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ド派手な車で走れない時代…パラ五輪で脚光あつめた「デコトラ」、日本の文化なのか?

2021年09月30日 11:41  弁護士ドットコム

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コロナ禍での東京五輪が終わってはやくも1カ月になろうとしている。もっとも注目されるべきアスリートの活躍よりも、運営方法の課題や、演出メンバーの直前の降板など、「失態」が取りざたされる五輪だったとも言えよう。しかし、そんな不平不満を漏らした人々にさえ「こういうのが見たかった」と言わせた存在が、パラ五輪開会式のデコトラだ。


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浮世絵の描かれたデコトラから、ギタリストの布袋寅泰さんが現れてギターをかき鳴らした場面は多くの視聴者の度肝を抜いた。



デコトラが注目をあつめるのは、パラ五輪だけではない。高級ブランド「GUCCI」が開催中の創設100周年イベントでは、「グッチデコトラ」が展示され、ファッションに敏感な人々がSNSに画像をあげている。



世界に「日本の文化」として紹介されたわけだが、当事者はどう感じたのだろうか。(編集部・塚田賢慎)



●世界に誇る文化

パラ五輪の開会式(8月24日)。ギラギラに輝く照明、伊藤若冲の浮世絵「樹花鳥獣図屏風」が描かれた荷台など、装飾をほどこしたデコトラの演出によって、視聴者はおおいに盛り上がった。



世界から注目される大舞台で「日本の文化」として紹介されたことに、デコトラ乗りの1人は「驚いたが、なによりうれしかった」と実感をこめる。



●違法改造車じゃないんです

「嫌いな人からは今も違法改造車として見られています。文化として取り上げられることはうれしいです」



デコトラが五輪で起用されたことについて、取材に答えたのは、茨城県の運送会社の代表・新井宏志さん(53)だ。



新井さんの会社は、仕事用のダンプカー5台と、趣味の「デコトラ(デコダンプ)」を3台所有する。



かつて、「光商事」という屋号を使っていたことから、デコトラ業界でも「光商事の黒いデコダンプ」は有名で、いくつかの車はプラモデルにもなっているほど。



今回の「浮世絵デコトラ」の感想も聞いてみると、愛好家にとって、実は流行りのモチーフではないという。



「トラック野郎が人気を博した昭和50年代ならいざ知らず。今は同業者で見ません。デコトラのイベント会場でも、浮世絵の車はちょっと脚光を浴びませんね。



ハリウッド映画で描かれる日本というか、いまだに忍者が現代で手裏剣投げているような。海外では喜ばれると思いますよ。五輪という海外向けのイベントですからね。そこで浮世絵デコトラを出すのは正しい選択かもしれません」



なお、菅原文太主演の映画「トラック野郎」が始まったのは1975年。東京五輪1964年大会から10年後のことだ。



●熱海の土石流被害に思うこと

「ワル」のイメージをもたれるデコトラでも、最近は「法令遵守」が当たり前だという。



新井さんも、今は仕事の車に地味なダンプを使っている。装飾した「デコダンプ」は、イベントや趣味のためのものと区別している。



過積載(規定を超えた積み荷)や、違法改造が横行していた時代もあった。



「今、これをやれば、仕事を失ってしまう。さらに、取引先にも迷惑をかけてしまいます。過積載は、走っている我々も悪いし、積ませている取引先も悪いということになりますから」





主な仕事は、建設残土や産業廃棄物などを中間処理場から最終処理場にまで運ぶことだ。



「かつては建設残土を地方の造成現場に運んでいましたが、ここ5年で熱海のような出来事が相次ぎ、各地の残土条例ができたことから、いまは処分場に運ぶようになりました」



今年7月に静岡・熱海の豪雨被害で発生した土石流被害では26人もの人が亡くなった。この件では、「不適切な盛り土」と土石流に因果関係があるのではないかと問題視され、被災住民らが9月28日、業者らに32億円もの損害賠償請求訴訟を起こした。



●違法じゃないのに、通報される

「昔は仕事でもデコダンプを使っていました。警察から取り締まりを受けることはありません。仕事用はもちろん、趣味のデコダンプも、違法性はなく、仮に突かれても問題ありません。ただ、目立つので、動画に出たり、走っているだけで、警察や取引先に苦情が何十件と寄せられます」



仕事でデコダンプを使わなくなった今でも、「誹謗中傷、やっかみやねたみで、いろんな通報を受けます。もう、飾った車で走れない時代です」



だからこそ、五輪にデコトラが起用されたことで、「人の見る目が変わってほしい」と話す。



●デコトラの新たな時代に進みたい

「諸説ありますが、デコトラは、鮮魚を運ぶトラックが始まりだと言われています。船が大漁旗をたなびかせ、満艦飾(電飾をつけた装飾)で港に帰ってくるのを陸で反映したのがデコトラ。



トラック野郎が、仕事でほとんど家にも帰れず、金の使い道として選んだのが、車を飾り立てることでした。



赤い照明は原則アウトです。うるさい音が出るマフラーもいけません。しかし、いくら派手な絵を描いて走っても道交法違反にはなりません。野放図にされていた時代に戻るのは反対ですが、まるっきりおとなしい車でもおもしろくないじゃないですか」