけないし、税金を使うことになるんです。それを考えると、良い取り組みだと思います。ゴミ清掃員も助かるし、無駄な税金も使わなくて済むので。

――オフィスワークだと、デスクごとに個別の小さいゴミ箱があってみんなそこに捨てると思うんですけど、そういうときに気を付けてほしいことなど、アドバイスはありますか?



滝沢:アドバイスというよりは、ゴミってその人自身を表すと思います。ゴミって思ったらみんな無茶苦茶な捨て方をしたりするんですよね。やっぱり、誰かが回収するって考えてもらえると、どういうゴミの出し方をしたらいいのかなって自分なりにわかると思います。ゴミって、人が見ていないところで自分がどうありたいのかが問われるものだと思うんですよ。「自分が捨てた後はどうでもいい」ってなる人は、結構仕事でもそういう影響を与えると思います(笑)。僕もちょっと会社のゴミを回収したりするんですけど、全然分別しない会社とか結構あるんです。そうするとだいたい6年以内に潰れるんですよ。これは「あそこのあのゴミなくなってるな」って6年目のときに気付いたんですけど。要は、ゴミだからって適当に、誰が回収するかも考えずに捨てる、「あとはお前らの仕事だろ」ってわざと汚くしているような会社は、何か他のところでほころびが絶対出てくるので。そこらへんは配慮してやった方がいいと思います。例えば、コロナのことが今よりよくわかってなかった頃、自分の家にマスクを入れたくなくて、マスクを集積所に捨てていく人が結構いたんですよ。集積所をゴミ箱みたいに考えて、誰かが回収してくれると思ってるんですよね。そこの先に回収する誰かがいるっていうことを考えるのって、その人の人間形成にとっても大切なことだと思うんです。ゴミだから誰かが捨てればいいっていうことではなくて、そこに配慮することが他のことにも影響を与えると思います。

プロフェッショナルの仲間を増やして、よりよい社会に



――滝沢さんはお子さんもいらっしゃいますが、ゴミ分別のことは教育にも活かされていますか?



滝沢:いや、とくに何かやってるということはないですね。「これをやりなさい」とか言ってもやらなかったりするので。だけど、親が楽しんでゴミを分別していると、「何やってるの」って、真似したがるというか。うちの下の子は、「これ、古紙?」って言いますから(笑)。



――古紙という言葉を覚えているんですか(笑)。



滝沢:そうなんですよ。「これ雑紙?」とかも聞いてきます。雑紙って集めるとまた紙に生まれ変わるんですけど、それを5歳の娘は知ってますね。



――そうやって自然に覚えてくれたらうれしいですよね。滝沢さんがこうして本を出している理由である「共通認識を作りたい」というのは、広がっている実感はありますか。



滝沢:本当にゴミを少なくしたいですし、共通認識を作りたいというのはもちろんなんですけど、そういう志を同じくする人たちが集まってくるんですよね。なので、やっぱり言い続けていかなければいけないなと思っています。結局、1人でやろうとしても物事って続かないんですよね。なので、ドラクエみたいに仲間を集めてやっているんです。ゴミの中でも、お互いのプロフェッショナルな部分が違うんですよね。自分が足りないところを補ってもらったりとか、教えてもらったり教えたり、あと僕は芸能活動をしているので、「今こういうことで困っています」とか言えるじゃないですか?それが僕の得意技だったりするので、そういう仲間を増やして、よりよい社会にできたらいいなと思っています。



――この本もその活動のための1つとしてあるわけですね。とくにどんな人に読んでもらいたいですか?



滝沢:この本はやっぱり、自治体の方々に読んでもらいたいですね。たぶん、知らないこともあると思いますし、そこで評判が良かったらまたみんな読んでくれると思うので(笑)。よろしくお願いします!


岡本貴之 おかもと たかゆき 1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。趣味はプロレス・格闘技観戦。著書は『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)」 この著者の記事一覧はこちら(岡本貴之)