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『空挺ドラゴンズ』『ダンジョン飯』 食べられないはずの異世界飯に飯テロされる理由とは

2021年09月30日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 桑原太矩『空挺ドラゴンズ』と、九井諒子『ダンジョン飯』は、どちらも異世界を舞台にした冒険を描いたコミック。そしてどちらも異世界ならではの料理を美味しそうに食べる人たちを描いている。


 『空挺ドラゴンズ』の場合は龍、『ダンジョン飯』はモンスターといった具合に、どちらも現代人には珍妙だったり、グロテスクに見えたりする食材を使いながら、できあがる料理がどれも極上に見えてしまう。その理由は、食べる相手に対する深い知識であったり、食べるためにかけた労力であったりといったものがしっかりと描かれているからだ。


 2020年1月からテレビアニメ化されたこともあって、ファン層を広げた『空挺ドラゴンズ』は、空を行く捕龍船に乗って空中に生きている龍を狩る龍捕り(おろちとり)の人々の物語だ。龍といってもファンタジーに出てくるドラゴンという感じではなく、深海魚が巨大化したような風体で、さまざまな種類が存在する。捕龍船はそうした龍を獲っては肉を切り分け、油を絞り骨も皮も内蔵も処理して売りさばく。


 物語は、クイン・ザザ号という小型の捕龍船の乗組員達の日常を描きながら進んでいく。龍を獲って食うことしか考えていないミカや、美女で龍捕りとしての技術も確かなヴァナベルといった乗組員たちが、それぞれの過去と向き合うようなドラマを楽しめるが、そうした展開の中で、「龍をどうやって食うか」というグルメ漫画的なエピソードが添えられ、飯テロ気味に食欲をかき立てる。


 捕らえたばかりの龍を切り分け、焼いてステーキにしたものが美味しそうなのは当然として、叩いて薄くのばして衣を付け、油とバターを引いたフライパンの上で揚げ焼きして作る龍のカツレツも美味しそう。ヴァナベルが酢漬けのキャベツや芋といった余った食材と龍のカラギモを使い、夜食代わりに作ったテリーヌが出てきたら、酒とともに味わって夜中に大量のカロリーを摂取してしまいそうだ。


 そのヴァナベルが、自らの出自と改めて対峙するために戻った島国に、追いかけるようにやって来たミカたちと龍との戦いが描かれる最新の第11巻では、解体した龍肉のブロックやニンジン、カボチャといった食材を箱に入れ、穴の底に並べた焼いた石の上に置いて土をかけて蒸し焼きにする料理が登場する。大量の食材を現場で一気に調理できる優れ技だ。


 登場するどの料理も、架空の存在である龍肉が美味しそうに感じられるのは、しっかりした手順で調理され、しっかりとした絵で描画されているからだろう。紙の中、モニターの中にあって手を触れられない料理でありながら、次元を超えて漂ってくるその匂いもまた、『空挺ドラゴンズ』の大きな魅力だ。これが龍肉ではなく、牛や豚や羊などで作っても同じように美味なのか。しっかりとレシピも添えられているだけに、試してみたくなる。


 YouTubeには「マンガ食堂」というチャンネルがあり、いろいろな漫画作品に登場するメニューの再現に挑んでいる。その中には『空挺ドラゴンズ』と同様に、異世界が舞台になった『ダンジョン飯』に登場するメニューもあって、第7巻に登場する「魂のエッグベネディクト」や、第10巻に登場の「首刈りうさぎカレー」に挑んでいる。


「ダンジョン飯」(九井諒子)の魂のエッグベネディクト【漫画飯再現】/”DANJONMESHI” eggs Benedict

 エッグベネディクトは原作ではハーピーというモンスターの卵を使っているが、現実には存在しないため鶏の卵で代用。カレーの方も「首刈りうさぎ」ではなく、うさぎ肉を通販で買って使うという具合に現実とフィクションを融合させていておもしろい。


 竜に食われた妹のファリンを取り戻そうと、兄のライオスがダンジョンへと入ったものの金欠で食料を変えず、倒したモンスターを食べながら続ける冒険を描いた『ダンジョン飯』。


 はじめは大サソリも歩き茸もただ茹でただけで食べようとしていたが、以前からモンスターを料理して食べていたドワーフ族のセンシが合流して、サソリはハサミや尾を落とし、苦い内臓も取って使うこと、スライムも干して刻めば麺になると教えてくれた。この料理も蟹や椎茸やクラゲの干物で代用できそうだが、大コウモリや引き抜く時に人を殺す大声を出すマンドレイクは何で代用できるのか。考えてみるのも面白い。


 物語では、緑竜に炎竜にワイバーンに日本の竜とあらゆる物語の竜たちに囲まれ絶体絶命の中、食べることを通して得た竜やモンスターの知識が発揮される。肉や魚であってもモンスターであっても対象をとことん知ること。それが美味しい料理を作る秘訣なのかもしれない。


 最後にもうひとつだけ、気になる異世界料理をあげるとしたら、クール教信者による漫画『小林さんちのメイドラゴン』に登場するトールのしっぽ料理だろう。異世界から現代にやって来てプログラマーの小林さんと暮らすことになったトールという名のドラゴンが、隙を見て自分のしっぽを切り取り小林さんに食べさせようとするが、見る度に小林さんは料理を突き返す。カレーに混ぜても尻尾肉だけ避ける。


 トールによれば自分の尻尾は美味しくて、食べれば疲れも吹き飛ぶそうだが、断面がどうにもグロテスクな上にアニメ版だとギラギラしていて食欲が失せる。だからと言うこともあるが、小林さんが食べないのは友だちの尻尾を食べることに抵抗があるから。種族を超えた友情を感じる場面だが、実際、見た目に反して本当に美味しいのかどうか、ミカやセンシならどう料理するかが気になって仕方がない。


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